ロッティと半年点検1
2016年、秋。俺とロッティ(SR400)は風もなく、太陽も幾分か元気な日に外へと繰り出していた。
まもなく冬を迎えるせせらぎ街道を南へ、仙台の奥座敷とも云われる秋保へと進路を取った。
紅葉が最後の焔を萌やし、色付く景色を横目に乾いた空気を切り裂く。
「いやいや。にしてもロッティが来てから半年かぁ」
メーターに目をやれば、3400km程走ったことが分かる。半年でこれは多いのか少ないのか、よくわからなかったが、それだけの距離と時間を彼女と共に過ごしたということになる。
『貴方の操縦技術はさっぱり上達してないけどね』
「まぁね」
鼻で笑ってやる。良いんだ、それで。その言葉は口には出さずぎゅっと心の支柱へと結び付けた。身の丈に合わない速度での走行やコーナリングは事故の元に他ならない。
一旦会話は途切れたかに思えたが、直ぐにロッティが口を開いた。
『ねぇ貴方・・・・・・恋人っているじゃない?』
「う、うん」
唐突に切り出すものだから、ドキリとしてうっかりブレーキを踏みそうになった。恋人・・・・・・もしもロッティが俺のことをそういうふうに意識してくれていたのであれば嬉しい限りではあるが。
次の言葉を待った。
『・・・・・・恋人って、付き合って何ヶ月とか記念して贈り物だったり、美味しいものをご馳走してくれるものじゃない?』
「う、うん・・・・・・?」
どうかな、とも思うが口には出さない。俺は急に雲行きが怪しくなってきたのを肌で感じていた。
『私たちって付き合ってるじゃない?』
「・・・・・・」
分かった。分かったぞ! 外堀を埋められている感覚・・・・・・この自称美少女オートバイ、付き合ってるとかなんとか適当なことを言ってパーツを買わせる腹づもりに違いない。
ここは慎重に答えなければ・・・・・・
『付き合ってるじゃないッ‼?』
「はい、その通りでございますっ!」
完全に、機制を制された。1速で思い切り吹かしたかのような怒気でロッティが嘶く。前に振り出されそうになるのに対し必死に貧相な・・・・・・ではなくスレンダーなタンクをニーグリップして堪えた。
心臓が飛び出してしまうかに思われた。ここは慎重にならなければならない。
俺の命を握っているのは彼女なのだから。
『私ってばまだ、箱出し純正どノーマルなわけじゃない?』
「そ、そうですね」
『・・・・・・さて、一体何を買ってくれると言うのかしら?』
物騒なバイクだ。心の中で悪態をついてみせる。
まぁそうなるよな。視線を宙にやり、内心溜め息をついた。
「分かったよ・・・・・・」
新車で買ったロッティのローンはまだまだ残っており、家計は相変わらず厳しいものであったが、付き合って半年を記念して何か簡単なパーツくらいであれば、買ってやることも可能かと思われた。
『やった!』
フフフ、と呼吸のような微笑が聞こえ、ようやく身の安全を確認出来たのであった。
諸君らも走行は相棒のご機嫌には要注意されたし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます