ロッティと福島遠征2

 『距離数を稼ぐ』という趣旨のツーリングで目的地がなぜ福島・会津若松なのかというのにはもちろんしっかりとした理由があった。それは小学生時代の修学旅行が会津だったことにある。


 当時小学生だった俺は現代社会の中で愛くるしく育つも、歴史や風情を重んじる粋な少年でもあったのだ。修学旅行で会津若松観光が決定すると、何かの雑誌で読んで密かに憧れていた味噌田楽を食してみたいと思ったのであった。


 大昔に建てられた古民家、囲炉裏のある居間・・・・・・電気を使った灯りが一切存在せず、囲炉裏の炎だけが室内を照らす唯一の光源となっており、それを囲む人間たちの陰影を部屋の隅へと落とし込む。太古の昔から幾千回幾万回と営まれてきたであろう暖かみのあるグラデーションだ。


 その火を眺め、脇に刺された味噌田楽がじっくりと焼き上げられるのを談笑に耽って待つ。


 しばらくすると香ばしく味噌の焼けた匂いが『食べ頃だよ』と誘い、試しに1人が一本引き抜いて一口頬張ってみる。


 その一口が美味くない訳がない。


 舌を少々やけどしながらもしっかりと噛みしめ、味わい、飲み下す。その頬には笑みが溢れ、周りの人々も食べ頃を知る。すると先ほどまでの談笑など『所詮は前座』とばかりに皆一心に味噌田楽を頬張り、心ゆくまで味わうのだ。


 懸命に同じ班のメンバーを説得した。当時小学生だったこともあり、拙い言葉ではあったものの、丁寧に、それこそ囲炉裏に刺された味噌田楽の如くじっくりと時間を掛けて説明したつもりであった。


「オラ、味噌田楽が、食べたいんじゃぁ」


 儚い抵抗であった。


 古民家で食べる味噌田楽は小学生の持つお小遣いにはキツイ一撃となる価格であったのだ。根強い反対に遭い、泣く泣く他のメンバーとともに喜多方ラーメンを食べた。


 当時のことを思い出してみれば、ただただ後悔だけが蘇ってくる。


『あら、美味しいじゃない。喜多方ラーメン』


 かつての辛い思い出を吐露する俺に対しロッティ(SR400)はにべもなくそのように言うが、少年だった俺にとってその出来事は『挫折』としか言いようがなかった。己の無力感に苛まれ、怒り、悲しみ、絶望した・・・・・・とまではならなかったが、ことあるごとに思い出し、いたく残念に思っていたのであった。


「・・・・・・俺は、かつて食べられなかった味噌田楽を食べ、鶴ヶ城に登り、ついでに落城させて、裏磐梯の弓矢体験で的に命中させて、白虎刀を買って、最後に再び喜多方ラーメンを食べて、あの時成し得なかった青春を取り戻すんだ!」


 今一度、来たれ青春、カムバック。


 そう決意すれば、週末が異様に待ち遠しくなる。


「早速会津若松近郊の観光施設をインターネットで調べてみよう!」


 思い立ったが吉日と、パソコンを立ち上げた。


『貴方の精神年齢が小学生の頃から進歩してないのはわかったわ・・・・・・』


 青春という終わってしまったコンテンツの復習、もとい復讐に燃える俺を傍目に『付き合ってられない』と頭を横に振るロッティであった。

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