ロッティと福島遠征1
2016年、梅雨。展示会にて出逢ったSR400のロッティを電撃的に購入したものの、狙い済ましたが如く週末に雨が降ることが多く、なかなか乗れない日が続いていた。
平日の朝に晴れていても、夕方に天気が崩れることを予報が告げていたりもした為、バイクに乗ろうという踏ん切りがつかなかったのであった。
「なんだかなぁ」
梅雨なのだから仕方ないと言えば仕方ないのだが、こうも乗り出せない日が続けばバイク乗りならば誰だって嫌になるものだ。
『あら・・・・・・今週末は晴れるみたいよ?』
軒先から窓越しに腰を下ろしていたロッティがテレビの予報を見て言う。
「って言ってもねぇ、急に降ってきても嫌だし・・・・・・」
何よりタチが悪いのはその天気予報自体も確実なものではないところにあった。特に梅雨は極めて不安定だ。『雨』だと告げられていても結局一滴も降らなかったり、『晴れ』と言いながらも途端にどしゃ降りになってしまうことも少なくない。
『随分と煮え切らないのね。まぁ出かけないにしてもちゃんと磨いて欲しいわ』
(そりゃアレだけ雨が嫌だと言われれば、慎重にもなるって)
彼女、SR400は雨が大嫌いであり、雨天に外へ連れ出そうものならば俺は蹴り殺される恐れがあった。
そんなものだから、ロッティを購入してから間も無く1ヶ月が経とうとしていたのに、彼女に乗った回数は片手の指で数えられる程度であった。
しかし、1ヶ月。1ヶ月と言えば何か大切なことを忘れている気がする。頭の片隅に追いやられた記憶を捜索するように、視線を右上部へと移す。その記憶の中では誰かが喋っていた。
「・・・・・・・・・・・・下さいねー」
「・・・・・・走っておいて下さいねー」
「初回点検のために1000kmくらいは走っておいて下さいねー」
・・・・・・思い出した! そう言ったのはロッティを売買していた代理店のスタッフである。ついでに初回点検無料やオイル交換無料のチケットも貰っていたのだった。
その時、俺の脳内では『1000km走らなければ初回点検を受けるに値しない』という攻撃的な図式が完成した。折角貰ったオイルチケットが無駄になってしまう。兎にも角にも、1000km走らなければならない。
俺はすぐにロッティのメーターを確認した。
総走行距離278kmであった。
「よしっ‼ 福島行こう!」
『なぜそうなるのよ!?』
宮城県仙台市の西の外れにあるせせらぎ町から福島県会津若松市までは約150km。往復で300kmは稼げる。
そして晴れた日は職場と家の往復で1日20km、平日すべて乗ることができれば100km。合計700kmくらいにはなる。
1,000kmまでちょっと足りないがそれでも及第点と言えよう。
『・・・・・・正に取らぬ狸のなんちゃらね。にしてもどうして福島なの? 山形や岩手では駄目なの?』
「パスポートを持ってないから」
縄張り意識の強い山形人と岩手人に射撃(石弓)されては困るし、捕まったら最悪火炙りにされてしまう。
『貴方、すべての東北人に謝るべきね・・・・・・ってどうして岩手山形はダメで福島は大丈夫なの?』
そんなものは決まっている。
「福島は東京に近いじゃん」
『その発想がすでに田舎者ね』
身も蓋もない、とロッティは呆れ顔を見せてくれた。
兎にも角にも急遽福島遠征は計画されることになった。
※2020年現在、岩手人と山形人が石弓で仙台人を攻撃するという事例は報告されていません。この場を借りてお詫び申し上げます。
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