ロッティとすり抜け2
のんびりとした早朝ツーリング、空気も澄んでいて風が心地良い。ここまでしっかり彼女に乗るのは初めてかもしれない。
『にしても』ロッティ(SR400)がボソリと洩らした。
『貴方・・・・・・凄まじくお粗末なライディングね』
自分自身が所有するバイクに言われてみると、かなりショッキングな一言であった。多少自覚はあったとしてもだ。
「ご、ゴメン・・・・・・もう少し上手に捌いてあげられると良いんだけどね」
本音を言えばタンク(彼女で言えば胸部に当たる)があまりに細すぎてニーグリップがしづらいのだ。180cmに間も無く届くであろう俺の身体はか細いロッティの車体に跨ると逆に持て余してしまうのだ。
教習所でお世話になったスーフォアの豊満な・・・・・・ではなくがっしりとした存在感のタンクを思い出した。
あれは大変素晴らしいものであった。
『何か言った?』
「いや」
折角3回も蹴り返されて何とか掛けたエンジンだ。道端でエンストされでもしたら大変なことになる。
またロッティは新車での購入だったので余計に『倒してはいけない』という意識が働いた。中古車だから倒しても良いとはならないが、何となく気を張ってしまっていたのだ。
『困るわね・・・・・・かのヤマハ発動機が40年近くその系譜を絶やさない最高にクラシックでモダンな美少女二輪車である私が、貴方のように下手っぴなライダーに扱われるなんて』
「何もそこまで言わなくても・・・・・・」
ってか美少女二輪車って・・・・・・何その新しいジャンル。最高だな。
いちいち心にグサリと刺さる小言を言われながら、俺は交差点で停止した。もちろん初心者たる俺は左車線の左端にいた。
大きな道路に差し掛かっていたその交差点では交通量も多かったせいか若干渋滞気味であった。後ろに後続車がどんどん並んでいく。
そんな刹那、キープレフトを心がける俺たちのさらに左側を一台のスクーターが掠めていった。
つまり『すり抜け』をしていったのだ。
『うわっ!? ・・・・・・あ、あぶないわね、ぶつかったらどうすんのよっ!』
最早聞こえないであろう距離からロッティがエンジンを介して唸り声を挙げた。
「まぁ、原付の特権だよね」
道路交通法に於いてすり抜けは非常に微妙な立ち位置で、違反になることもあればならないこともあるらしく、一概に良いとも悪いとも言えないのであった。
ロッティは苛立ちを露わにして見せたが、俺も渋滞は好きじゃないし、だからこそすり抜けをするライダーの気持ちも分からなくもない。
それでも俺がすり抜けをしない理由はただ単にすり抜けするテクニックと自信がないだけであった。
そして次はハーレーを駆るおじさん2人組みがバリバリと稲妻のような排気音を残し、俺たちの右側をすり抜けしながら、更には渋滞中の車の間を縫うようにして走っていった。
『・・・・・・ぐぬぬ・・・・・・何てお行儀の悪い・・・・・・ッ! お願いだから貴方はしないで頂戴!』
今世紀最高のモダンでクラシックな美少女二輪車を自称するロッティとしては先を越される焦りや苛立ちもあるのだろう。いちいち腹を立てて見せた。
「うん、まぁ俺はしないかなー」
訂正する。出来ないが正しい。
『あら、素直じゃない・・・・・・例え超絶下手っぴな残念ライダーでもそういう方が好きよ、私』
「ねぇ・・・・・・それって褒めてるの?」
結局、すり抜けするテクニックと自信がなかっただけとは言えず終いであった。
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