第9話 星降りの歌

 星降りの大祭。

 数多の星々を天に結び、地上への落下を阻止する儀式。その中心となる歌姫は、星々と意識を通わせるという役目があった。


 歌姫となったカエデを中心に、星の神殿の歌い手たちが、天に星々を結び付ける。


 最初、その儀式は成功し、人々に希望を見せる。

 だが、星の数はあまりに多く、全ての星々を天に結び付けることができなかった。


 それはほんの小さな星。だが、その星を皮切りに、数多くの星が大地へと向かっていく。


 その事態に人々の希望は絶望にかわる。それは歌い手たちも同じ。


 どうしても結ぶことができなくなったこの事態に、彼女たちは歌うことができなくなっていた。





「結局、どう抗っても滅びに向かう。星樹が朽ちた世界では、一つの精霊ではどうにもならん。のう、サクラ。お主は何を考えておった」


 眼下で続く大混乱の中、老婆は一人夜空を見上げていた。


 無数の星々が雨のように降り注ぐ。燃える様に輝く軌跡。その中には、大地に突き刺さるものもあった。


 世界の終焉を告げる音。揺れる大地。絶え間ない星々の群れ。

 絶望という名の帳が、静かにその時を待っていた。


「巫女様!」

 荒々しく開いた扉を放置し、シズが部屋の中に駆けこんできた。


「巫女様! なにとぞ星を!」

 瞬時にテラスにいる老婆を見つけ、シズは老婆に迫っていた。


「無駄じゃ」

 深々とため息をついた老婆の眼は深く、暗いものだった。振り返り、何か言おうとするシズを制して、老婆は大きく息を吐く。


「結び切れない星は大地に落ちる。当然じゃ。もはやこの命をかけても同じこと。よもやこれほどとは儂も思っておらなんだからな。せっかく生まれた精霊も、これでは結びきれんじゃろう。それに……。この有様では祈るまい」


 深々とため息をついた老婆の背を、輝く光が包み込む。振り返った老婆の眼に、確かな希望の光となって飛び込んできた。


 大祭の広場のはるか向こうに、星樹から。


「おお、星樹が!? まさか!? モミジか!」

 駆け寄り、震えるその手でテラスの淵をつかむ老婆。驚く口を閉じたあと、振り返り、強い口調で告げていた。


「歌える全ての星の歌い手を集めよ! 皆もきっと見ておる。あれは希望の光ぞ! 急げ! モミジと共に星降りの大祭を成し遂げるんじゃ!」


 駆けだすシズを見送り、再び外を見つめる老婆。その顔を、一筋の涙が流れ落ちる。


「サクラ、見せてやりたかったわい」

 急いで部屋をでる老婆の顔は、決意で引き締められていた。

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