第4話 出会いの歌

「雨……。冷たい雨……」

 星樹のもとで、何かに問いかけていたモミジ。ふと見上げると、晴れわたる空で、ここだけが雨になっているようだった。


「通り雨。灰色の世界をもっと灰色に染めていく。何もない世界」

俯く視線は独り言を紡ぎだす。他に人がいない事も、モミジをいつもより饒舌にしたのだろう。


 そんな中、爽やかな風がモミジの頬を優しくなでる。

 ほのかな甘い香りと共に、モミジの頭に声が響く。


「いや、ここには雨がある。それに、世界にはたくさんの色がある。見ようとしなければ、見えない色が。それでは真実もまた見えない」


 驚くモミジは顔を上げ、そこに少年の姿を見つけていた。何もなかったはずの世界に、突然現れたその少年。


 その姿は、モミジに灰色の世界でないものを見せていた。


「――いつからそこに?」

 やっと絞り出した小さな声は、風と共に流されていた。


 周囲の景色を楽しんでいる少年。そのキラキラと光る眼差しに、モミジは引き込まれていった。


――こんなにも世界は美しい。


 それを見た瞬間、モミジはそう感じていた。それは、モミジが忘れていた気持ちだったのだろう。


 その瞬間、モミジは何かが欠ける音を感じていた。

 だが、戸惑いの中にいるモミジは、ただ俯くしかできなかった。


「どうしたの?」

 そう告げて、モミジの頭に手を伸ばした少年は、その黒髪を撫で始める。

 その瞬間、懐かしい記憶が蘇るモミジ。

 温かな気持ちの中に、モミジは不意に取り込まれていく。


「…………。いつから? どこから? 誰もいなかったのに……」

 気恥ずかしくうつむいたまま発した声。それはあまりに小さいものだったと、モミジは自覚していた。


 だが、その声は少年に届いていた。それが当然というばかりに、少年はモミジの頭をなでながら、その答えを返していた。


「あっち? かな? んー……?」

 見上げて、上を指さす少年。しかも、小首をかしげて、真剣に考え込んでいる。


「へんなの」

 予想もしていなかった答えとその態度に、思わず小さく笑うモミジ。


 しかし、次の瞬間。

 モミジは驚きに目を見開いていた。


「え⁉ 私……、笑ってる……?」

 口元を抑えたモミジの瞳から、一筋の涙が零れ落ちていた。

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