第24話 ~アザー・ピープル・マメトーーク! Vol.03~

 私は翔野しょうのまりこ。カナダ・オンタリオ州の最大都市である、トロントで暮らす日本人です。


 日本では空前のお笑いブーム到来で、元々同調圧力の強かった我が国ではあったのですが、それによって更に加速した感は否めません。丸でお笑いが好きじゃなければ、人間では無いみたいな風潮です。


 その様な日本での閉塞感から逃れたくて、私は国外へと飛び立ったのでした。


 一応カナダに行く建前としましては、「沢山の海外芸能人に会いたいのです」と、周囲の人達には話しておきました。すると、「え? それだったら渡米してハルウッドじゃないの?」ってなツッコミは散々入れられましたので、それはもう良いですよ。


 と言うかですね、よその国へ行けさえすれば、実は理由なんてどうでも良かったのですね。


 元来私ってば、考えるより行動するタイプですので、結果的に「あちゃー、失敗!」ってな事もしばしばです。でもそれはご愛嬌って事で、どうか許して頂戴な、なのです。


 さて、今現在の私は、トロントに店舗を構えている日本食レストラン・「葉隠亭はがくれてい」にて、ウェイトレスとして働かせてもらっております。ここのお店は、元々カナダに在住している親戚の叔父さんが経営をしており、だから私のカナダへの移住も、滞り無くスムーズに行えた訳なのですね。


 尚、葉隠亭での接客ですが、自動運転機能付きのローラースケートにて、お料理を運ぶサービスを提供しており、開店当時はちょっとした話題となったそうです。


 このくだんのローラースケートですが、元々は足の不自由な人達の為の歩行支援機にと開発された物だったのですが、「これって色々と汎用性が高いんじゃね?」と言う事で、まずは試験的に、こう言った接客業に導入された訳なのです。因みに、開発者は日本人の天堂任てんどうまかせと言うお爺ちゃんらしく、何でも「落語家」で「発明家」で「ゲーマー」で「ミーチューバー」なのだとか。何じゃそらです。

 しかもこの歩行器がすこぶる快適で、皆がこぞって装着すると言った、一大ムーブメントが起きてしまったのでありまする。


 ですので、今では街の彼方此方あちらこちらで、このローラー靴を履いている人を確認出来てしまう有様なのですね。


 いやはやしかし、海外へ出てみて、とても分かった事が有りまする。それは、「日本では極々当たり前の事」何かがですね、「外国では非常識だよ」ってなパターンが、山程あったりする事なのですな。そんな時に、「ああ、日本って便利で良い国だったんだな」と、もの凄く実感するのでありまする。


 あと、何所いずこの国へ赴きましょうとも、「結局そこに居るのは人間」でありまして、「何処どこも大して変わりは無いんだな」って事も認識したりです。

 昔の誰ぞのヒット曲で、確かそれっぽい事を言っていたのを思い出しました。「良い奴ばかりじゃないけど、悪い奴ばかりでもない」。正にそんな感じです。

 人間関係や環境だって、良い所も有るし、悪い所もあります。それに、私の職場はお食事処ですし、それこそ色んなお客さんが来る訳です。気前の良い人、良く笑う人、無口な人、嫌な人……って、これを言い出せば果てしがないですね。


 要は何が言いたいのかと申しますと、「結局は何所へ行こうが一緒でした」と言うお話ですね。その証拠に、私は日本のお笑いブームから逃れて来たと言うのに、ここカナダでも徐々にではありますが、メイド・イン・ジャパンのお笑いブームが訪れて来ているのです。


 この様に、私はお笑いを避けて来た人種でありまするからして、そびえ立つ素人であること山の如しで、お笑いの才覚はナッシングだと自負しておりまする。


 けれど幸運な事にですね、私には初対面の人に対しての、鉄板の自己紹介があったりします。小さい頃からの自身の髪型のポニーテール(小型の馬の尻尾)と、まりこと言う本名を掛け合わせたあだ名が「うまり」なので、「うまり呼んで下さいねー」と言う、少し茶目っ気を入れた駄洒落ピーアールです。←なるほど、まったくつまらん。


 これが日本では、何の面白味もない自己紹介なのではありますが、ここカナダでは何故か爆笑の嵐でありました。

 そうして、「やっぱり、まりこは日本人だな。面白過ぎる」と言った謎の喝采を浴びる事となりました。んまあ、けれどもこの挨拶の御陰で、すんなり周囲と仲良くなれた訳ですけどね。


 ……ううむ、それにしても、本当にそんなに面白い事は言ってないのですけれど……外国の人のは分かりませぬな……。


 そうそう、話は変わりますけれど、実はこんな私にもですね、ちょっとした自慢話がありまして。

 私はあのジャイロたけしさんに、唯一、なびかなかった女と言うのが、密かな誇りだったりするのですよ。


 当時の彼は日本のバラエティ番組の企画にて、アメリカ大陸を縦断中との事でした。ですが、道中で少々進路を誤ってしまったみたいで、お隣の国であるここカナダに、ほんの数日だけ滞在していたのです。

 そこで私達のお店である葉隠亭に、ジャイロたけしさん達一行が立ち寄った際、私はめっちゃ口説かれました。そして、めっちゃ迷惑でした。


 ……うーん、確かに目力が強い男性だとは思いましたけれども、感想としてはそれのみです。そして、どうもお笑いのツボが全然違うみたいで、私は彼の発言では、クスリとも笑えませんでした。


 それに、その時は私自身も渡加とかしたばかりと言う事もあり、特にお笑いとは距離を置きたくて、そんなに笑えなかったと言う面も大きかったのでしょう。


 と言うかですね、「彼は色んな女の人を、取っ替え引っ替えしている遊び人らしいから気を付けて」と、叔父さんや常連のお客さん達に注意を促されておりましたから、それだけでもうね……。


 何より彼の顔もあんましタイプじゃないです。いや、むしろ生理的に無理な顔でした。


 そして、彼の事を嫌いになった決定打がこれですね。そう、ジャイロたけしさんは私に面と向かい、「今はこれが精一杯」と言う台詞と共に、いたずらグッズの、リアルな大きめの「鼻」のおもちゃを手渡して来たのです。


 ええ、このパロディの意味は、流石の私でも分かりますですよ。これは、○パン三世・カリオスト○の城の有名なシーンですね。……と言うかですね、私はこの作品の大ファンなのですよ。……と言うかですね、「小さな花」の代わりに「大きな鼻」って……。


 えっと、確か顔相診断がんそうしんだんの世界では、「鼻が大きい男性はあそこも大きい」と言った説が有るらしいのですけれど、まさかこれって、「俺様のアソコはでっかいぜ」アピールだったりするのかしら。……だとしたら最低なんですけど……。


 それから、更に追い打ちをかける様にですね、ジャイロたけしさんに同行するカメラマンさんが、「いや、此奴こやつはとんでもないものを盗もうとしています」と切り出しました。私が、「はい?」と怪訝そうな表情で答えると、「あなたのみさおです」とドヤ顔で言い放ちます。


 ジャイロたけしさんとカメラマンさんは大爆笑です。


 これに対して、一応近くに居た叔父さんや常連のお客さん達は、お付き合い的に笑ってあげていましたけれども、私の顔は凍てついた表情となっておりました。そうして、心の中では、「キモイ」を連呼ですよ。


 んもう、今思い出しても、本当に腹が立ちますね。と言うかですね、誰だって大好きなアニメ作品を、こんな笑えないパロディで汚されたら怒りますって。※作者は心臓を締め付けられる思いで悶えています。


 そうですね、正直、ジャイロたけしさんとカメラマンさんのお二人には、カリオスト○城の地下への落とし穴に突き落としたい程の殺意が湧き上がりましたよ。と言うかですね、何が「今はこれが精一杯」だよ。お前は常に「性欲が一杯」の猿野郎だろボケが!


 ……おっと、ご免なさい。ちょっと取り乱して暴言が……。


 そう、略して通称「カリ城」と呼ばれている件の作品なのですけれど、私の人生のバイブル的アニメだったもので、ついつい怒りが頂点に。……あ? 誰よ? 今「カリ首」とか言ったの!


 兎も角ですよ、それからも数日間に及び、ジャイロたけしさんの執拗な私へのアタックを断り続けた結果、彼にはヒッチハイクでゴールすると言う目的があった為に、いつの間にやらカナダから出国しておりました。


 去り際の彼はと言いますと、「とても悔しそうで淋しそうだったよ」と、あとから叔父さんや常連のお客さん達が話してくれました。と言うかですね、ジャイロたけしさんがこの街を離れたその日に、私は非番だったものでして(笑)。


 その後、ジャイロたけしさんはアメリカ大陸縦断を達成し、無事日本に帰国したと言う事は、風の噂で聞いております。しかも、この米国滞在中にハルウッドで役者デビューしちゃったと言う快挙は、単純に凄い事だとは思いますけどね。


 ふふ、「狙った獲物は逃がさない」が信条であるジャイロたけしさんが、「たった一度だけ逃してしまった女」と言いますのが、かく言う私こと翔野まりこなのですよ。


 ……と言うかですね、まあ、今更こんな話をした所とて、土台信じては貰えず、多くの方はそれこそ「笑い話」として受け流す事でしょう。ですので、これなるエピソードはですね、これからも私の心の奥底にでもしまっておいて、黙っておく事と致します。


 ……ふぅ、と言うかですね、彼との一連のいざこざを思い出しちゃいましたらば、何だかどっと疲れが出てしまいましたよ……。


 ……んー、そう言えばお笑いが大の好物である叔父さんや常連のお客さん達曰く、「疲労回復にはお笑いの動画を観るのが、他の何よりも効果的だよ」って言ってたっけな……。


 ……そうなのですよなぁ……今やここ、カナダでも、ぼちぼちと日本産のお笑いがブームとなって来ている訳ですしねぇ……。


 よし、決めました。と言うかですね、今日は葉隠亭も定休日なのです。今まで日本のお笑いに一切興味は無かったのですけれど、良い機会ですからして、本日は私もゆっくり居宅きょたくのお部屋にて、人気のお笑い芸人さんを動画サイトでチェックしてみましょうっと。


 ……ふむふむ、と言うかですね、人気の上位を占めるのは、殆どが高校生のお笑い芸人さん達なのですね。


 ……えっと、何々? ダダンダウンさんに、金色こんじきマカロンさんに、志國三ここさんさんですか……ほへぇー、と言うかですね、ナイトメアー・ビフォア・ハロウィーンズさんに至っては、何と五歳児トリオなのですか。


 ううむ、今まで食わず嫌いをして来ましたので、がっつりとお笑い芸人さんを視聴するのは、本当にこれが初めて御座いますですよ。


 はい、ではでは、彼・彼女ら、高校生芸人さんのネタを拝見する事と致しましょう。と言うかですね、この私を大爆笑の渦に巻き込んでご覧なさいよってな感じですよ。ふっふっふ、と言うかですね、是非ともに、この私の腹筋を大崩壊させて頂きたいものですな、えへらへら。


 ……この様な軽口を叩いて、おおよそ数分後です。


「……あれれ? ……なになに、何ですか? ……え? と言うかですね、これって、もしかして過当に面白いのでは? ……と言うかですね、ブフォ!」


 思わず飲んでいたコーヒーを盛大に噴き出してしまい、笑い転げてしまいましたよ。


「……ふぅー……お、面白いじゃないですかぁ……と言うかですね、えっと、ティッシュは何処ですか……や、と言うかですね、それより布巾ですか……」


 ……はぁ~、今までお笑いって物を、ここまで真剣に観ていなかったのですけれど、日本のお笑いってこんなにも笑えて、こんなにもハイクオリティだったのだと感銘を受けましたよ。


 ……と言うかですね、「日本のお笑いが面白い」と言う、この事に対しましてもですね、ここ、カナダに来たからこそ、気が付けた事なのだと思いますですよ。


 ……いえ、と言うかですね、正直、ナイトメアー・ビフォア・ハロウィーンズさんの芸だけは、お世辞にも面白いとは言えず、お遊戯の域を出ないレベルでしたけれども……あっ、あれです。彼女達は可愛い犬猫の癒しムービーと同義ですよ。


 そしてですね、高校生芸人の中でも断トツ人気でありまする、このダダンダウンさんのお二方が、頻繁にネタの中で仰っている事はですよ、「お笑いで世界制覇をしてやる」との事なのですね。

 果たして、冗談なのか本気なのかは分かりかねますが、彼らがこの面白さを有しているのであるならば、何だかって退けそうな勢いを、感じざるを得ませんですね。


 ……ふーむ、と言うかですね、まだまだ高校生なのに、皆さん凄いですなぁ……。


 ……はっ、そういや私ってばさ、こんなに大笑いをしたのって、一体何時いつ振りだったので御座いましょう?


 お笑いが、いては、笑うと言う事は、何と言う素晴らしい事なので御座いましょうか。いやはや、何とも、こんなにも元気が出る物だったので御座いますですね。


 ……むむー、こうなって来るとですよ? 私を元気付けてくれちゃった、彼・彼女達高校生芸人のネタライブを、生のライブにて観たくなって来ちゃいましたぞ。


 ううん。と言うかですね、是非とも行こうよ、行っちゃおうよ、私。うん。分かったー、行く行く私ー。……なーんてね、みたいな。←あーね。こりゃ、お笑いの資質ゼロだわ。


 ふふ、こうして楽しみと言いますか、目的と言いますか、その事を思うたびに、私は又、自ずと笑顔になって行くのです。


 さてさて、その観ていた動画サイトにて、所謂いわゆる、「自動再生機能」をオンにしていたのですが、次に映し出された映像は、「日本と言えば」的な色々な映像をまとめたヒーリングムービーでした。

 恐らくは検索にて、「日本」、「お笑い」と絞り込んでいたので、その関連動画がヒットしたのでしょう。

 ええ、その映像には、富士山や京都を始め、日本各地の美しい風景が次々と映し出されたのち、最後は日の丸をバックに、桜が満開の映像で締め括られるのでありました。


 ……と言うかですね、実は京中きょうじゅうは私の故郷だったりするのですよ。桜の季節の古都ことも良いのですよね。……毎年お花見に行っていたなぁ……。


「うん……そうですね。春になったら、帰りましょう……日本へ」


 そう、私の祖国であり、郷国きょうこくの。

 お笑いの国、ジパングへ。


 了。

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お笑いの国ジパング ~フリースタイルで、一億総ストリートコメディバトル~ とほかみエミタメ @Tohokamiemitame

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