第23話 ~煜焔のこぼれない話~

「なはは、ゆうの家に来るのって今日が初めてやで。んー、当たり前やけど、煜の匂いがするわー」

「ふん。平凡過ぎる中流中の中流家庭で、至極詰まらぬ限りよ。いっその事貧困にあえぐ所帯ならば、お笑い芸人らしく面白エピソードが生成されるのだがな」

「なはは、それは別にええやんけ。第一線で活躍しとるプロのお笑い芸人さんかて、普通の家庭の人が多いがな。んまあ、中には大金持ちの人も居るけども、十人十色でええんやで」

「ふん。何度も言わせるな圭助よ。一般大衆と同じでは面白くないんだよ。ふん。僕は何時の日にか、この家が全濡ずぶぬれにでもなって倒壊すれば良いのにと、大真面目に思っているからな」

「なはは、何をぬかしとんねんお前は。その考え方は、完全に途轍も無いキ○ガイサイコパスのそれやんけ。心の闇が深過ぎるやろ。頼むさかいだけは止めてくれよ」

「ふん。それは「水を掛けろ」、ひいては「やれ」と言うだよな?」

「なはは、ちゃうわボケ! どんだけお笑いに毒されてんねん。常識とボケを混同すんなや。何でもかんでもお笑いに変換しとったら、何時いつか破滅しよんで」

「ふん。お笑いで死ねるのならば、まさに本望よ。所で圭助けいすけよ。今日は家に誰も。夜には両親も帰ってくるし、妹だって居るんだぞ」

「なはは、はぁ、さいでっか。って、急に何を言いだしとんねんお前は。あたかも、「初めて彼氏を家に招き入れる彼女」みたいな言い回ししやがって。しかも家族もみなるんやろ? 到って正常やんけ」

「ふん。そのシチュエーションを意識して発言したに決まっておろうが。だから肉体関係を持とうとするのは御法度ごはっとだぞ☆」

「なはは、するかボケ! ホンマきっしょいな自分。……なはは、せやけど、この手のネタは人を選ぶし、あんま多様せん方向で行こうで」


 二階にある焔煜ほむらゆうの部屋に入り、二人は新作ネタのミーティングに入る。そんな折、焔煜の妹が部屋のドアをノックした後に入室する。


「ふん。我が妹である焔結ほむらゆいか。僕の相方が客人として来ているのだ。茶を持てい」

「はい。かしこまりました兄様にいさま。美味しい御紅茶を入れて参ります。少々お時間を頂きますが、心を込めて、新堂圭助しんどうけいすけ様を歓待かんたいしとう存じます」

「なはは、どうぞお気遣い無くですわ。煜から話には聞いてましたで。そかそか、君が煜のの結ちゃん何やね。なはは、初めまして。高校生芸人コンビ・ダダンダウンで、焔煜の相方でツッコミを担当させてもろうとる新堂圭助です。宜しゅうにやでー」

「ふん。いきなり馴れ馴れしいな。もしかして貴様、年上好きの皮を被ったロリコンなのではあるまいな?」

「なはは、やかましわ! 結ちゃんの前でなんちゅう事を言うねんなお前は! それに徹頭徹尾てっとうてつびにミディアム過ぎる挨拶やったやろがいや!」

「ふふ。矢張り兄様の相方だけ御座いまして、誠にもって面白う御座いますね。いえ。美味しいケーキも御座いますので、是非ともお召し上がり下さいませ、新堂圭助様。では。片時程失礼致します」


 しずしずと、しかし笑顔を絶やさぬまま、焔結は部屋を後にする。


「なはは、何や何や。拗者すねものの煜とはちごうて、素直でええ子やないか。俺の見た感じやと、結ちゃんは小学校一年生位に見えんねんけど?」

「ふん。ああ見えて高学年突入記念の小学校四年生だ。どちらにせよ、全世界の小児性愛者しょうにせいあいしゃ大歓喜だな。ふん。全員根こそぎ児童ポルノでしょっ引かれちまえ」

「なはは、そうなんやな。んまあ、どのようにもあれ、しっかりした妹ちゃんやんけ。煜と同じ環境で、ようもあんなええ子に育ったな」

「ふん。僕以外の家族は皆あんなものさ。言い換えるとだな、お笑いとは無縁の退屈な人間共だ」

「なはは、そないな事言うてもな、人には得手不得手っちゅうもんがあるやんかいさ。煜のご家族はお笑いに向いてへんかったっちゅうだけの話やで。それにほら、結ちゃんを見てみいや。笑顔が素敵やん? この長所が活かせる物事は、世の中に五万ごまんとありますわ」

「ふん。あの愚妹の笑顔が素晴らしいだと? あんなどんな状況でも笑う事が出来る作り笑いの偽物がか? 彼奴きゃつなんぞ、このお笑い至上主義の世にいて、ボケの一つもかませぬ傀儡子くぐつよ」

「なはは、何もそこまで言わんでもええやないか。それに常にスマイルが出来るって凄いやん。それって立派な才能やで」

「ふん。誰とも争いたく無いが故に編み出した、奴らなりの処世術さ。ふん。んまあ、数年後にその不満が爆発し、何者かを刃物でめった刺しにする近未来までは予想出来るがな」

「なはは、ホンマになんちゅう事を言うねんなお前は! 実の家族になんぞ怨みでもあるんかいや! それやったら煜だけ刺されたらええねん! いや、それやったら結ちゃんが罪に問われる! せやさかいワレがオノレをさして自爆したらええねや!」

「ふん。怒濤の罵倒に僕はご立腹だ。ぷんすこぷん」

「……お? 何や何や? っぺたを膨らませて不満たっぷりの顔をしよってからに! そう言う萌え仕草はむしろ結ちゃんにやらせなアカンねや! ワレみたいなもんがやって誰が得すんねんな! もっとお客さんサービスを意識せえよ! もうアカン! このままやったら結ちゃんが不幸になるだけやわ! 俺んとこの麻琴と、お前の妹ちゃんを交換しようや!」

「ふん。どさくさに紛れて貴様が苦手とする麻琴君と交換したいだけじゃねえか。僕としてはそれも構わないのであるが、そんな理由では妹はやれんし、貴様が結のになるのは気に食わん。ふん。貴様みたいな者には、精精せいぜいこんにゃくオ○ニーでのソロプレイがお似合いよ」

「なはは、ほんなら、せめてTEN○Aをフル活用する事をお許し下さいや。ちゅうか、何でそないな下世話な話にまで陥ったんや! ! もうええわ!」


 このタイミングで丁度お茶を運んで来た焔結。咄嗟に乗っかってしまった下ネタ系のりに、新堂圭助は顔を赤らめる。


 だが、焔結はその様子を見て、やはり誰もが癒される天使の様な微笑みを見せるのである。


 その屈託くったくの無い笑顔である焔結の素振りに、新堂圭助は身も心も浄化されて行くのであった。


 毎度お馴染み、「ふん」と「なはは」のとある日より(笑)。

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