第22話 ~春菜佐藤と光坂本のこぼれない話~

 坂本光さかもとひかるはお笑い至上主義である今の日本に不満を持っていた。何がお笑い大国日本だよ、と。


 世の中には、その類の波に乗れない人間も大勢居るのだ。


 坂本光はこの事に対して、S.O.B.の現場にと言う手段でテロ行為を行う事を決意する。

 テロの語源は英語の「テロリズム(terrorism)」を略した物であり、元々はラテン語で「恐怖」を意味する「terror」からだ。


 これにより、例え坂本光が志半こころざしなかばで倒れたとしても、第二第三の坂本光の意志を継いだ者が現れるだろう。そいつが真の狙いなのだ。


 そう、要は脅威を拡散出来ればそれで良いのである。


 まず坂本光が目を付けたのは、性転換をしてお笑いの人気的には落ちぶれてしまった、元オネエ系芸人の佐藤春菜さとうはるなであった。


 そうだ、この女をテロの前座に使ってやろうと、坂本光は思い付く。


 お笑いと言う物がどれほど愚かで下らなく、その末路が如何に惨めだと言う現実を世間に知らしめる絶好の見本となるからだ。


 それに、坂本光が最近になって発明した、「飲めば無条件で坂本光の命令に従う」ってな万能媚薬を、人体実験にて試してみたかったと言う面もあった。


 何時もは坂本光の考えとは裏腹に、今現在の日本人特有である、体が勝手に動いて、変におちゃらけた研究(ボケる)ばかりを実践していたのではあるが、今回は初めてまともな秘薬として、奇跡的生成に好結果を出せた形なのである。実以じつもって、坂本光の執念とも言える代物であると言えよう。


 尚、坂本光が一番に毛嫌いする物はお笑いであるが、次に嫌悪感を抱く物が、今や市民権をすっかり得た「オカマ」である。そう、特に嫌う理由等は、坂本光本人にも説明は出来ないが、どうしても好き嫌いが生じてしまうのが我々人間であるからして。


 なので、自身が忌み嫌う物を傷付け、更には利用出来るとあらば、坂本光に取っては正しく一石二鳥であるのだ。


 坂本光は佐藤春菜がに魅せられており、ここ最近は都内近郊にある水辺のキャンプ場へと、頻繁に赴いている事を知っていた。佐藤春菜が釣りッターにて、しばしば呟きを発信していたからである。


 坂本光は佐藤春菜がアップロードするSNSの些細な情報から、佐藤春菜の自宅住所を調べ上げ、そうやって彼女の動向を日毎夜毎ひごとよごと・暇さえあれば監視し、接触の機会を伺っていた……って、これってもろにストーカーですやんか。ちゅうかホンマはコイツ、佐藤春菜の事をめっちゃ好きなんちゃうのんけ。


 そして、いよいよ坂本光は作戦を決行。不本意ではあるがくだんの野営場にて、坂本光は口移しでこの媚薬を佐藤春菜に飲ます事に成功する。……って、ほらほら見てみぃ。薬を飲ます方法かて他にも色々あるやろうに、何故に口づけをチョイスしたんや。やっぱコイツ佐藤春菜がめっさ好きやんかいさ。早よ籍入れたれや。


 結果、この薬品は思いの外、効き目があった様で、佐藤春菜は坂本光の従順な下僕と化したのである。


 ……いや、もしかしたら佐藤春菜には、実際には大して効能は無かったのかもしれない。


 崖っぷちにいた佐藤春菜に、突然の非日常がもたらした衝撃に加えて、理想の男性と結ばれたかった願望等々が、プラシーボ効果をもたらしただけなのかもしれぬのだ。


 かるが故に、真相は藪の中である。


 因みに、坂本光の見立てでは、この特効薬の薬効は精々一日程度だったらしい。


 孤独が闇を引き寄せたのか、闇が孤独を欲したのかは定かではないが、当事件は、そんな悲喜劇であったのだ。


 では、捕らえられた佐藤春菜と坂本光の後日譚を少しばかり。


 正犯せいはんであった佐藤春菜ではあるが、坂本光の開発した怪しい薬物により心神耗弱しんしんこうじゃく状態であり、情状酌量の余地があるとして、裁判では懲役三年、執行猶予六年の判決を言い渡される。「あと、初犯だったし、美人だし、何より私が佐藤春菜のファンだからね。出血大サービスで、大幅に減刑して差し上げちゃった♪」とは、裁判長談である。


 しかしながら、佐藤春菜は七転び八起きの精神を発揮し、このファクトを奇警なやり口で逆手に取ったのだ。何と彼女は公判中にも関わらず、異例のワイドショーに出演する等をしてお茶の間を賑わせ、後に執筆・出版した自叙伝、「釜の春菜は。」がベストセラーとなり、再ブレイクで無事に芸能界への復帰を果たすのである。更には、この著書はアニメ映画化が成されて一大ムーブメントを巻き起こし、主題歌を唄うロックバンド・「RADTRANSSEXUAL|(ラッドトランスセクシャル)」の、「前前前立腺」もトリプルミリオンセラーを記録するメガヒットとなるのであった。


 片や教唆犯きょうさはんである坂本光の方であるが、この楽しきお笑いの世の中に対し、非常に身勝手極まり無い所為であるに留まらず、その甚大なる危険思想が社会に与えたインパクトは計り知れないとして、裁判で懲役十年の実刑判決が言い渡された。「あと、初犯だけど、私が世界で一番嫉妬する対象の、所謂いわゆるイケメンと呼ばれている人種だし、しかも、私よりも上位ランクの大卒ってのが超むかつくのよね。もっと刑を加重しても良い位だぜ、クソが!!」とは、「カーッ、ペッ!」と下品に痰唾を吐きながらの裁判長談である。……っちゅうか、この裁判長最悪やな。どう見ても私情を差し挟んでますやんか。ホンマに有り難う御座いました。


 だが、刑が執行されてから、丁度ワンクールのTVアニメーションが終了する頃に、坂本光の考えに賛同する某国のテロリスト集団の手引きにより、坂本光は懲役監ちょうえきかんからの脱獄に成功。いずこかの複数国を転々としつつ、人目を忍びながらの潜伏は長期間に及んだ。


 それから数年後、まさか坂本光が世界最大規模の国際テロ組織を率いる中心人物となり、第三次世界大戦を引き起こすキープレーヤーになろうなどとは、一体誰が予想し得たであろうか。


 だが心配する事なかれだ。塀の外で何が起ころうとも、日本だけは我関せずえんと言う態度にて、相変わらずS.O.B.にかまけ、それこそ「お笑いのボケ」ならぬ、「平和ボケ」だろうと、ツッコむのも馬鹿らしくなるお気楽街道一直線で乗り切ってしまうのである。


 これにより、色んな意味合いでも諸外国から笑いのネタとなり、まさにお笑いを提供する、お笑い大国・日本としての威厳を示したのであった。


 クックック、実にお笑いの国ジパングらしいエピソードであると言えようで、ありんす。

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