第19話 ~綯目立のこぼれない話~
篠塚恵実は普段から男装をしており、宝○歌劇団の男役を彷彿とさせる女子である。彼女は何時もミュージカル調の歌を唄いながら校内を
この様な、相当浮いたキャラクターの篠塚恵美に対し、クラスメートの者達は極力関わり合いたくないと、完璧無視を決め込んでいた訳である。
お笑い至上主義の現代日本に
だが、そんな中で唯一篠塚恵美にツッコミを入れ続けてくれていたのが、何を隠そう、目立綯であったのだ。
目立綯は得意とする物真似で、幾人ものバリエーションでツッコミを入れる事が可能であった。なので、丸で複数の人間が篠塚恵美に対してツッコミを入れている様な錯覚に陥ってしまうのである。そう、これこそが、目立綯流・物真似芸の真骨頂であるのだ。
ある時目立綯は、試しに篠塚恵実の物真似を、篠塚恵美本人の目の前で披露して見せたのである。すると、その物真似の著しき完成度に、篠塚恵実は大層御満悦だったそうな。
これらの様な交流を経て、目立綯と篠塚恵実とは完全に打ち解けて、とても仲睦まじい関係となったのである。
尚、目立綯には歳の離れた弟と妹が居り、良く絵本の読み聞かせをしてあげている。
そうしてある日に、目立綯はふと思う。自分自身の、この物真似と言う芸を駆使すれば、お笑いの世界で天下を取れるのではないのか、と。
しかし、目立綯は物真似をしている時以外は、どちらかと言うと引っ込み思案な性格なのである。なので、ピンの芸人でやっていくのには少し不安であったので、やるならコンビだろうと考えていた。
当然相方は、篠塚恵実一択だ。「こっ、これはもしかすれば……もっ、物凄いお笑いコンビになるのでは……」等と思いを馳せる目立綯であった。
早速目立綯は、翌日にも、その心持ちを篠塚恵美に伝える。
しかし、篠塚恵実の返答はこうであった。「~♪お笑い芸人は無理であるが~、マネージャーなら引き受けても良いぞ~♪」と。
篠塚恵美曰く、全くと言っていいほど、お笑い芸人に興味は無いとの事である。
目立綯は、「そっ、そっか……しっ、進路は宝塚○劇団への……にゅっ、入学希望だもんね……」と言うと、篠塚恵実は、「~♪いや~、堅実に公務員志望であるぞ~♪」との返答。何だこいつ。意味が分からん。だがそれがいい!! と、思う目立綯だった。
だがまあ、それでも一緒にやってくれるならと、マネージャーでも構わないからとお願いをした目立綯であった。
その後、目立綯と篠塚恵実は二人揃って、「ワタナベエンターテインメント学芸大学附属高等学校」へと進学する。
んまあ、なんやかんやあって、高校生芸人のカースト上位であるダダンダウン、志國三、金色マカロン等々の面々と知り合う事になるのである。
そんな高校生芸人としての充実した日々である目立綯には、もう一つの顔がある。もうお気付きの事だとは思うが、物真似の切っ掛けが漫画・アニメであるからして、目立綯は所謂、「マンガ・アニメオタク」である。
そのオタク具合はどの程度かと申しますと、自身が執筆した二次創作物の同人誌を引っ提げて、同人誌即売会に売り手として参加する位のオタクっぷりである。
この点でも、篠塚恵実と知り合えた事は幸運であったと、目立綯は感じていた。篠塚恵実は前述の通り、宝塚歌○団然とした見た目であるからして、コスプレをしても見栄えが映える訳である。そう、何らかのキャラコスをして、売り子何ぞをしてくれた日にゃ、注目の的&売り本爆売れで、良い事尽くめなのである。
さてさて、これは五月某日の話である。この日も
だがしかし、こう言う時に限って、会いたくも無い人間に遭遇したりするのも世の常だったりする。何時の時代にも迷惑行為を行う人種は、一定数湧いて出る物なのだ。
どう言う事かと申しますと、
世は空前のお笑い至上主義時代。そんなに面白くもない連中が名を上げようと、
そこへ持って来て、先の
今やS.O.B.の挑戦者から応戦者となってしまった目立綯。この様な逆転劇が、日常茶飯事として行われているのが、今のお笑い大国・日本なのである。
そのドキュン共は目立綯を見付けるなり、いきなり「自分達とS.O.B.対決をしろや」と高圧的に命令する。
いやはやしかし、普通に話し掛けてくれるのであれば、それ相応の対応の所を、どうしてこう言った連中は、相手を威圧する態度に全勢力を注ぐのか。不快さマックスである。
取り敢えず、目立綯サイドとしては、「……ほっ、本日は、いち同人作家として……きょっ、今日のイベントに参加しておりますもので……あのっ……えっ、S.O.B.は……ごっ、ご遠慮下さい……すすっ、すみません……」と断りを入れる。
だが、それでもドキュンサイドが引き下がる様子は無く、
そう、この
そんな風に、目立綯達がほとほと困り果てていたその時に、颯爽と現れる正義の味方が登場である。そう、西園寺亜矢華と愉快な仲間達が到着したのだ。
実はこの日の前日に、「~♪我々が同人誌即売会に売り主として参加致しますので~、宜しければ来てみてくれ賜え~♪」と言った趣旨のメールを、篠塚恵実が高校生芸人達に一斉送信していたのだった。
さすれば、まさかの全員参加だったと言う訳である。
何せダダンダウンを始め、金色マカロンや志國三と、人気の高校生芸人が揃い踏みだ。
更には、この近くを
後は、おまけで暇だった凸×凹も来ていたみたい(雑)。
そうして、最初にダダンダウンの二人が、「ふん。S.O.B.なら僕らが相手になってやるぞ」「なはは、いっちょやったろうやないかい」と口火を切る。すると立て続けに、「ガッハッハ、俺様を差し置いて目立ってんじゃねーぞダダンダウン、バッキャロー、コンニャロー!」「にはは、相も変わらずジャイロたけしさんってば、プロの芸人さんが、高校生芸人相手に大人気無いッスねー」「フッ、
そして、とどめに西園寺亜矢華の鶴の一声、「オーッホッホッホ! と言いますか、ドキュンな貴男方二人は商売の邪魔なのですわ。S.O.B.は本人同士の同意が得られなければ無効ですのよ。わたくし、ビジネスを邪魔する輩が、最も腹立たしく感じるのですわ。社会的にも物理的にも抹殺されたく無いのであれば、とっととそこをお退きなさいな!」のお言葉にて一蹴する。
それだけかと思いきや、ジャイロたけしの駄目出しまでもが炸裂し、「ガッハッハ、さっきからテメェらドキュン二人組の
ドキュン二匹はすっかり戦意喪失。すごすごと本会場を後にするのであった。
そうである。この様な素晴らしき仲間と巡り会えた事を、目立綯は高校生芸人になって、本当に良かったとも感じた瞬間であった。
「あっ、あの……みっ、みんな……きっ、来てくれたんだね……あっ、有り難う……ごっ、
「なはは、目立さん声
「~♪これは申し訳無い~。物真似をしている時以外は~、超絶コミュニケーション障害の目立に変わって~、礼を言わせて貰うぞ諸君~。勿論ワタクシからも礼を言うぞ~♪」
「オーッホッホッホ! ビジネスの匂いがする所にわたくしの存在有りですわ! そして、何を隠そう本日のこのイベントも、我が西園寺財閥が主催ですのよ! これからは同人販売の方面でも、商業活動を広げたいと思っているのですわ! 本日わたくしがこちらに伺った理由ですけれども、盛況ぶりを視察しに来るのも、責任者として当然だからですのよ、オーッホッホッホ!」
「フッ、実はボク達志國三も、今日はこちらの式場にて営業が入っていましてね。時間が重なり、丁度良かったってな話ですよ」
「ふん。西園寺亜矢華と優輝誾も素直じゃないな。本当は友達思いで義理堅く、超絶良い奴らのくせに照れ隠しをしやがってよ。ふん。僕の場合はガチで訳も分からず、圭助の奴に連れて来られたのだけどな」
「なはは、煜は自身の携帯メールの扱い方もままなってまへんねや。せやさかい案の定、着信にも気付いてへんかったんで、俺が無理矢理連れてきたんですわ」
「ふん。いらぬ事を抜かすな圭助よ。ふん。それにしても、この会場の人の多さは何なんだ? 暑苦しくて敵わんぞ」
「~♪今回は中規模クラスの同人即売会なので~、夏季・冬季の年二回開催される~、もっと大きな有名即売会では~、ここよりもウン十倍の人出になるのだよ~♪」
「ふん。僕は花火大会もテレビ中継で済ます人間だぞ。もうそっちの方の、どでかいイベントとやらはお断りだからな。二度と来ないぞこんな人混み大会なんぞ!」
「なはは、煜はこないなこと言うてますけどな、頼んだらぶつくさ言いつつも来てくれる様なツンデレ人間ですわ。今日かて妹ちゃんに買うて来て欲しいグッズを土壇場で頼まれたさかい、嫌々ながらも来場したんやもんな?」
「ふん。だから余計な事を言うなと言っておろう圭助。それは僕のキャラ崩壊
「なはは、せやけど皆の顔を見てみ?
「ふん。……ふんー!!!」
~♪何はともあれ~、目立綯も篠塚恵美も~、滅茶苦茶嬉しかったと言うお話~♪
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます