第18話 ~生生生生ダダンダウン~

 ふん。ここは大手TV放送局の敷地内で、何時いつもは「たけしのニッポンのワロタ!」の収録が行われているスタジオ現場である。本日は生放送と言う事で、通常とは違う雰囲気らしいのだ。ふん。そもそも普段の佇まいってのがどんなだか分からんし、僕からすれば「知らんがな」って話だけどな。


 ふん。本番前のリハーサルも滞りなく終わり、今は番組前半用のVTR撮影を行っている最中だ。その内容は、近日公開予定のハルウッド映画、「スカー・ウソォーズ」のシリーズ最新作、「スシネタの最後ダジェイ」の出演者達のスペシャルトーク……と言う名の番宣である。その模様を、「スカー・ウソォーズ」ファンの僕と圭助は、制作現場の隅より見守っている只中ただなかなのだ。


「ふん。数日前の試写会にもおもむいたのだが、その時と同じく映画の話ばかりで、特に面白い話もしなさそうだな。ふん。ハリセン・ドォーツクドも含めた他の四人も完全に俳優業がメインとなり、お笑いは二の次の退屈なタレントと成り果てちまったよな」

「なはは、せやな。笑いを取る事をないがしろにしとる感じは否めへんよな。ハルウッドに進出する前の、彼らのお笑いライブなんて神懸かみがかっとたったのにな。何ちゅう体たらくやっちゅう話やわ。なはは、全米のコメディアンが泣いとんで」

「ふん。実に下らん。対ジャイロたけしとのS.O.B.に備えて精神統一をする為に、僕はとっとと楽屋へと戻るぞ」

「なはは、気合いをブチ込む為に集中せなアカンもんな。俺は今回の番組に呼ばれてへん身やさかい、一緒に楽屋には行かれへんけども、煜は一人でいけるか? 忘れもんはあらへんか? ハンカチとティッシュは持っとるか? おやつは三百円までやで?」

「ふん。小学生の時の母親か貴様は。しかもシチュエーションは遠足かよ。ふふ。心躍るよな」

「なはは、前日は興奮して寝られへんよね。それから気温が高い日にチョコレート菓子を買うてもうてたら最悪やね。溶けてどろどろの異物と化した、かつてチョコ菓子やった何かとご対面やからな。おや? 向こうからやって来るのは金色こんじきマカロンの二人やで。なはは、折角やし、もううちょいだけ煜も雑談していけや」

「オーッホッホッホ! 当番組の責任者であるわたくしが、今回は特別に様子を見に来て差し上げましたのよ。大金を投入したこの特別番組で、失敗は許されないですからね、オーッホッホッホ! ……それはそうとして、麻琴まことさんのお兄様は、やけに可愛らしいメイド服を着込んで、一体どうなさいましたの? 本日の番組プログラムでは、麻琴さんのお兄様の出番はありませんのに……」

「なはは、西園寺亜矢華さいおんじあやかさんがツッコミ入れてくれて良かったですわ。だってゆうはこの恰好の事を、いじってくれへんし、どないしょう思ってた所なんですわ」

「にはは、あーしの美貌びぼうに感化されちゃってー、お兄ちゃんってば、到頭とうとう女装に目覚めちゃったんスよねー?」

「なはは、ちゃうわアホ。あんな? これは煜の奴と軽はずみな賭けをして負けてもうたんや。こら、それの罰ゲームやねんね。ほいで、このを着込んで、煜に一日奉仕せなアカンねや」

「にはは、えー、何スかーそれー? もしかしてBL枠とか狙っちゃってる感じッスかー?」

「ふん。ねぎらってくれるのが麻琴君ならだしも、「ザ・男」と言った圭助の奉公なんぞ、受ける気は毛頭無いがな」

「にはは、流石は煜先輩ッスー。嬉しい事を言ってくれるッスよねー。……じゃあお望み通りにー♥あーしがメイド服を着て慰めてあげますッスよー♥にはは、勿論年齢制限が跳ね上がっちゃう方向性でもオッケーッスからねー♥」

「ふん。……ふんー!!!」

「なはは、リンゴみたいなな顔になってもうて、鼻息かて春の嵐みたく荒うなっとるやないか煜。せやけど騙されたらアカンて。何遍なんべんも言いますけどもな、麻琴は俺のおとうと――……」

「にはは、ちょっとお兄ちゃん! それはおおやけでは言わない約束でしょッスよー! んもう!」

「なはは、こらついうっかりや。すまんすまん。……って、コラ麻琴! 腹いせに、俺の御居処おいどを執拗に指浣腸するのは止めなさい! 我が新堂家の沽券こけんに関わる行為やし、いちじるしゅう品位に欠けとるぞ!」

「ふん。麻琴君のメイドさん姿を想像していたら、ちょっとムラムラしてきたので、トイレの個室に三十秒くらい籠もって来るわ。しからばちょっくら、では失敬」

「なはは、お前一体何するつもりやねん。ちゅうか三十秒でええんか。ちと早ない?」

「オホホ、あら、そっち方面での慰安いあんならわたくしも得意ですし、そのプライベート・ルームでの処理をお手伝いしてもよろしくってよ。是非とも西園寺亜矢華流、をたっぷりと味わって頂きたいですわね、オーッホッホッホ!」

「なはは、そんな、西園寺亜矢華さん迄も御下劣おげれつな……しかも何ちゅう卑猥な発言も添えて! んもう、なんでやねん! なんで煜だけモテんねん! 俺も今現在こないな形貌なりかたちしとるし、何やむっさ哀しくなってきたわ!」

「ふん。しかしお笑い的には中々にではないか。良かったな、圭助」

「オーッホッホッホ! それにで御座いますわね、正直、そのメイド姿は滅茶苦茶似合っていますわよ。やはりそこは麻琴さんのお兄様だと言えますわよね。もしかして人によってはで御座いますわね、「誰よりも断然美しいです」と仰るお方が殺到するのではなくって? オーッホッホッホ!」

「なはは、それホンマでっか! いやはや、俺もそらちょいおもうとった所なんですわ。麻琴の言う通り、マジで女装子デビューしちゃおうかしらん」

「オーッホッホッホ! 今のその見た目ならば、たとえわたくしとて、貴男あなたの初めてを奪った挙げ句、妊娠させなきゃと思わせる眉目形みめかたちでしてよ、オーッホッホッホ!」

「なはは、出来ればそこはノーマルなエッチでお願いしたいんですけどね! ちゅうか、こないチャンスはもうあれへんかもしれへんし、どうぞ抱いておくんなまし!」

「にはは、駄目ッスよー。亜矢華先輩にはあーしだけを見ていて欲しいんスー。つーか、お兄ちゃんとか絶対に辞めといた方が良いッスよー? なにせ、お尻とか超臭いんスからー。その証拠としてー、さっきお兄ちゃんのアナルと密接に触れ合ったー、あーしの人差し指をにおってみて下さいッスよー」

「なはは、西園寺亜矢華さんにそないな汚れ仕事をさせる訳にはアカンやろ。どれどれ、俺が代表していだるわいね。……クンクン、スンスン、クンカクンカ……ホンマや! くっさ!! 何やコレ!!!」

「オーッホッホッホ! 麻琴さんったら焼き餅かしら? お可愛いらしいことですわ。ですがこうなれば、焔焔さんの女装姿も見たくなってきましたわね。どうかわたくしの為になさっては下さらないかしら? だってとってもいじ甲斐がいがありそうなのですもの、オーッホッホッホ!」

「ふん。危ない女だ。そして、その要求は御免蒙ごめんこうむる。僕が女装なんぞしてみろ。女を凌駕する余りの美しさで、世の男性諸君の新たな性癖を開眼してしまうだろう。そうなれば、少子化に拍車を掛け、国益を損ねてしまうからな」

「オーッホッホッホ! あらあら、それは益々ますます見てみたくなってしまいましたわね。オホホ、何だか次の番組企画が思い付きそうですわよ、オーッホッホッホ!」

「ふん。ダダンダウンと金色マカロンのコラボ即興コントは、一先ひとずここまでとしようぜ。さて、僕はそろそろ楽屋へと戻るからな」

「オホホ、……あっ、少々お待ちになって焔焔さん。麻琴さんのお兄様の女装だとか、そんなしょうもない事はどうでも良いのですわ」

「なはは、ガーンやで。俺ショックやで。西園寺亜矢華さんにしょうもない言われてもうたで。ちょい俺、死んで来るわやで」

「オーッホッホッホ! それよりもわたくし、「人生で一度は言ってみたい台詞」と言う物が御座いますのよ。そいつを今こそ、ここで発言する事をお許し下さりませな。……オーッホッホッホ! 焔煜さん! ここはわたくし達に任せて先に行け! なのですわ!」

「ふん。急に何を言い出すのかと思ったら、そんな追っ手が迫る様な緊迫したシーンでは全然無くてだな、僕は普通に楽屋へと向かうだけなのだが。お部屋に用意されていたお弁当とお菓子が早く食べたいし、もう行っても良いかね?」

「なはは、こないなお茶目な西園寺亜矢華さんも魅力的やなぁ。…………いっぱいちゅき♡」

「オーッホッホッホ! 因みに焔焔さんとジャイロたけしのS.O.B.終盤には、志國三ここさんの三人を乱入させる様に手配しておりますのよ。これにより本日の番組は、より一層盛り上がる事でしょうね、オーッホッホッホ!」

「ふん。正に独裁者・西園寺亜矢華の独擅場だな。やりたい放題かよ」

「オーッホッホッホ! 一応他にも、凸×凹デッコーボッコー篠塚恵実しのづかえみ目立綯めだちないにもお声掛け致しましたが、出張営業があるとかで無理なのでしたわ」

「なはは、彼・彼女らも一応あの逮捕に立ち会うたヒーローやもんな。あれ以降人気急上昇中やもん。そら、「お手柄高校生芸人グループ、犯罪テロリストを召し捕る」ってな感じでニュースにも取り上げられて、警察に表彰までされたんや。みんなりだこにもなるて」

「オホホ、そうだとしても、わたくしの誘いを断るなんて良い度胸ですの、と思いまして、もしもチャラついた営業周りでもしていよう物ならば、文句の一つでも言ってやろうかと思ったのですわ。ですけれども、四人で児童養護施設や老人福祉施設をボランティアで廻っているらしいんですの。これにはわたくしなどが、兎や角言える筋合いでは御座いませんことよ。「お疲れ様ですの」の一言なのですわ」

「ふん。西園寺亜矢華よ、随分と朗らかで嬉しそうな表情をしているじゃないか。貴様は冷徹を具現化したかの様な女帝キャラと違うのかね」

「オーッホッホッホ! わたくしを一体何だとお思いですの。あんまり行きすぎた言動を繰り返しておりますと、いくら焔煜さんと言えども、ただでは置きません事よ、オーッホッホッホ!」

「なはは、その仕打ちって女王様プレイ的なアレでっしゃろ? 俺は別にドMちゃうけど、煜の奴と変わって差し上げたいわ。ええなーええなー」

「ふん。圭助は西園寺亜矢華になら殺されても文句は言わなさそうだね。幸せな人だね。うん、これに関して、もうこれ以上何も言う事は無いですだね。……ふん。んまあ、あれから高校生芸人同士の絆も深まって、僕個人の感覚ではだね、全て世は事も無しと言った所だね」

「オホホ、そうですわね。の一件以来、わたくし達が仲間と言った感じになったのは確実なのですわ」

「にはは、でもあーしらもプロのお笑い芸人になったならー、皆がライバル同志になる訳ッスよねー。馴れ合いで生き残っていける程、芸能界はそんなに甘くない世界ッスからー」

「オホホ、そうですわね。そうなったらば、誰であろうと商売敵なのですわ。ですけれども、それもやむを得ない事ですのよ。そうやって競い合い、お互いを高めて行くのが、お笑い芸人としてのエキスパートと言う物なのですわ」

「なはは、せやな。そこは俺らダダンダウンも譲れへんし、絶対に負けへんでー」

「オーッホッホッホ! さてさて、それでは今から志國三にスタンバイの連絡をしておくと致しますわ。予定としてはゴージャスなイリュージョンにて、このスタジオごと爆破するド派手なご登場をして頂く予定なのですわよ、オーッホッホッホ!」

「ふん。気は確かか貴様。そんなのただの放送事故になっちまうだろ。……いいか呼ぶなよ! 絶対に志國三を呼ぶなよ!」

「オーッホッホッホ! それは坂本先生を誘き寄せた時にも使用致しました、所謂、芸人的暗黙の了解のネタ振りですわよね? 即ちそれは、「志國三を呼べ」と言う事に他なりませんわ。オホホ、心配御無用ですの。重重承知の上に、深く心得ておりますことよ、オーッホッホッホ!」

「ふん。にんまりと笑いながら携帯を弄ってんなよ。ふん。どうせこのはだよ、「より派手にお願い致しますわね」と言った旨の要望メールを志國三に送りやがったのであろうぜ。ふう。やれやれ、覆水盆に返らずだぞ」


 ふん。さあて、このスペシャル番組は一体どうなってしまうのか!? ……と、ここで一旦CMでーす!

 

   *


 ふん。僕に用意された楽屋へと戻る途中に、ジュースの自動販売機が置かれている休憩所があった。


「ふん。そう言えば部屋に準備されていた飲み物に、僕好みの物が無かったよな。どれ、ここで購入して行くとしようかい」


 すると、そこに設置されていた長椅子に、普通にちょこんと座っている姫乃麗と遭遇する。ふむ。眼鏡を掛けていないので、今はKAGUYAかぐや-HIMEひめだな。


 ふん。まあ、ジャイロたけしに連れ去られたとは言え、ガチでどこかの犯罪グループとかに誘拐された訳では無いのだし、この状況は当たり前っちゃ当たり前だよな。


 そのKAGUYA-HIMEであるが、任○堂のコンピュータゲーム・マ○オシリーズのヒロインである、キ○コ王国のお姫様のコスプレ衣装を施されており、何だか大人びて見えてちょっとエロい。ふむ。まあアレよな。大真面目に女の人っちゅうもんは、服装や髪型や化粧によりにけり、驚くほど別人の様に化けやがるっつー話だぜ。


 ふん。それとだね、くだんのピ○チ姫はメガネっ娘ではありませんで、眼鏡有りVer.の姫乃麗よりも、眼鏡無しVer.のKAGUYA-HIMEが採用されたってな感じじゃろうのう。これはきっと、「キャラクターのイメージを崩さぬように」との、スポンサー様の強い意向なのであろうな。


 ふん。因みに、この後で僕もマリ○の恰好に。そして、ジャイロたけしは大魔王ク○パの仮装をさせられるらしいのだがね。


「ふん。やはり通常はピー○姫が妥当だよな。んまあ、僕はデ○ジー姫派なのだが」

「……よっ、焔煜。ははっ、今日は宜しくな。てか、何か変な事に巻き込んじまってすまねぇなってぇの」

「ふん。そんな事は気にするな。むしろこんな形で地上波デビュー出来るなんて願ったり叶ったりなのだ。僕の方が礼を言うべきだぞ」

「はは、そう言ってもらえると助かるよ。てか、色々と私の耳にも入って来てんぜ? を捕まえるプランを立てたのって、てめぇだったんだろ? てか、凄ぇじゃんかってぇの! ヒュー、焔煜様カックイイー! ヒューヒューってぇの♪」

「ふん。実動部隊は他の高校生芸人連中で、僕は特に何もしていないし、褒められるいわれは無い。ふん。そんな事よりも、君の方こそ大丈夫かね? どう見ても空元気からげんきで振る舞っている様にしか見えないのだが?」

「はっ、バレバレかよ。てか、どうしててめぇは、私なんかの為にここまでしてくれるんだよ。……ああ、てか、単に同級生だからか。……はは、てめぇは昔から、みんなに分け隔て無く優しかったもんなってぇの……」


 ふん。KAGUYA-HIMEの瞳を見れば、今にも落涙らくるいしそうなのである。


「ふん。エンディングまで、泣くんじゃない。泣けばマスカラが落ちて、目からどす黒い雫が流れ出てしまうぞ。メーク直しもしなくちゃならないし、メイクアップアーティストさんにも迷惑が掛かっちゃう」

「な、泣いて何か無いし。……てか、泣く訳がねーしってぇの!」

「ふん。強がりだけは一端いっぱしだな。そして、先程さきほど君が言った僕の動機だが、何度でも言ってやるぞ。ふん。君の事が好きだからだよ。愛する女子を守りたいと思うのに、理由がいるのかね?」

「……ったく、てめぇはマジにブレないよなってぇの……」

「ふん。案ずるな。全て上手く行くさ。僕を信じて泥船に乗ったつもりで任せておけよ」

「へへっ、ここに来てベッタベタのボケかよ。てか、それを言うなら大船に乗ったつもりだろってぇの」

「ふん。素敵な笑顔が出来るじゃないか。それで良い。芸人は人を笑わせてなんぼだからな」

「へっ、分かってるってぇの。てか、それには自分自身が笑ってなくちゃ駄目だろってな話だよな。……てか、有り難うな焔煜。随分と元気が出てきたぜってぇの」

「ふん。そいつは良かったな。ふむ。では僕は行くぞ。いい加減に楽屋のお弁当とお菓子を食べさせておくれよってな有り様だ。本当に腹ぺこなのだよ。ふん。では、お互い本番を頑張ろうぞ」


 ふん。僕はドリンクを二本購入し、その内の一本を去り際にKAGUYA-HIMEに手渡した。ふふ。バッチリ決まったな。これには彼女も僕にメロメロだろうよ。ふふん。


「てか、焔煜ってぇの!」

「ふん。それは僕の奢りだよ。これ以上無粋な事は言わんで宜しい」

「そうじゃねぇんだよ。てか、めっちゃ言いにくいんだけど、こればっかりは言わせてくれってぇの」

「ふん。一体何なのだ、KAGUYA-HIMEよ? もしや君への恋慕に対する答えをアンサーソングに乗せて、この場で今直ぐにでも歌ってくれるとでも言うのかね?」

「違うんだなこれが。てか、私ってば炭酸飲料が嫌いなんだよ。ほれ、てめぇの持ってるお茶と交換してくれやってぇの」

「ふん。……イヤ~ン、あらやだ~ご免ね~。ハ~イ、取り替えっこしましょうね~んでありんすよ~」


 ふん。ついつい焦ってしまって、何だか佐藤春菜みたいなオネエ言葉になっちまったし、超超格好悪い展開に。

 ふへ。不覚過ぎる僕。あな恥ずかしや、恥ずかしや。


   *


 ふん。いよいよ、「たけしのニッポンのワロタ!」のスペシャル特番生放送が、「今夜決定! ジャイロたけしとダダンダウンの焔煜とが、一人の乙女を巡ってガチンコS.O.B.!」みたいな煽りナレーションと共に始まった。同時に番組スタジオ観覧席も大盛り上がりとなる。


 オープニングで、ジャイロたけしがKAGUYA-HIMEを拉致し、それを僕が救いに来たと言うシチュエーションの説明がなされ、番組はスタートした。その後、前半の「スカー・ウソォーズ」出演者達のスペシャルトークと言う流れも順調に終了する。


 そうして、今回はスペシャル企画・エクストラS.O.B.と銘打って、僕とジャイロたけしの勝負は開始された訳だ。


 しかも今回は特別ルールとして、負けた方には罰ゲームのおまけ付きである。んまあ、最早バラエティ番組では定番であろう。


 ふん。熱湯風呂だろうが、わさび寿司だろうが、超激不味マズの飲料だろうが何でも来い。負けても芸人的には「おいしい」仕打ちよ。今回この地上波デビュー出来たチャンスを大いに利用し、いては爪痕を残して、お笑いでの世界制覇の糧としてやろうじゃないか。


 ふむ。収録スタジオも豪華に改装されていて、天井に吊された大きな檻にKAGUYA-HIMEが捕らわれており、それを○リオ役であるこの僕が、大魔王クッ○に扮するジャイロたけしに立ち向かうってなていの設定である。


 ふん。そして、今回は出演を見合わされた圭助であったが、もしも次が有るのであれば、マ○オの双子の弟であるル○ージ役を務めさせてあげようと考える僕ってば、とっても相方思いで優しい人間だよな、うんうん。


 ……ふん。賢明な読者諸君であるのならば、もうとっくの昔にお気付でありましょうが、今回がっつり関わっているこのスポンサー様は、紛うかたなき、あの任○堂様である。ふん。露聊つゆいささかも許可を得ずに、マジ大丈夫かよこの作品。


 ふん。なので戦々恐々である関係者各位様の為に、ここで保険用的な魔法の常套句を投入しておきますね。張り切ってどうぞ。


【この物語はフィクションです。登場する人物・企業・団体・地名・名称・事件及び事故等は全て架空の物であり、実在のものとは一切関係ありません】


 ふん。さてさて、この世紀の対決方法は大喜利三本勝負と来たもんだ。そして、この勝敗のジャッジは、引き続きハルウッドのゲスト俳優四人が審査する事となっている。


「ガッハッハ、おい、ハリセンと愉快な仲間共。どうせテメェらは番宣で来た様な、しみったれろくでなしだからな。酷くぞんざいに扱って、ちゃんと泣かしてやるぜ。ガッハッハ、そうやって悲嘆に暮れながら、さっさと国へ帰りやがれ、バッキャロー、コンニャロー!」

「ハッハッハ、折角遙々せっかくはるばるジャパンに来てやったのに、その言い草はなんだってんだ、たけし! そんな事をしてみろ? ミーをはじめとするは、全員ジャパニーズの高校生芸人が大好きなんだぜ。なのでスパッと不正を行っちゃって、皆が焔煜に投票する事も出来るんだからな、ばっきゃろう、こんにゃろう!」


 ふん。これは勿論ガチの喧嘩では無く、ジャイロたけしとハリセン・ドォーツクドの馴れ合い的掛け合いだ。その証拠に、他のハルウッド勢も弄られればニコニコしているしな。ふむ。ジャイロたけしを中心に、気心の知れた仲間って感じがするぜ。流石はハルウッド映画で何度も競演している仲だと言えよう。


 ふん。そんなジャイロたけしとハリセン・ドォーツクドの即興漫才を挟みつつ、エクストラS.O.B.は開始された。


 ふん。発表された最初のお題だが、【KAGUYA-HIMEを物にする方法とは?】であった。ふむ。いきなり初っ端から難題である。


 ふん。挑戦者扱いの僕が先攻か後攻かを選択出来たので、慎重な僕は後攻を選び、ジャイロたけしが全て先攻と言うルールとなった。


 さて、注目の初手である。ジャイロたけしはフリップに、【放送禁止用語を乱発】と、意味不明系の華麗なボケで攻め込んで来た。

 ふん。対して僕の答えは、【好きな人を泣かせている貴様なんぞに、僕がS.O.B.で負ける訳が無いだろう】と表記。シーンと静まり返る収録スタジオ。死ーん。

 ふん。ボケでは無く、まんま自分の気持ちを書いてしまっては、そりゃこうなるよな。ふん。恐らく僕のダダンダウン史上、初の大滑り具合であったろう。つるりんこ。


 続いてのお題だが、ここで趣向を変えて「画像で一言」がお出ましだ。ふん。これに関してどんな写真であったかは、貴様らが各々インターネットの検索エンジンで、「ボケて(bokete)」と入力し、そこで一番上位に位置するサイトにて好きなのを選べ。そこで面白いと思ったのがジャイロたけしのボケで、詰まらないと思ったのが僕のボケだよ、畜生め。


 そして、いよいよ最後のお題は、【世界が平和になるにはどうすれば?】である。

 ジャイロたけしは、【俺様が地球大統領になる】との答え。ふん。流石かよ。

 ふん。次は僕の番だ。先程のスタジオを凍り付かせた冷気を暖めなければと焦ったのだろう。【もっと世界にお笑いを広め、皆の笑顔を絶やさぬ様にする】と表記。ふん。又候またぞろやらかしちまったぜ。


「ガッハッハ、っさ! くさ過ぎんぞ焔煜、バッキャロー、コンニャロー!」


 ふん。スタジオ内も失笑の嵐だぜ。くっそ、何なんだこれは。僕ともあろうものが極度の緊張により、全く笑いが取れないとでも言うのか。……ふん。その通りだよ。所詮は僕もまだまだ高校生だったってこったろう。ふん。もっとメンタル面も鍛えておくべきだったのだ。


 そうして、立て続けにジャイロたけしが問うて来た。


「ガッハッハ、お笑いで世界平和かよ。んまあ、その考えは俺様も賛同出来る所ではあるが、今のこの場はだぜ焔煜! しかも俺様の冠番組だよ! きっちりと誰も彼もが笑えるボケをかませや、バッキャロー、コンニャロー!」


 ふん。ぐうの音も出ない正論である。


 ふん。結果は言うまでも無く、ゲスト審査員も満場一致でジャイロたけしに投票。僕の惨敗であった。


 ふん。これは余談だが、数十年前に第一回全国お笑い共通一次試験と言う物が実施され、「十二支にもう一つ増やすとしたら何?」と言う問題があったのだ。その中の秀逸な回答で、「PlayStati○n」と答えた猛者が居たのである。この逸話を初めて聞かされた時、面白いのは勿論のこと、僕は心底感心してしまった。

 ふん。結局何が言いたいのかと言うと、何時もの僕ならばだね、「こう言ったエッジの効いたボケをバンバン繰り出しているのだぞ」と言う、超弩級の言い訳さね。


 ふん。どっちにせよ、僕が敗退した事に変わり無しである。……ぐすん。どうしよう。


 ここで西園寺亜矢華がデイ○ー姫の、新堂麻琴が○ゼッタのコスプレで現れ、客席が一段と沸いたのである。ふむ。○イジー派の僕、大はしゃぎ。

 ふん。この金色マカロンコンビが、KAGUYA-HIMEの入れられていた檻を地上に降ろす役目を担い、番組はエンディングへと向かう訳である。


「……ふん。悔しいが、僕の完敗だよジャイロたけし。プロとアマチュアの圧倒的な力の差を見せつけられたって感じだよ。ふん。そして約束は約束だからな。悔しいが、KAGUYA-HIMEこと姫乃麗の事は貴様に委ねなければならない。……ぐふん。……か、彼女の事を……し、幸せにしてやっておくれよ……」

「ガッハッハ、何だよ焔煜! テメェ泣いてやがんのかよ! それにだよ、オメェは一体全体、何を意味不明な事を言ってやがるんだよ、バッキャロー、コンニャロー!」

「ふん。これが泣かずにいられるかよ。番組的にも僕は醜態を晒し、あまつさえ本当はヒーロー役である僕が勝たないと、スポンサー様の意図的にも不味いしな。ふぐう。本当にごめんなさい」

「ガッハッハ、何だよ焔煜! この期に及んで番組の事まで気にしているたぁ、やっぱオメェマジでじゃねーかよ! 俺様益々ますますテメェの事を気に入っちまったぜ、バッキャロー、コンニャロー!」

「オーッホッホッホ! 心配御座いませんことよ、焔煜さん。今回のこの番組ですけれども、大乱闘ス○ッシュブラザーズの新作の宣伝を兼ねておりましたのよ。ですので、「この決着はゲームでね!」と言う様なコンセプトですから、どちらが勝っても全てシナリオ通りなのですわよ、オーッホッホッホ!」

「ガッハッハ、そう言うこった。それとな、焔煜とKAGUYA-HIMEの交際を認めねぇのは無論だがよ? どうして俺様が麗の奴を幸せにしなきゃなんねーんだよ、バッキャロー、コンニャロー!」

「……ふん? 話が良く見えないのだが……??」

「ガッハッハーン? 焔煜よ。、さては大いなる勘違いをしてんな? ガッハッハ、ジャイロたけしこと俺様の本名は姫乃武士ひめのたけしだぜ。ガッハッハ、姫乃麗は俺様の実の妹なんだよ、バッキャロー、コンニャロー!」

「……ふん。そうなると当然の事であるが、ジャイロたけしは姫乃麗の実の兄者で、二人は正真正銘の兄妹と言う事だよな。ふん。本当にそんなベタなオチで良いのかよ。しかもふと思ったのだが、もしかしてだけど、この事実に気付いていなかったのは僕だけではあるまいか? もしやネット界隈では知れ切った情報なのか?」

「オーッホッホッホ! 当たり前ですわ。考えても御覧なさいな。麗がジャイロたけしに攫われたあの時だって、のっけからわたくし達も、そこまで緊迫した空気では無かったのではなくって?」

「ふん。全く分からなかったぞ。おい、観覧席に坐して居られる圭助さんよ。ちょっとこっちに来て説明しろや。貴様も僕をあざむいていたと、そう言う事か?」

「オーッホッホッホ! メイド姿で現れた麻琴さんのお兄様の登場で、お客様の悲鳴が上がっていますわよ。これは果たして喜びか憂いのどちらのお声なのでしょうかしらね、オーッホッホッホ!」

「なはは、ネットにはKAGUYA-HIMEの情報が全然あらへんとか嘘付いてご免な。なはは、だってそっちの方がおもろうなると思てんもん」

「オーッホッホッホ! そうして勘の鋭いわたくしはで御座いますわね、「この男はちょれえ奴ですわね。きっと様々なシチュエーションで隠しカメラを設置しても、彼は存在すら気付きゃしねぇでしょうね」と思い立ち、焔煜さんのここ数日間の恥ずかしいムービーを作製するべく、貴男あなたのプライベートを隠し撮りにてバッチリ保管済みですのよ。この映像を別のドッキリ企画番組で流すのが、今回の罰ゲームですわ。焔煜ファンには堪らないお宝映像満載でお送り致しますし、これでもう一つ番組も作れて、正に一挙両得ですの。焔煜さん。貴男には感謝しっぱなしですわよ、オーッホッホッホ!」

「ふん。本当に悪知恵の働く女だな貴様は。つーか、この人怖い。ふん。そして、僕はもう誰も信じられん。もう何もかも恐い。魔法少女ま○か☆マギカの巴マ○さんとは真逆の台詞!」

「なはは、せやさかい、煜もこの機会にネットが繋がる携帯電話に機種変更したらええやんけ。それにやね、絶対にメールよりもコミュニケーションアプリの方が便利やって」

「ガッハッハ、芸能一家である我が姫乃家としては、麗の存在を完璧に隠し続けてきたのさ。その理由はだな、高校在学中にアイドルとして鮮烈デビューさせ、それより数年後には女優転身ってなプランが錬られていたっつー話だぜ、バッキャロー、コンニャロー!」

「オーッホッホッホ! ですけれども、その思惑は見事に裏切られ、わたくしやジャイロたけしの影響を受けて、「お笑い芸人になる」と麗が言い出しやがったんですのよ」

「ガッハッハ、ま、そう言うこったな。そんでもって、計画が狂った親族一堂との見解の相違から大喧嘩となり、麗の奴めが家出を敢行したってな感じよ。ガッハッハ、てなもんで、俺様は単に妹を連れ戻す為に奔走していただけだっつーんだよ、バッキャロー、コンニャロー!」

「ふん。要は単なる家庭内の問題だったのね。ふん。僕ほっと一安心」

「なはは、せやけど、姫乃さんを引き戻す為だけに動いとったとか、ジャイロたけしさんってば、結構の優しいお兄さんですやんか」

「ガッハッハ、そう言ったおだげはよせやい。俺様のイメージが崩れて営業妨害だぜ、バッキャロー、コンニャロー!」

「ハッハッハ、たけしはそんな人間の出来た人物では無いぜ。ガチで虫けら以下の穀潰ごくつぶし・ろくでなし野郎で、ゲスの極み男子をとこ。だぞ、ばっきゃろう、こんにゃろう!」

「ガッハッハ、マジでぶっ殺すぞハリセン、バッキャロー、コンニャロー! んまあ、俺様が「新しいゲーム機を欲しいな」と思っていた所に、「麗を家に連れ戻す事が出来たら買ってやる」って親父に言われたもんでよ。そんだけの理由だぜ、バッキャロー、コンニャロー!」

「なはは、それってな、丸きし小学生位のお子さんと父親とのやりとりさながらですやん。其処其処そこそこ稼いでますやろうし、ゲーム機くらい、ご自身で買いなはれや」

「ガッハッハ、どうせならゲーム会社ごと買収するってな話だったからよ。俺様の貯金だけじゃあ、ちょっとばかきつかったっつー話だよ、バッキャロー、コンニャロー!」

「ふん。何もかもスケールが違いすぎる。ふむ。おい、圭助。死のうぜ」

「なんでやねん! 全国のお子様方に夢を与える為にも、そこは「俺らも頑張って行こう」やろがいや! もうええわ! いや、ようないわ! ちゃんとせえ!」

「ガッハッハ、だが今回勝ったのは俺様だぜ! 焔煜自身がさっき言った様に、約束は約束だからな! 焔煜と麗の不純異性交遊は諦めて貰うぜ、バッキャロー、コンニャロー!」

「ふん。僕と姫乃麗の関係性だが、まだそれ以前の段階なのだがな。そして、不純異性交遊はしない。何故ならば、まずは僕らは清く正しく、交換日記ならぬ交換ネタ帳から始めるのだからな。ふふん。残念だったな、お兄様」

「ガッハッハ、しれっと俺様を兄貴呼ばわりしてんじゃねーぞ焔煜! それにな、そんな言葉遊びもどきの言い訳で逃れられると思うなよ、バッキャロー、コンニャロー!」

「ふん。騙し討ちも芸人にとっては試されるスキルで、必要不可欠な能力であると僕は考える。全くの口から出まかせの事であっても、真実っぽくエピソードにしてしまうのが芸人ってもんだろうが。要は騙される方が悪いのさ。ふん。そんな事よりも、あんたの呼称だが、「おにいたま」と呼んだ方が宜しいのかしらん?」

「ガッハッハ、一見正論っぽい事を言いくさって煙に巻いちゃいるが、結構テメェ最低だな。ひょっとして、こいつ俺様より酷くねー? ガッハッハ、だがテメェのそう言う所も嫌いじゃねーぜ。……あ、呼び方は、「にぃにぃ」で宜しく御願い致しますってんだ、バッキャロー、コンニャロー!」

「ふん。そう言えばずっと黙りこけているKAGUYA-HIMEよ。家族間のいざこざならば、何故に君は、あそこまで悲しい様相を呈していたのだい?」

「あーね、私の涙目だった理由を聞きたいってのか? てか、私ってば女優になるべく育てられちまってたから、癖でちょいちょい迫真の演技ってのを出したくなっちまうんだよな。そいでいて、さっきは不意に、アニメ・フランダース○犬の劇場版を思い出していただけだってぇの。てか、あの名作ってば、エンディングがヤバイんだぜ。TVシリーズで多くの人が結末を御存知だろうけど、思わぬ不意打ち展開を喰らってやられちまうんだよなぁ。てか、ネタバレになっちまうから詳しくは語らなねぇけども、あんなの絶対泣くってぇの」

「なはは、それ俺も観たし、めっさ泣いてもうたで。もしかしたら映画で初めて大号泣した作品かもわからへんわ」

「ふん。今の会話のやりとりであるが、どうせならば感動とは真逆のをKAGUYA-HIMEが例えに出したのち、ここで透かさず圭助の奴が、「それ泣ける要素全然ありまへんやん」的なツッコミだったならばパーフェクトだったな」


 ふん。僕がそう発言すると、とても悔しそうな表情を露わにするKAGUYA-HIMEと圭助である。そして時を移さず、二人共これ以上ない位の不細工な変顔を決めてきやがったのだ。なので間髪入れずに、僕も爆笑物の変顔で返してやったぜ。


 ふん。マジでこいつらの事、僕はいっぱいちゅき♡大ちゅき♡だいしゅきホールド♡


 そうして、このタイミングにて、西園寺亜矢華は例の志國三を、スタジオの壁を破壊させると言った、ド派手な演出で登場させたのだった。ふん。まあ、あれだけ前振りをやっていたので、そいつをらない選択肢は無いですわな。


 ふん。まさか本日出演するとは思っても見なかった、人気の高校生芸人トリオ・志國三の登場に、観覧客のボルテージも最高潮に達する。


 そして、何故かジャイロたけしを痛め付けると言う謎展開に。ふん。何だこれ。


「フッ、本日は西園寺亜矢華さんから、ジャイロたけし氏をこっ酷く痛め付けて欲しいとの依頼を賜りましたものでね」

「オー、ワタシ個人的にも、ジャイロたけしは気に食わなかったのネ。思う存分鉄槌を下すヨ」

「ガッハッハ、テメェって奴はよぉ~……謀ったな、亜矢華ァ! バッキャロー、コンニャロー!」

「オーッホッホッホ! 視聴者様の中にも、ジャイロたけしを憎々しく思っている方々は沢山いらっしゃるのですわ。言わば貴男あなたが生放送で痛手を被るのは視聴者様サービスなのですわよ。さぁさぁ観念なさって、甘んじて受け入れなさいな、オーッホッホッホ!」

「ガッハッハ、テメェら良い度胸してんじゃねーかよ! これ俺様の番組だぞ! 折角のスペシャル特番をぶち壊しやがって! オーケー良いだろう! 全員まとめて皆殺しだぜ! かかってきやがれ、バッキャロー、コンニャロー!」

「ハッハッハ、火事と喧嘩は江戸の花だな! ミーも久々に血湧き肉躍るね! 我々ハルウッドゲスト・俳優陣四名も参加させろよな、ばっきゃろう、こんにゃろう!」


 ふん。ジャイロたけしとハリセン・ドォーツクド組、そこに、その場に居合わせた高校生芸人全員とが入り乱れ、まさにスタジオは大乱闘スマ○シュブラザーズ SPECIAL状態である。大好評発売中(広告)。


 ふん。完全に放送事故の有り様ではあるのだが、この放映回はのちに、超然絶後ちょうぜんぜつごの神回と称賛される番組となるのである。

 一部に、「虐めを助長する行為だー」とか言う堅苦しい意見が寄せられたらしいのだが、おおむねジャイロたけしをボコり倒した事に対しての賛美が勝ったみたいである。


 そんなで、本番組は大盛況の内にエンディングを迎え、これにて生放送は終了するのであった。


 それから数分後経ち、取り敢えず皆全力で取っ組み合いをしたので、全員が満身創痍である。


 ふん。この隙のどさくさ紛れに、僕はKAGUYA-HIMEに対して、今一度告白を試みてみるのである。


「ふん。KAGUYA-HIMEよ。君の事が好きである。このまま永遠に続くかとも思われる、この険しきお笑い道を、どうか僕と共に生きて欲しい」


 すると彼女は満面の笑顔で、素晴らしいお返事を言い放つのである。


「てか、お断りだってぇの」

「なはは、なんでやねん。この流れやとオッケーちゃうんかい。……いや、せやけどこのままやったら煜に先を越されてまうやんけ! グッジョブやでKAGUYA-HIME!」

「ふん。圭助よ。たおやかなる(?)ツッコミをサンクス。幾らか振られたダメージが軽減されたぞ」

「てか、お笑い芸人的には私が断らねぇと落ちねぇし、これが正解だったろってぇの」

「ふん。今日の僕は本当に駄目駄目だな。ふんだ。本日僕は未成年だが酒を飲んでやろうぞってんだ。ぐふん」

「なはは、いやいや、アカンアカン、アカンて。飲むのはジュースなジュース。ええか、ジュースやで。大事な事なので二回言いましたで。ほんで、これはやのうて、ガチの警告やで!」

「……てか、焔煜よぉ。……てめぇが再三言っている、その交換日記ならぬ交換ネタ帳ってぇの、やっぱちょびっとだけだが、私興味あるかもだってぇの。てか、あー、それやってみたいかもなーってぇのー」

「ふん。素直じゃないな、KAGUYA-HIMEよ。しかし、その焦らし方は嫌いではないぞ。ふん。最早僕自身も忘却の彼方であった、Yポインツを一点ポインツ追加だ」

「えへへ、てか、やったってぇの」


 彼女は嬉しそうに表情をなごませる。ふむ。そうなのだ。この笑顔こそ、笑って貰える事こそが、僕達芸人冥利に尽きると言うものなのだ。


 ふん。しかし、転んでもただでは起きないのが芸人なのである。ふむ。我ながら悪い癖だ。


 ふん。どんな反応をするのか面白そう……もとい気になったので、僕は百円ショップで購入し、予め用意していたを、ささっと彼女に掛けてみた。


「えへへ、と言いますか、やった~なのです~」

「なはは、ちょい言い方はちゃうけども、好意的なリアクションって意味では同じですやん! すっかり煜の奴に籠絡ろうらくされとるやないかーい! なははーん、ほんで恋愛面にて大幅におくれを取った俺めっちゃ悔しい!」


 ふん。口惜くちおしい過ぎて、をしている圭助である。ざまぁ。


 そして、他の高校生芸人達も、僕と姫乃麗とのりを観て、ニコついてくれている。ふん。サンキューだぜ、金色マカロン&志國三よ。


 ふん。これにはお返しとして、この僕も穏やかな笑みを見せながら、こやつらにはこう言ってやらねばならぬよな。


「ふん。何をニタニタと笑っていやがる。こっちみんな。殺すぞ」


 ふん。この僕の毒舌な返しにも、当然この高校生芸人共は理解しており、各々が一斉にコケるリアクションを取るのである。ふん。愛しているぞ貴様ら。


「ガッハッハ、……って、笑えねーぞコラァ! おいおい、つーかなんだこのラブコメちっくな流れはよ! しかも大団円風を演出してんじゃねぇってんだよ! それに勝ったのはこの俺様だし、こんなのは納得がいくかってんだよゴラァ! 尚以て焔煜と麗の交際なんぞ、断じて俺様は認めねぇからな、バッキャロー、コンニャロー!」


 ふん。怒り心頭でマジギレ本気モードとなったジャイロたけしの雄叫びが、ここ収録スタジオ中にとどろき渡る。


 その世にも恐ろしき憤怒ふんぬの姿に、この箇所に居た者達全員が脅威を感じる中、何とこの事態を収拾させた人物は、あの山田漢であったのだ。そう、彼は持っていたスナック菓子を一欠片、ジャイロたけしの口へと、そっと運ぶ。


「……ガッハッハ、めちゃんこじゃねーかよ、このおやつ、バッキャロー、コンニャロー……」


 そう言って喜色満面きしょくまんめんとなるジャイロたけしを見て、「ブヒヒ」と、お日様の様に微笑む山田漢であった。


 ……ふん。こいつ、相変わらずお菓子だけ食ってて何もしてないのに……なんか最後もってった感が……。


   *


――数日後。朝。「私立吉本興業高等学校」の焔煜達の教室、二年B組内にて。


「なはは、おいおい、煜よ。今正いままさに入室して来おった、あのグラマラスなべっぴんさんは一体誰やねんな?」

「ふん。知るか。どうせ季節外れの謎の転入生って所だろう。ふむ。いや、おっぱいも適度に大きいし、転乳性と言うべきかな」

「なはは、やられたー、そのギャグ俺が言いたかったわー」

「はわわ~、と言いますか、爆乳生も捨てがたいなのです~」

「なはは、爆乳生て、なんやそれ。ちゅうか、姫乃さんも被せてくるねー。眼鏡を掛けとるVer.でも、女芸人の貫禄出てきたなー」


「こらー、焔煜君に新堂圭助君に姫乃麗さんモアー。ホームルームを始めますよモアー。そろそろ、お口にチャックですよモアー」


「なはは、こら傑作やで。その特徴的な喋りからして、あの美人さんってモアイ先生の中の人やったんかいな!」

「ふん。どうやらモアイ先生は、無事に引き籠もりを引退したらしいな」

「なはは、ああ、そうなんやなー。せやけどちょい残念やで。これでモアイ先生のお笑い要素が大幅に削られてもうたんやさかいになー」

「ふん。別に良いではないか。そもそもにして、先生はプロのお笑い芸人では無いのだ。ふん。こっちが本来のれなのだよ」

「なはは、何や煜。自分めっさ嬉しそうやの。あっ、さてはお笑いのライバルが少しでも減ったっちゅうて、喜びが隠せへんのやろ?」

「ふん。こすい男め。そんな考えなど皆無だ。ふん。何故ならば、僕達はお笑いで誰よりも上に行くだけだろうがよ?」

「てか、私は先生が教室に入って来た瞬間から、彼女がモアイ先生って気が付いていたけどなってぇの」

「なはは、なんやねん姫乃さん。いつの間に眼鏡を取って、KAGUYA-HIME Ver.になりくさったんや。んまあ、俺はそっちのVer.の方がおもろいし、性格も好みやけどもな」

「ふん。おい圭助よ。寝取られ展開とか勘弁しろよ。そんな事をすれば貴様のおとうと――……では無くて、妹を寝取ってやるからな」

「なはは、おうおう、ええでええで。あんなもん、熨斗のしを付けてれてるわ。めっさ持ってけ泥棒ってなもんやで」

「てか、新堂圭助の妹さんって、亜矢華ねえちゃんの相方な可愛子ちゃんでしょ? てか、そんなの私が貰ってやりたいぐらいだってぇの」

「ふん。いやいや、この潮流では僕が貰う所だろうが。幾ら愛しのKAGUYA-HIMEと言えども、ここは絶対に一歩も引かないぞ」

「なはは、そこまでお前らに取り合いをされると、何や勿体のうなってきたで。ほんなら俺が貰うわな」

「「どうぞどうぞ」」

「なはは、なんでやねん! まんまとダ○ョウ倶楽部的ギャグに乗せられてもうたし、息ぴったりやのお二人さん! ホンマ仲ええなオノレ等! はよ入籍せえや!」

「ふん。今はでフリートークを続けろやって流れだったぞ。……ったく、会話を脱線させやがって。ふん。因みに、僕は朝起きた瞬間より、あの人がモアイ先生だと勘付いていたがな。モアイ先生をお慕い申し上げる生徒としては当然の事であろう」

「てか、それだったら、私だって地球創世記の頃から気が付いていたってぇの」

「なはは、嘘付けや。煜は最初に「知らん」て答えとったやないか。あとは君ら二人な、小学生みたいな張り合いすんなよ、アホくさい。もうええわ!」

「ふん。所で圭助よ。今の生身になったのモアイ先生にだな、この前の様なお仕置きのくすぐりり刑は、果たして執行されるのであろうかね?」

「なはは、それごっさええやんけ。あの等身大のモアイ先生に慰み者にされるんやったら、以前と同様、わざとモアイ先生に楯突くのも有りやな」

「てか、二人共スケベで最悪だってぇの」

「なはは、だまらっしゃい。男子高校生は性欲の塊やで。致し方あれへんわ」

「ふん。その通り。そう言う事だ、KAGUYA-HIMEよ。ふん? 何だ? ほっぺたを膨らませて、あからさまに不機嫌になりおってからに。焼き餅かね」


 ふん。KAGUYA-HIMEは、それこそ焼いたお餅の様に顔を真っ赤にさせ、おもむろに神楽鈴を取り出したかと思えば、そいつで僕と圭助は思いっ切りぶん殴られた。


 ふん。前にもこんな事があった気がするな。ふむ。これこそ正に、だな。

 ふん。今日も今日とて、お笑い大国日本の、平和な日常は続いて行くのである。

 ふん。よきかなよきかなってな。

 ふん。はい、これにて打ち止め、終わりで~す。

 ふん。もうこれ以上は何も無いぞ。むん? アンコールだと? ふん。そんな物がある訳が無かろう。

 ふん。あばよ! からの、さらば! それでもっておまけの、じゃあね!


【突然のご案内となってしまい大変恐縮ではございますが、ただいまをもちまして、当サービスを終了させていただくこととなりました。サービス開始から永らくのご愛顧を賜りまして、誠に有り難う御座いました。敬具】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る