第2話 ~ダダンダウンのガキの使いやあらへんで!~

 季節は春。桜の花はまだ完全に散りきっておらず、巷ではお花見の宴 with S.O.B.で盛り上がっている。そんな麗らかな日曜日の午後である。


「なはは、おい、ゆう! 向こうの大御宝おおみたから商店街広場で、高校生芸人同士の、S.O.B.が始まっとるらしいで! はよう観に行こうや!」

「ふん。そう急かすな圭助けいすけよ。慌てる乞食は貰いが少ないぞ」


 そうやって僕こと、焔煜ほむらゆう十七歳高校二年生超男前に促す関西弁小僧は、新堂圭助しんどうけいすけ十七歳高校二年生普通の顔だ。


 ここ最近、何かと脚光を浴びる高校生芸人だが、ご多分にもれず、僕と圭助も高校生お笑いコンビ・ダダンダウンとして活動している。


 圭助とは僕達の通う東京都内にある学舎、「私立吉本興業高等学校」に入学してからの付き合いだ。初顔合わせでピンと来ちゃったので、僕の相方に大抜擢してやったのだ。

 この様なフィーリングはもの凄く大事で、出会って一年程ではあるものの、丸で十数年来の友人みたいに、気の置けない存在となっている。


 それと共に、僕は圭助の事を絶対的に信頼している。例えば彼が、何らかの嫌疑をかけられたとしよう。さすれば、僕は最後の最後まで圭助を擁護するであろうな。

 ところがどっこい、それが僕よりも先に彼女なんぞを作り、既に童貞卒業を為し得た後の話であったとするならば、躊躇無く関係を断ち切らせて頂く所存である。おお、何と言う強固に結ばれた絆であろうか。


 さて、そんなダダンダウンの世間の評判はこうだ。


 コンビ結成を記念し、僕ら初の漫才を、動画投稿サイトにアップロードした時の話だ。そいつは何と僅か一週間で、再生数一億回を叩き出す伝説を打ち立ててしまう。

 それ以降も僕らの漫才やコント、フリートークなどは人気を博し、公開する映像は常に人気ランキングの上位に昇ってくるのである。


 だが、この程度の事は序章に過ぎぬ。僕らが目指すのは、プロのお笑い芸人一択だ。


 しかし昨今では、普通に一般人が、S.O.B.を享受する世の中である。当然、お笑い芸人と言う職業に就こうとするならば、相当の狭き門となっている。


 ふん。だからって、それがどうしたって話だ。


 既に分娩室より、笑いながらこの世に生を享け、物心が付く頃には、常に周囲の人間を爆笑の渦に巻き込んで来た、正に笑いの申し子たるこの僕である。上り詰める自信は、荒ぶる神の如しだ。


 僕達は頂点を目指すのみ。このお笑い大国日本で天下を取り、行く行くは全世界へ。そうして、お笑い王に僕らはなる!


 この様な夢を、僕が割と大きめの声で呟く。そんな感じで周囲を気味悪がらせつつ、僕達は、S.O.B.が行われている現場へと辿り着いた。


「なはは、S.O.B.開始前に、何とか間に合ったみたいやな。ほんなら、両軍がどう言うお笑いを披露してくれるんか、じっくり見さして貰おうかいね」

「ふん。僕らの様にフリートークを核として勝負する輩は、今回も居なさそうだがな」

「なはは、そら、しゃあないて。台本無しのアドリブ満載、ゼロから始めるお笑いクリエイト程、ハードルが高いもんは無いしな」

「ふん。腰抜け共が。ならば特にフリートークが得意である僕らは、向かう所敵なしと言っても過言ではないな」


 すると、僕と圭助の存在に気が付き始める、一般ピープル達がちらほらと。ふん。これだから有名人は辛いぜ。

 ふん。僕らはいつだってサインを絶賛受付中である。好感度、これ大事。


 そんな中、じゃんけんに勝った男子の二人組が先攻を選んだ模様。どうやら彼らは漫才を披露する様である。


「なはは、おっと、先陣を切るコンビは凸×凹デッコーボッコーやな。二人揃って、「浅井企画笑業高等学校」出身の二年生やで。華奢で背の低いスキンヘッドの男が、ツッコミ担当の細木数夫ほそきかずおで、筋骨隆々のドでかい男が、ボケ担当の太鯛豪ただいごうや」

「ふん。圭助よ。毎度の事であるが、詳しき解説を御苦労。流石に芸人データベースの二つ名は伊達ではないな」

「なはは、ホンマはここで、「松竹芸能高等学校」出身のトリオ芸人、志國三ここさんを出して、強キャラ感を出そうとしてたらしいけども、「ちとよ出し過ぎちゃう?」ってな事で、急遽噛ませ犬的な敵キャラを登場させたんやで。凸×凹って、その程度のコンビやな」

「おい、圭助……一体何の話をしている?」

「せやな。俺も何を言うてんねんて思うたわ。ちょいと、の病院行って来てええかな?」

「却下だ。貴様が居なくなると、もう片方の芸人情報が一切分からん」

「なはは、了解や。おおっと、あの子は彗星の如く現れたピンの高校生女芸人、KAGUYAかぐや-HIMEひめやんか。神様を祭る為にそうされる歌舞、神楽を舞う巫女をイメージしとって、神楽鈴を駆使し、そこへロック音楽を組み込ませたリズムネタが持ち味らしいで。以上ですわ」

「ふん。新人特有の情報が少な過ぎて、本名や年齢は不明パターンか」

「せやねん。ホンマすまへんな。なはは、次回迄にはを更新しときまっさかいに」

「ふむ。しかしリズムネタか。あのジャンルは大概が「楽しい」であり、「面白い」ではないからな。ましてや、その完成度が高ければ高い程、それは最早「音楽」となってしまう。はっきり言って邪道だな」

「なはは、相も変わらず煜らしい分析やで。そいで、これは飽く迄も噂やけどな、彼女は俺らと同じ高校に通っとるんやと」

「ふん。そいつは重畳ちょうじょうだぞ、圭助よ。何故かと言うとだな、僕はあのKAGUYA-HIMEなるめすが、尋常でなく、どんぴしゃりで御好おこのみであるからだ」

「言うに事欠いて、雌て。なはは、なんや煜、KAGUYA-HIMEに一目惚れかいや」

「ふん。悔しいがその様だ……と言いたい所だが、どうも彼女とは初対面と思えぬのだよ。ふん。我々の級友である姫乃麗ひめのれいに、何処と無く似ている気がするのだがな」

「んん? 姫乃麗さんやと?? ……あー、あの存在感が希薄な女子かいな。なはは、いやいや、幾ら何でもそら無いやろ。顔も容姿も違い過ぎるで」

「ふん。そうだよな。僕とした事が、何を血迷っているのやらって話だな」

「なはは、煜さんや、あなた疲れてるのよ。それかもしくはアレやで。過去にどっかで見た気がするっちゅう心的体験、「おデブジャー」とか言うやっちゃな」

「ふん。そりゃ出し抜けに太っちょと遭遇した、貴様自らの雄叫びじゃないのかね。それを言うなら既視感、「デジャブー」だろ。ふん。気を付けろよ圭助。単発ボケも頻繁に使うと、煩わしさがマキシマムとなるからな」

「なはは、オッケーブラザーノリノリやーん。ちゅうか正味の話、又かいなって所感やで。前から思うとる事やけど、煜は惚れっぽいよな。今月に入ってからも、一体何度目やっけか? ほいでもって、百パーセントその恋は実ってへん訳やが」

「ふん。あれは自身のキャラ付けと、ファンに対してのリップサービスに過ぎぬのだが、今回のはである。魂が震えるのだ。僕は彼女と結ばれるべく生まれてきたらしい。結婚を前提にお付き合いしたい。いや、絶対交際する。僕と彼女は恋人関係にならなければならない。何故ならこれは天の思し召しなのだから」

「なはは、真顔で堂々と、自分ごっついな。それを通り越して、瞳孔が開いとる目に狂気を感じたわ。そう言う奇人変人じみた所が、巷間こうかんで残念イケメンと言われとる所以ゆえんやで」

「ふん。誰が何と言おうと関係ない。その風評さえも笑いに変えるまでよ。そもそもだ、僕は常人と同じレールなど歩んでいない」

「なはは、さいやった。それが煜の生きる道やったね。えろうすんまへん……って、頬を真っ赤っ赤に染めよってからに。こらホンマもんですな!」

「ふん。当たり前だろうが。ハートドキドキ、響くキラメキ、心ときめくメモリアルだ」

「なはは、伝説のホニャララがキーポイントとなっとる、恋愛シミュレーションゲームを彷彿とさせる言い回し止めいや」

「ふん。僕はそのシリーズの初作と二作目、それに第四作目しかプレイしていない。兎にも角にも不人気で評判の、第三作目の詳細を教えておくれ」

「なはは、そら俺もやってへんし知らんがな。それとな、色恋っちゅうやつはリアルとゲームでは全然ちゃうねんで。仮に煜がKAGUYA-HIMEとお付き合いを始めたとしてもやで? さっき自分が示した様に、お笑いに関して厳しいお前の事や。よりにもよってアンチ芸風な彼女やんかいさ? どうせ喧嘩が絶えへんくになって、直ぐに別れるんが落ちやわ」

「ふん。ほざけ。リズムネタは素晴らしいではないか。落語などの古典芸と比べたら歴史は浅いのかもしれんが、新しい物も評価する肝要さが大切なのだ。僕は全てのお笑いをウェルカムだ」

「なんや主義主張が呆気なく覆りよったな。せやけど確かに、着物に黒髪ロングストレート・前髪ぱっつんヘアスタイルがよう似合うとる、べっぴんさんではあるけどもやね」

「ああ。現代では失われてしまった、正に大和撫子だ」

「なはは、着物のすそひざの辺りで切っとるミニスカート巫女装束が、果たして清楚と言えるんかは置いとこか。なはは、丁度ええ具合にスレンダーやし、取り敢えずスケベな男連中は、たんまり釣れそうですわな」

「ふん。芸事で容姿や若さを武器にする事は何ら問題では無い。むしろ有効に使うべき、期間限定の値打ちだと僕は考える。それよりも最近の婦女子共と来たら何だ。何奴どいつ此奴こいつも茶髪に染色し、斜め流し前髪で前額部ぜんがくぶを隠す量産型ヘアスタイルときている。ひたいを髪で隠せば小顔に見え、何割方か可愛く見えるに決まっておろうが。しかもだ、「別におでこを隠している訳じゃありませ~ん」とばかりに、ちょこっと隙間を空ける小賢しさに、殊更腹が立つ」

「あらら? 矛先が現代女性に対する不満っちゅう思わぬ方向に。んまあ、KAGUYA-HIMEは、俺の好みのタイプとちゃう事は確かやけどな」

「ふん。圭助のタイプとはどんなのだ? 非常に興味津々であるからして、出来れば事細やかに語るべし」

「なはは、恋愛モード全開やんけおのれ。そら決まっとるわ。金髪美少女お笑いコンビ、「聖ホリプロ女学院高等部」出身の三年生、金色マカロンのツッコミ担当、西園寺亜矢華さいおんじあやかさんやね。頭の格好が、アニメや漫画とかでしか見た事があれへん、チョココロネみたいな金髪縦ロール高飛車お嬢様の変わり者やけど、めっさ美人やからな。それより何より、俺は年上好きやねや」

「おい、凸×凹の漫才が始まるから静かにしろ。男の癖にベラベラ喋りやがって。貴様の異性の好みなんぞ、至極どうでもいいから黙れ」

「ワレが聞ぃたんやないけ! それに芸人が口をつぐんだら仕舞しまいじゃボケカスナス! もうええわ!」


 さて、漫才やコントのネタ時間だが、一本辺り5分から10分程度が相場だ。それは、S.O.B.でも同じ事である。


 そうして、おおよそ10分後、S.O.B.が決着を迎えた。


 今回のS.O.B.の流れと結果だが、僕の評した通り、KAGUYA-HIMEのネタは案の定、もう「歌」と言われても全く違和感のない、単に恰好良いだけの「楽曲」さながらであった。


 だがしかし、観客のジャッジは圧倒的にKAGUYA-HIMEで、彼女の快勝だった。


 そう、負けた凸×凹が、有り得ない程に詰まらなかったのだ。


 彼らの敗因は明白で、扱ったのは時事ネタ漫才であったのだ。しかし、それが一年以上も前の話題であれば、薄ら寒い事この上無い訳である。


 従って、余裕でKAGUYA-HIMEに勝利の女神が微笑んだって話だ。


 この様に、S.O.B.はトコトンお笑いの真剣勝負である。よりオーディエンスを沸かせた芸人が正義であり、覇者にもなり得るシビアな決闘なのである。


「なはは、俺はどっちも好きなネタやったけど、いやはや、中々におもろいS.O.B.やったで。特にKAGUYA-HIMEのネタは新機軸やったし、斬新やったんちゃうかな」

「ふん。エンタメは時代と共に変化・多様化し、お笑いも然りだ。これから先も、ああいった種類のイレギュラー芸人が続々登場する事だろう。だがそれは、注目もされずに終わる芸人を、更に多く排出する事になってしまう。今の時代、競争の激しいお笑い界だ。僕らダダンダウンも、うかうかしては居られないぞ」

「なはは、せやけど逆に、実力と運を併せ持っとったら、生き残れるっちゅうシンプルな話やで。ま、俺らも一時の人気に胡坐あぐらをかいて、余裕こいとったらアカン。日々精進でグングン成長。ほいでダダンダウンならば、それが出来まっせっちゅうこっちゃろ?」

「ふん。良く理解しているじゃないか、この忠実なるお利口さんめ。醤油う事よ。by キ○コーマン株式会社」

「なはは、そのギャグこそ俺に言わせんかいや。ほんなら、彼の有名な「お笑い怪獣」て呼ばれとる出っ歯な巨匠に、一歩近づけた気分になるさかいに。ちゅうか、その伏せ字の位置の所為で、何やら卑猥な事を言うとるみたいになっとるやん」

「ふん。それが狙いだからな。では圭助よ。S.O.B.も終了した事だし、僕はKAGUYA-HIMEに愛を告白して来るぞ」

「いや、時期尚早じきしょうそうはなはだしいやろ! もうちょい下調べをして計画的にやね~……って、もうフラフラとゾンビみたいに彼女に近付いて行っとるがな! うあっ、動きキモッ!」


 ふん。意外や意外、サプライズ好き男子なこの僕だ。気配を殺し、KAGUYA-HIMEの間近にまで距離を縮める事に成功する。


 ふん。僕は芸人であるからして、さぁさ、遠慮無く驚け、見て笑え。


「……ん? ぬおっ!? な、何なんだてめぇは、この野郎! 私の真隣に、いきなり出現しやがってよ! てか、ビックリ仰天じゃねぇかよ、糞ったれこん畜生ってぇの!」


 ふん。突として目の前に、僕みたいなハンサムボーイが登場したのだ。このKAGUYA-HIMEのリアクションは当然だろう。しかし可憐な見た目に反して、彼女は言葉使いがお下品であったな。


さわさりながら、この程度は許容範囲。美しい花には棘があると言うではないか。


 僕は忠誠や尊敬を表す証としてひざまずき、おもむろにKAGUYA-HIMEのお手手ててをとりまして、手の甲に軽く口付けを致します。


「んんんっ!? ぎゃあー、な、何しやがんだてめぇ! てか、汚ったねぇなぁ、おいってぇの!」


 そう言いながら彼女は、目にもとまらぬ速さで僕の手を振り払う。失敬な。ちゃんとお口スッキリ・チューインガムを噛んでおったわ。


 その後、KAGUYA-HIMEは持っていた神楽鈴を僕の方に向け、めちゃんこ警戒するのである。


 ……むう? おかしいぞ。これは僕の予想に反した反応ではないか。


 僕の脳内シミュレーターでは、キスを敢行した約三秒後に、「キャー! 素敵! 抱いて!」と言う流れになる予定なのだが。

 何故に三秒なのかと聞かれれば、三と言う数字が僕のラッキーナンバーだからな。

 運気向上もがっつり盛り込み、ガムによって息もスッキリ爽やかリフレッシュなのに、どうしてこうなった?


 ううむ、女心と言うやつは、全くもって奇妙奇天烈。難解なものだな。


「ふん。落ち着き払えKAGUYA-HIMEよ。僕は決して怪しい者ではない。この顔に見覚えが無いかね? そこそこに有名な筈だが」

「ざけんな! きょいたセクハラ行為に及びやがって! こりゃあ不審者を凌駕りょうがして犯罪者だってぇの! てか、おーい、おまわりさん。ちょっくらこっち来てくれやってぇの!」

「ふん。これは困ったぞ。僕の輝かしい経歴に傷が付いてしまうから、逮捕だけは勘弁しておくれ。助けて! 正義のヒーロー少年法!」

「へっ、バーカ。てか、ジョークだってぇの。高校生芸人・ダダンダウンの焔煜だろ? それくらい知ってるってぇの。てか、てめぇも芸人の看板を背負ってるんだったら、くらい想定して日々生活してろよってぇの」

「ふん。要するに逆ドッキリだった訳か。それに、君の過剰なリアクション芸でも気付くべきだったな。未熟者、ここに極まれりだ。ふん。こいつは真摯しんしに、鉢巻はちまきを締め直さねばならぬよな」

「てか、私もてめぇの声を聞くまでは、ガチで焔煜本人だとは分からなかったんだけどなってぇの」

「ふん。「声を聞くまでは」だと? てか、それはどう言う意味なのだってぇの?」

「おいおい、私の口振りの真似とかして、おちょくってんじゃねぇぞ。てか、私は超ド級の近眼なんだってぇの。実はこの近さでも、てめぇの顔すら把握出来てねぇんだよ。てか、普段のプライベートじゃ、味も素っ気もない地味眼鏡で御座いまさぁねってぇの」

「ふん。ならばコンタクトレンズを用いれば良かろうに」

「けっ、そんなん無理に決まってんじゃんかよ。てか、直接眼球に触れるとか危ねぇし、何よりおっかないじゃねぇかよってぇの」

「ふん。その理由は中々にかわゆいぞ。Yポインツを一点ポインツ進呈だ」

「あ? てか、何だよ? そのYポインツってぇのはよ?」

「ふん。よくぞ聞いてくれた。YポインツのYは、僕の名前である煜のYだ。そして、この僕が「萌えた」と思った感情に対して、丸でポイントカードみたく、ポイントが加算されていき、それにより豪華な景品が貰えるシステムなのだ」

「はっ、ガキの発想かよ。てか、すこぶる下らなそうだが、私も芸人のはしくれだ。乗っかってやんよ。カモン、Yポインツの詳細プリーズってぇの」

「ふん。お優しいな。やはり僕の目に狂いはなさそうだ。では説明しよう。合計30点ポインツ御座いまして、まずは10点ポインツ溜められますと、スマイル0円が漏れなくプレゼンツ」

「てか、イニシャルMの、某ファストフードチェーンストアかってぇの」

「ふん。のフライドポテトって絶品だよな。そして、次に20点ポインツ溜められますと、僕のサインを進呈」

「よっしゃ、ならファンに横流し出来んじゃん。てか、ネットオークションかオンライン・フリーマーケットに出展するわってぇの」

「ふん。売却だとか悲しい事を言わないでおくれ。そして、最後30点ポインツ溜められますと、……ふふん、肉体と肉体を重ね合わせる、最も動物的な行為をする特典が与えられるのだ」

「ご、ごくり……ま、まさか、てめぇ……てか、それは年齢制限的に引っ掛かる案件ではあるまいなってぇの」

「ふん。何てこったい、僕とハグが出来る」

「普通にピュアか! てか、心底安心したわってぇの!」

「ふん。お笑いの基本、三段落ちへのお付き合い、誠に有り難う御座いました。熱き友情の握手を交わす事を求む」

「はいはい、手と手をぎゅっと握り合いましょうね。それとついでに抱擁ほうようをば……って、何をやらせんだ! てか、何がしたいんだ、てめぇはよ! ははあ、さては、最近流行りのストリーキングって奴だろってぇの」

「ふん。そりゃ公共の場を全裸で走り抜ける行為の事だ。僕の素っぽんぽんなど晒せば、世界中のが、僕無しでは生きていけない身体となり、下手をすれば胎内に僕の子を宿してしまうからな。そして正しくは、ストーキングな」

「うへっ、てか、そのボケはぶっちぎりで気色が悪ぃですぜ、ダダンダウンの焔煜さんよってぇの」

「ふむ。しかし、ストーカー行為か……あれは愛情の裏返しである場合もあるからな。実行に移す連中の気持ちだが、僅かに分からないでもない」

「げっ、てめぇ! 私のそばに寄るんじゃねぇ! てか、速やかに私の半径一メートル以内から離れやがれってぇの!」

「ふん。一メートルは無理だが、一途に思う事は出来るぞ」

「は、はぁ? 駄洒落にしても、一しか一致してねーし。韻を踏むならきちんとやれやチキン野郎が。てか、あんまりロッカーの私を舐めるんじゃねぇぞ、こらぁ? ぶっ殺ックンロールってぇの!」

「ふん。まだ気付かぬのかKAGUYA-HIMEよ。ならはっきりと申し述べてやる。今日と言うこの日、僕はKAGUYA-HIMEの事を……君の事を本気で好きになってしまったのだ。世間一般で言う所の、恋に落ちると言う奴だよ」


 僕の躊躇ちゅうちょがないストリップな発言。もといストレートな発言に、さしもの彼女も赤面してしまう。


「ふん。その紅潮した顔は、非常に良いものだな。もう1点、ポインツ追加であるぞ」

「……て、てめぇ、凄ぇのな……てか、その臆さねぇメンタルは称賛に値すんよ。……て、てか、返事はちょいとばかし待ってくれや。頭の中を整理してぇからよってぇの」

「ふん。不意打ちのアイ・ラブ・ユー宣言だ。戸惑うのも無理からぬ話である。そこで提案なのだが、幸いな事に我々は高校生芸人だ。ここは芸人らしく、まずは交換日記ならぬ、交換ネタ帳から始めないかね?」

「おっふ、何所までもピュアか。てか、その交換ネタ帳っての、ちょびっと気になるるるるるるるるぅーってぇの!」

「ふん。興味を持って頂けて何よりだ。そして芸人らしい巻き舌でのリアクションは、聞いていて心地よいボイスだな。流石はリズムネタ芸人であると言えよう」

「はぁ~……ったく、勘弁しておくれよって話だぜ。てか、こちとら、もう一人の付きまとい男のおかげで、目下うんざり真っ最中だってぇのにさぁ……」

「ふん。その言い回しから察して、君を追い回す輩ってのが、既に居ると言う見解で宜しいか?」

「ああ、その通りだよ。……ってか、噂をすれば影がさすとやらだ。てか、私って視力は悪いけれど、聴覚は相当良いんだよ。てか、たった今、猛獣の咆哮みたいな雄叫びが聞こやがったからな。この声は噂のその男が全力疾走で、こちら側へと向かって来ていると言う揺るぎない証拠だぜ。なので私は逃げるってぇの。じゃあな!」


 KAGUYA-HIMEは一目散に、その場から立ち去ろうとする。所が、大体三歩程駆けた時点で足がもつれ、彼女はすっ転びそうになる。その後も数歩事に始末だ。


 余りにも前進しないものだから、丸でコマ送り映像を観ているのかと、錯覚する度合いである。


 ……いやしかし、大真面目に大丈夫か? 慌てているとは言え、彼女は深刻な病に侵されているのではないのかと、超絶心配になる挙動だぞ、こりゃ。


「おお? おい煜! えらいこっちゃ! KAGUYA-HIMEが言うとった、遠くからこっちにやって来たる男っちゅうんは、毒舌でオラオラ系の人気若手お笑い芸人、ジャイロたけしやぞ! 俺の視力は両眼共に2.0やし、見間違えはあらへんで!」


 何だ圭助、居たのか。暫く声が聞こえなかったもので、とっくに、この世からドロップアウトしたものだと思っていたぞ。


「ふん。女遊びは芸の肥やしにのっとり、数々の女優や女性アイドルをで有名な兄ちゃんか。確かにバラエティ番組でのトーク力は、ずば抜けて笑えるので質が悪いよな」

「なはは、チェリーボーイの俺らからしたら、完全に異次元の話やな。羨ましいこっちゃで。かてて加えてジャイロたけしの家系って、曾祖父母の代からの芸能一家やからね。せやから勿論、祖父母・両親・親戚遠縁に至るまで、みーんな大御所芸能人で、且つバリバリの現役ときとりますわ」

「ふん。凄いな。何一つ勝てないな。おい圭助、何ゆえに僕はしがない愚民ぐみん小倅こせがれなのだ?」

「愚民て。せめて庶民と言えや。それよかね、そないな風に考えんと、健康体で生まれて来た事に感謝しようで。それこそ、彼の出っ歯なお笑い怪獣かて、「人生、生きてるだけで丸儲け」て言うとんねや。……なはは、ジャイロたけしは、ちいと生き抜く事に忠実で、精力過多やけどな」

「ふん。だとしたら彼奴きゃつに……あの悪名高きジャイロたけしに、KAGUYA-HIMEも目を付けられた形か」

「まあ、そう言うこっちゃな。あちゃー、残念やったな、煜よ。悪い事は言わんから、もう諦めた方がええて。実際問題、地位や名誉やお金、その上お笑いの腕でも勝てる気がせえへんわ」

「ふん。弱気が過ぎるぞ圭助。貴様の欠点は、いざって時に意外と腰が引ける所だぞ」

「なはは、俺としたことが。すまんすまん。こないな時やからこそ、ジャイロたけしがなんぼのもんじゃい! これですわ! どないや!」

「ふん。それでこそ僕が見込んだ男、新堂圭助だ」

「なはは、言うたった、言うたった。ホンマにスッキリや。サ○スターDoクリアで歯磨きや」


 これなる圭助との会話の間にも、どんどんと此方こちらに接近して来ているジャイロたけし。しかも、よくよくジャイロたけしを観察してみるに、彼の視線はKAGUYA-HIMEには向いておらず、僕と圭助を真っ直ぐ見据えて進撃している様に見えるのだが。それも鬼の形相で。


「なはは、初めて生で見るジャイロたけしやけど、噂にたがわず、おっとろしいのう」

「ふん。悠長に構えている場合では無いぞ圭助。見ろ、あのジャイロたけしの面構えを。確実に人を殺害してやるって顔をしていやがるぜ」


 すると次の瞬間、急に僕の世界がスローモーションに見え始めたのだ。恐らくは僕の発した、「殺害」と言う言葉に、自身の体が「死」を感じての現象であろうかと。


「ふん。なるほどな。これが今際いまわきわに起こると噂の、走馬灯って奴か」


――ジャイロたけし……まだまだ新人・若手のお笑い芸人であるにも関わらず、既に稀代のカリスマ芸人との呼び声も高い、今最も勢いのある世紀のスターである。


 女好きで知られる彼だが、その好色家具合は枚挙に暇がない。魔の手が及ぶのは芸能人に留まらず、一般人は疎か、老いも若きも男(ニューハーフやシーメールと呼ばれる方々ですね)も女も手当たり次第である。


 斯様な傍若無人のプライベートを揶揄し、「単なる種付け交尾大好きなエテ公やん」「それ新人とちゃう、猿人や」「ペ〇スのカリクビ芸人」「性器のモンスターの間違いだろ」などなど、大衆の心無い言葉の暴力が絶えない現況であった。ざまろ。


 そんな中ジャイロたけしは、所謂不細工を売り物としている女芸人とのホテルデートを、とある週刊誌にスクープされる。信じられない事に、何とその時の見出しタイトルは、【美女と野獣ならぬ美男と醜女! ジャイロたけしはブス専だった!】である。


 幾ら何でも、この記事は酷い。


 当然ながら、本案件にジャイロたけしもブチ切れた。


 ジャイロたけしは手下の若手芸人数十人(通称「たけし兵団」)を引き連れて出版社を襲撃。次いで、彼の話題を取り上げていた生放送中のワイドショーにも乱入し、出演者全員をボコボコにする暴行事件を起こしたのだ。


 その際、本番組にコメンテーターとして出演していたジャイロたけしの伯父さんに当たる強面俳優が、特に執拗に痛めつけられたのである。結果的に、伯父は全治三ヶ月の大怪我となり、撮影中の映画も無期限延期となってしまう。


 この一連の暴挙により、視聴者は番組側の仕込み・やらせでは無かったと言う真相を理解すると同時に、ジャイロたけしは冗談抜きで「やべー奴だな」と言う認識を、強烈に植え付けられたのである。


 画面の向こう側で観ている分には良いけれど、直接関わるのはマジ勘弁ってこったね。


 故に、ジャイロたけしが公衆の面前でほっつき歩いたとしても、他の有名人みたく、声を掛けられる事は殆ど無い。ぶん殴られて痛いのは、誰しも嫌だもんな。


 只、彼のツッコミと言うか、を受けると、「芸能界で売れる」と言うジンクスが有るらしく、業界では重宝されているとかいないとか。


 それはそうとして、マスコミュニケーションは一斉に、華麗なる芸能人一族である、ジャイロたけしの親類縁者一同にコメントを求めた。

 だが、皆が口を揃えて、「あんなどうしようもないのは、死刑にでもしてください」の一点張りを徹底し、マスコミを一蹴するのであった。


 そうして、数日後に開かれる事と相成った、ジャイロたけしの謝罪会見である。その時の発言がこちらです。↓


「ガッハッハ、本日はお忙しい中お集まり頂きまして、まことに御苦労共よ。さてと、今回一番許せねぇのは、腐れ外道の出版屋が、女を侮辱する報道を載せやがった事な。本人が不美人を売りにしている女芸人とは言え、こいつは黙認出来るかよって話だ。だもんで、俺様は正義の鉄槌を下したまでよ。良い機会だし、この際だから俺様の信条を宣言しとくわ。俺様は出会った全ての女を、分け隔てなく愛しているだけだぜ。男が女を傾慕けいぼして何が悪いっつー道理だよ。だからまあ、世の男性諸君共よ。精々せいぜい俺様に、パートナーやら彼女やらを寝取られない様に気を付けるこった。……つーか、ここまで言われて、お前ら黙って指をくわえて見ているだけなのか? いやいや違ぇだろ? 立ち上がれ……いや、勃ち上げるのさ! 文字通り男性自身を蜂起ほうきさせるんだよ! 臆するな! 俺様なんぞに遠慮も要らねぇ! 浮気でも不倫でも! 昔のエロい人ってか、偉い人も、汝の隣人を愛せよって言ってんじゃねぇか! ニイチャンネエチャンのやるならやらねば。やる、やるとき、やらねば、やろう、やれ。やれよ、やれやれ、犯りまくれい! Enjoy better S.O.B. and S.E.X. life だぜ、バッキャロー、コンニャロー! ガッハッハ!」


 お分かり頂けただろうか? お詫びをする気は皆無であり、終盤は意味不明な事柄を交えた独断演説であったのだ。


 しかれども、この頓珍漢とんちんかんメッセージにより、男女共にジャイロたけしを支持し始める。いやマジに大丈夫か、我が国日本!

 

 それと平行し、「浮気や不倫等の不適切な関係を絶対に許さない」と言う、世間のお堅い雰囲気も吹き飛ばしてしまった。

 不貞行為は自己責任。見つかれば痛い目に遭うだけ。言い換えると、遭えば良い。この戒めを各々が自覚する事により、世論は納得してしまったのである。


 まあ、痴漢やセクハラを実際の行動に移してしまった勘違い馬鹿が、多少なり湧いた事も、規定通りと言おうか、何と言おうか……。


 当の然、インターネット上で叩いていたユーザー達も、と手の平を返し、ジャイロたけしを称賛するレスポンスで溢れ返るのであった。


 これは余談だが、僕はネット書き込みをした事が無い。いや、出来ない。もっと言えば、観覧さえも不可能なのだ。

 まず、自宅にネットが繋がる環境も整っていないし、僕が所持している携帯電話も、最低限の通話とメールしか行えぬ旧式である。

 そもそも、僕は機械全般に弱く、体も弱くて喧嘩も弱い……と、後半は関係無いな。

 その為、そう言ったハイテクノロジーな分野は、全て圭助の手に委ねている。圭助よ……いや、圭助様。今後とも何卒宜しくお願い申し上げます。


 そう言えば、主人公が異世界にまでスマートフォンを持込み、やりたい放題で無双した挙句、女性達からモテまくってホニャラララ~……と言った内容のライトノベルを読んだ事が有るのだが、煽り抜きで主役の彼を尊敬するし、憧れさえ抱いてしまっている。


 話が大幅に逸れた。


 何にせよ、ジャイロたけしの放ったコメントにより、彼は暴力云々諸共もろとも、多くの人々から「許された」のである。


 そう、今の御時世、面白い人間が大正義で有り、お笑いのカースト上位である者が、社会の風向きさえも大転換させる事が可能なのである。


――うぬ。ここで回想の名を借りた、ジャイロたけしのキャラクター紹介終了のお知らせだ。


 ふん。そのジャイロたけしに肩を掴まれたタイミングで、トリップしていた僕は現実に引き戻される。


 ふん。この野郎めが、もうこんなにも至近距離迄近付いていたのだな。

 ふん。今から僕はこの男、ジャイロたけしに処刑されてしまうのか。グッドバイ現世。

 ふん? ……てか、何で僕が死なねばならぬのだ?

 ふん。よくよく考えてみなくても、そんな理屈は一切無いではないか。

 ふん。馬鹿らしい。走馬灯がもたらした僅かの間とは言えど、無駄な時間を費やした。

 ふん。そう思ったら、何だか怒りが込み上げて来たぞ。

 ふん。こいつは文句の一つでも言ってやらねばな。


「ガッハッハ、オラッ、テメェ! 何を俺様に熱い視線を注いでやがんだ、ああん? さてはアンチだなオメー? それともファンなんか? 取り敢えず、今日の俺様は極上に機嫌が悪ぃんだよ、バッキャロー、コンニャロー! ガッハッハ!」


 ふん。そんなのは僕の知った事ではない。だが明らかな事項として、貴様が悪いのは機嫌よりも素行と頭であろうが。

 それと、笑うか怒るかどっちかにしろや、せわしない。情緒が不安定か。


「ふん。絵に描いたようなヤンキー系言語だな。そして、僕は貴様の事を重々承知であるが、あえて言おう。「誰?」であると」

「ガッハッハ、生意気な糞ガキめ! 締め上げんぞゴラァ! ……って、良く見たら、テメェは高校生芸人・ダダンダウンのボケ担当、焔煜じゃねぇかよ、バッキャロー、コンニャロー! お初さんですね、今日こんにちは!」

「ふん。体だけデカくて、頭は空っぽの貴様にまで、御存知頂いていたとは光栄です」

「ガッハッハ、ダダンダウンの焔煜は、本日を持ちまして活動を休止致します。いえ、急死ですね、バッキャロー、コンニャロー! ウルァーーー!」


 怒鳴るジャイロたけしに胸ぐらを掴まれ、そのまま持ち上げられ、無言で何も出来ない僕の図が完成したぞ。

 ふん。うっかり口を滑らせてしまった。不覚である。


 ふ、ふん。べ、別にこれは脅えて言葉が出ない訳じゃないんだからね! ほ、ほんのちょっと恐怖に支配されているだけなんだからね!


「オラァ! 黙ってねぇで何とか言ってみろや、バッキャロー、コンニャロー! さっきまでの威勢はどうしたコラァ! ガッハッハ、俺様に対する畏怖いふから、ビビっちまって小便でもチビりそうってか?」

「ふん。それだけでは風情が無かろう。付属品としても御覧に入れようぞ?」

「バッキャロー、コンニャロー! そいつをぱなしやがったら、マジで息の根を止めてやっからな! ……と、こんな事をやっている暇はねぇんだったぜ。おい、焔煜! こっち側の進路に、かなり可愛い女芸人が来た筈だが、何所へ行ったか知らねぇかよ、バッキャロー、コンニャロー!」

「ふん。それに思い当たる人物なら、あちらの方角を御覧なさい。蹴躓けつまずきながら駆けて行くのを目撃したぞ」


 僕は彼女が居る方向とは正反対を指さした。


 ふん。ここでワンポイントアドバイスである。嘘をつくコツだが、「本当」を混ぜる事で成功し易くなるのだ。取り分けお笑いに於いて、を発表する時などは、至って効果の高い技法と言えよう。ここ、テストに出ます。


「ガッハッハ、その走り方の特徴は疑う余地もねぇな! 十中八九、俺様が追い掛けているのもんだぜ、バッキャロー、コンニャロー!」

「ふん。貴殿の御健闘をお祈りしております。それでは、僕を解放しておくんなまし」

「ガッハッハ、オーライ、良いぜ! そっと地面に下ろしてやんよ、バッキャロー、コンニャロー!」

「ふん。有り難う御座います。それから先程の非礼を詫びよう。すまなかった、ジャイロたけしさん」

「ガッハッハ、何だよテメェ! 話せば普通にじゃねぇかよ、バッキャロー、コンニャロー! 流石はナンバーワン高校生芸人の称号を得ているだけの事はあるな! 俺様の方も、さっきの暴言は全面的に撤回するぜ、ガッハッハ!」

「ふん。では水くさいのも何なので、親しみを込めて、貴様をジャンキーたけしと呼び捨てにしても宜しいか?」

「そりゃテメェ、フレンドリー飛び越して悪口じゃねーか、バッキャロー、コンニャロー! ……おおっと、今は急ぎの俺様で、こうしちゃいられねぇんだったぜ! 又後日、日を改めまして、ゆっくりと語り明かそうや煜煜! じゃあな! ガッハッハ!」


 そう言い残すと、ジャイロたけしは猛スピードで、自分の元来た道を引き返して行くのであった。


 ふむ。中々にからかい甲斐の有る玩具おもちゃが現れたものである。僕の心のブックマークに、一応登録しておいてやるか。


「ふん。にわかには信じ難いが、馬鹿に出来ない程の馬鹿さ具合だな、あの男」


 僕がそう呟いた直後である。周辺に居た大勢の民草が、完全に僕らダダンダウンの存在に気が付いてしまったのだ。

 そうして、僕と圭助は、あれよあれよという間に取り囲まれ、図らずも即席握手会の開催と相成った訳である。好感度、これ大事(二回目)。


 あっ、某日本の女性アイドル集団の様に、初回仕様限定の新曲コンパクトディスクを、掃いて捨てるほど購入させて権利獲得みたいな、そげな阿漕あこぎな真似は決してしていないからな。

 あちらさんが会いに行けるアイドルってか、買いで儲けるビジネスなら、僕らサイドは(無料で)会いに行ける高校生芸人で、愛に生きるコメディで行かせてもらおう。

 ふん。A○Bグループより、S.O.B.グルーヴって事で何とぞ。


 だが、これでは僕とKAGUYA-HIMEとで、じっくりと愛を語る事が、ままならぬ事態に陥ってしまうではないか。


「ふん。おい、圭助よ。KAGUYA-HIMEが去ってしまう。「間抜けなジャイロたけしを、どうにかこうにか追っ払いましたぞ」と、恩着せがましく彼女に言い聞かせ、二人の距離を縮めちゃおう大作戦がだ。どうすれば良い?」

「なはは、知らんし。今はこのファンサービス、即席握手会に専念せえや。ファンの皆様があっての物種。は神様です。大事にせんと。お前が俺に、いっつも口を酸っぱくして言うとる事やろがい。耳にたこが出来たわ」

「ふん。ピンからキリまで、圭助様の仰る通りで御座います。さて、久方振りに、ちょっくらむせび泣いてみても差し支えありませんかな?」

「なはは、好きにしいや。思う存分醜態を晒してみ。それおもろそうやし、俺も見たい」


 ……ふん。もう随分と見えない所まで行ってしまったのだろうなと、ふとKAGUYA-HIMEの方向を確認してみる。

 するとどうだろう。まだまだ肉眼で確認出来る距離の所でモタついているではないか。ドジっ娘にも程があるぞ!


 それから更に数分が経ち、彼女の姿が大分小さくなった頃、その大事件は起こってしまったのである。


「おい、煜! 変態や! じゃなくって大変や! 可哀想に、KAGUYA-HIMEが未だかつて無いって位に、盛大にしよったで! ……おー、俺ってば、めっさ目が良くてラッキーやったわー。彼女のおパンツが丸見えでっせ」

「なあんやあて! 思わず僕も関西弁になあってまあう案件やあんけ!」

「なはは、全然アカンな。めっちゃど偉いエセ関西弁やんけ。関西人とちゃう奴が、無理して関西弁喋ってんのって、聞くに堪えられへんねん。アクセントがちゃう過ぎて、めっさイラッとすんねや」

「ふん。そんな西の言語の確執なんぞ、今はどうでも良いわ。そんな事よりも、KAGUYA-HIMEのお宝映像の詳細はどうであったのだ? の色は、なに色だーっ!!」

「なはは、純白ショーツは清純の証や。ダダンダウンのごっつええ感じやったで。なんつってな」

「おい、圭助! お前の肉体に、写真オア録画機能はフル完備で充実なのだろうな?」

「なはは、任せときや! 俺の心のハードディスクに、ばっちり高画質撮影オア保存しとるっちゅうんじゃ!」

「うむ。貴様程の男ならば、その程度の性能は備わっておると信じていたぞ。後で画像オア動画をコピーし、僕の携帯に送信して

「なはは、ムービーやったら、容量がでかいし、録画用ブルーレイディスクに焼いて渡したるわ。それに、煜の古臭い旧式携帯やと、多分再生不可能や思うねん」

「ふん。そうなのか。何てこったい。……ええい、もう面倒だ。その記録は圭助の眼球から撮り込まれ、心の臓に刻まれたのであろう? だったら、今すぐ胸部を切り裂き、中身を貰い受ければ手っ取り早いではないか。そして貴様に拒否権は無い」

「なはは、いやに猟奇的なボケやな。この手のネタって、あんまし一般には受けへんよ。……え? 冗談やんな? ちょっ、怖い怖い! 獲物を狙う獣の様な眼差しになっとるやんけ! おい煜! マジで正気に戻らんかいや!」


 このあと滅茶苦茶圭助にスマック(ビンタ)された。


 ふん。これが、この上なくロマンティックな、僕とKAGUYA-HIMEとのファーストコンタクトだ。


 まさか、彼女と愛を育む事が、異次元世界の扉を開くトリガーであり、そこよりい出た魔物の軍勢との壮絶な戦いに巻き込まれる事になろうとは、この時はまだ知る由も無かったのである。


 ふん。80年代に、何故か大量に制作されたOVA|(オリジナル・ビデオ・アニメーション)で採用されていそうなストーリーだな。有りと有らゆる物が玉石混交ぎょくせきこんこう、エログロにも寛容、バブル景気の黄金時代での話だ。あの頃であったならば、或いはまかり間違い、好評を博したのかもしれぬがね。


 ふん。断っておくが、異界うんぬんかんぬん、丸っと嘘っぱちだ。そんな物語にはならないし、なってたまるか。残念だったな愚か者共め。


 ……と、例によって、この僕の大きめ声量での独り言に、怪訝けげんな顔をするファン達である。


「まだボケとんのか、お前は! ええ加減にしいや!」


 今度は先刻よりも十割増しキツ目の往復ビンタを、圭助に食らわされる僕であった。

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