第5話
「なんだこれ!」
「わかんねぇけどやべえぞエイル!」
「くっそ! スペンサー! エイル! やってもやってもキリがない!」
空から降って来る魔物を与えられた武器で倒す、伝説の武器を持つ3人。
「くっそ、もう魔力が!」
「「我、祈りを捧げるもの勇敢なる戦士に魔女(聖女)の寵愛を!」」
「モルガナ! メアリー!」
「私達も手伝いますわ」
「何も出来ないなんて、『魔道士の名が廃る』です!」
「……よし、何とか持ちこたえるぞ!」
そしてヒロインの二人も増えた。
……キラキラした主人公達が勝てるわけが無い相手と戦っている。
私とは大違い。
「……私のせいなのに」
「おい、大丈夫かよえーっと」
「……レイです、レイ・アルペジオ……そのありがとうございます、ファイン様」
走って逃げた場所にたまたま居た彼は私が安全な所に行くまで護衛をしてくれるらしい。
シェリーったらいつの間に第二王子にそんな事頼れるようになったんだ。
私と同じ普通の女の子だったのに……いや、違うか。
昔からそうだったっけ、あの子人気者だったから。
何も考えないでノリと勢いで行動して、みんなの笑顔が見れるなら自分が笑いものになっても構わない天性のエンターティナー。
笑顔を振りまく彼女は誰からも愛された。
そんな彼女が私は大好きだ、今回の事もきっとどこかで後悔して後で文句を言ってくるんだろう。
……文句を言う場所はお互い違う場所になるかもしれないけど。
「礼はいい、お前の親友に頼まれたんだ救ってやるのが人情ってもんだろ」
「……すみません、私を許してくれて王族なのに」
その言葉を聞いて彼は少し機嫌を悪くしたように見えた。
「あのなぁ、王族誰もが自分の権力に縋り付くクズだと思うなよ一般人。つか、お前が王になるとか関係ないし。あんなの予言だろ? 未来なんてちょっとした事で変わるんだぜ? あんな戯言に翻弄されてる兄貴達の方が可笑しいんだよ」
「……なんかすみません」
「いいって、別に。俺もごめん。お前の方が大変なのに変な事言って」
彼は申し訳なさそうな顔を私に向ける。
「そりゃ、そうだよな、うん。あんなこと言われちゃ俺が怒ってるって思うよな。でも安心しろよな、何かあったら俺が援護してやる。くっそくだらない予言なんかで一人の人生取られてたまるか!」
「ありがとうございますファイン様」
深深と頭を下げる私に彼は笑って気にするなと言った。
「お前は悪くねえよ、何もしてないのに、命狙われる筋合いねぇよ」
「……そう、ですね」
何もしてない……か。
なんかとっても心を抉る一言だな……
本当に私何もしてない。
多分これ私のせいなのに。
解決する力も持ち合わせてるくせに、逃げてばかりだ。
戦う力もあるのに、教師達に歯向かうこともあの怪物にも立ち向う意思もない。
何をするか選べるのに何もしていない。
折角、自分が主人公になれると思ったのに……
選定の剣。
それは、王様の卵が力をつける為の剣。
昔読んだ本に書いてあった、選定者が認めた人にだけ与える選定の剣。
その失われた剣が何故か知らないけど、私が手にした。
こんな普通の私に王の素質があるなんて、ちょっぴり嬉しかった。
王になる気はなかったけど、なんか期待しちゃった。
これで私は普通から特別になれるんだって。
けれど、私がそうなったせいで運命は動き出した。
私さえ居なくなればこれは終わる。
理解はした、けど死にたくなかった。
でも怖かった、死なない道を選ぶって事は色んな人間に迷惑をかけるって事だ。
あそこで、抵抗することも諦めることも出来なかった。
そんな私が王になる資格なんてない。
普通の私には普通の人生がお似合いなんだ。
……あそこで動けたシェリーが羨ましいよ。
というかなんで私を助けたのよ。
バカとか私に言っちゃってさ、あのジジイ共に歯向かったら、あの子戦えないのに……絶対危険な目に遭うのに……
なのに私、あの子を置いて逃げちゃった。
戦う力はあったのに、今も握ってるのに。
私全然ダメダメじゃん。
「暗い顔すんな、お前は俺が責任もって安全な場所に連れていく、そしてその後あいつらは俺が倒す」
「だっ、駄目です! ファイン様も逃げてください! ……あんなのに勝てるわけない!」
「けど、戦ってる奴らもいるだろ。戦わなかったらなんかあいつらに負けた気がするし」
「失礼ですが、ファイン様の武器は」
「生憎俺は普通の武器だよ、だけど安心しな、武器なんかに頼らなくても俺は強いってとこ見せてやる」
「無理ですよ! 伝説級の武器を使っても苦戦してるんですよ!」
「でも、誰かがやんなきゃ誰も助けれねえよ」
……この人もだ。
シェリーもだけど、自分の力で適わないかもしれない相手にどうしてすぐに動けるの。
怖いとか思わないの?
……普通じゃないよ。
……これじゃあ、力のある私が惨めで情けないじゃない!!
折角王になれる資格を持ったのに、これじゃあ豚に真珠じゃん!
なんかそれ悔しい! ムカつく!
勇気がないってこんなにも愚かで惨めなの!?
マジムカつく! ムカつく! ムカつく!
私をこんな目に遭わせる運命も、自分の弱さも!
なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないの!
あの泉一生呪ってやる!!
だから……!
「生きなくちゃ」
「えっ……」
「ファイン様、援護お願いします」
外を見ていた窓を開けて縁に足をかける。
私の言動に驚いて間抜けな声を出したファイン様に構わず私は自分の心に従って動く。
「あっちょっと! ここ2階だぞ!」
「大丈夫です」
「あっ! バカ!」
「『ライク・フェザー』!」
自分の背中に羽ようなエネルギーを纏いふわりと着地。
「おいおい、嘘だろ! 空飛べんのかよ!」
「へっへーん、イタズラ好きの悪ガキは、逃げる方法がたっくさんあるのだ!」
……よし、やるか!!
力いっぱい剣を握ると、選定の剣の魔力と私の力が混じり合う。
「選定の剣よ、我に力を!我、新たなる道を切り開く覚悟を持った者、我、民を守る為命をかける者! 汝の主となる者! その身を我に捧げ希望となれ! #新世界を誘う王の剣__レイルカリバー__#」
自然と頭の中に浮かんだ呪文を唱えると、光を纏いその剣は姿を変えた。
「……これでもう逃げられない……ね!!」
大きな一撃で怪物は悲鳴も挙げずに真っ二つ。
「すげぇや、援護なんていらねーじゃん」
「なっ、なんだあの力は……」
怪物を切り裂いていたら、私の未来のライバルと鉢合わせてしまった。
けど、今はそんなこと気にしている暇じゃない!
「エイル様! 助太刀します!」
「……ちっ! お前の手は借りん!」
「じゃあ勝手にやらせてもらいます!」
頭が硬い王子様は放っておいて、降ってくる怪物をとにかく切り刻む。
それしか皆と私が助かる方法はない!
……いや、まって、あるじゃん方法。
あの雲から降ってきてんでしょ……?
それなら雲を晴らせば!!
「ライク・フェザー!」
剣を持って私は飛び立った。
降ってくる怪物にちょっかい出されるけど、それも私の前では無意味だ。
雲まで後ちょっと……ここで最大出力を出せば!
「
てやああああ! 雲よ晴れよ!」
「無駄よ、選定の子」
「えっ……」
私の斬撃は空気の壁に塞がれた。
そして目の前にいる女はハエを叩く様に手を横に振った。
すると私の体の力がすうっと抜けてそのまま真っ逆さまに落ちていった。
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