第4話
「ふぃー危なかった、モルガナのやつ色々と面倒臭いんだよなぁ……」
知らない男の子に手を掴まれてどこかに逃げるだなんて、どこのロマンス小説だろうか。
多くの女の子が憧れるシチュエーションを体験したがとくに甘い思いは抱かない。
抱いたのは、この男への不満だ。
「いつまで、私の手を握ってんですか似非王子」
「誰が似非だ、ひのきの女」
握った手を離して私を睨みつけるファイン。
「だって私貴方のこと知らないんですもの」
「あぁ、そうかい。じゃあ覚えとけ。俺の名前はファイン・ゴールドプラント。この国の第二王子だ」
人に指を指すとはこいつ礼儀がなってないな、私の憧れたプリンス、プリンセス達はもっとこう、気品があって……
「おい、なんか失礼なこと考えてるんじゃないだろうな」
不満そうな顔で私をじっと見つめるファイン。
「いえ、王子様にそんなこといたしませんわ」
「やめろその営業スマイル! 気色悪い!」
私の営業スマイルを気色悪いだと……?
認めん! 私はこいつをプリンスだと認めたくない!
「というか、ファイン様、なんでブロンズ学科なんですか王族でしょ貴方、庶民と一緒の学問なんて……」
「あー、あんな硬っ苦しいやつらと勉強だなんて息が詰まるからな。それだったら知らない奴らと好き勝手やりたいと思ってさー」
「はぁ……そうなんですね」
「あと普通に国民と話したいから」
「……!」
初めて彼を王子っぽいと思った。
そっ、そういう思考だよ! やれば出来るじゃないか君!
煌びやかな王族が庶民の心を分かろうとしたりするのはまさに王道ストーリー!
私のフェイバリット! YES! アイアム!
「おっ、初めて俺を尊敬した!」
「なっ、なんの事やら」
「……めっちゃ目がキラキラしてたぞ」
溢れんばかりの興奮が顔に出ていたのがバレた。
「だから私本当に何も知らないんです!」
「ん? なんだ?」
職員室からレイの怒鳴り声が聞こえてきたので職員室に走った。
「まっ、不味いぞ予言の通りになったらどうするんだ!」
「やっぱり政府には秘密に……」
「でも、ユーリ様に知らせないと……あの泉の管理者ですし……」
「馬鹿野郎! ユーリ様は宮廷魔導師だ! 長年王様に使えてるんだぞ!? 新たな王だなんて!」
レイのことで揉めてるベテランの先生達。
なんだなんだ、これ。
何がどうなって……
「おい、お前の友達やばくないか」
「何が」
「このままだと、あの先生達何するかわかんねえぞ」
「どういう事?」
「予言だよ、予言! 知らないのか!」
切迫した彼の雰囲気に私はビクつきながら、首を横に振ると彼は少し考えて、予言について教えてくれた。
「昔なこの国にいた予言の魔道士ロベルタがこの国の滅亡について残したんだ。新たな王現れる時、災厄が訪れ、真の王が選ばれるってな」
「……てことは、レイは本当に」
「違ぇよ、まだ王じゃない。この世界に災厄が訪れてそれを払わないといけないんだ。その災厄を払ったやつこそ真の王。……このままだとお前の友達と兄貴は王の座を賭けて戦うことになるってことだ」
「……何それ、だってレイは普通の女の子なんだよ!」
そうだよ、レイは昔から私と一緒で、ちょっぴりイタズラ好きの元気で楽しいことが好きな普通の女の子で、特別なことなんてした事ないんだから!
強さも魔法も才能も! ごくごく普通の一般人!
帝王学なんて学んだこともないし、戦争もできない!
なんであの子が……!
「俺が知るかよ、それよりあの教師達見ろよ」
怖い顔で彼女に書類を渡す老人先生。
「アルペジオ、君には悪いがその剣を泉に返せ。そして学校を出ろ」
「……なっ、なんですかそれ。私に関係ないじゃないですか!」
「関係なくない、これは君のためでもあるんだ」
「自分の為に自分で退学するなんて嫌です!」
「……いいかい、さっきも話した通り予言通りにいくと君は王になる可能性があるんだよ。そのために多くの人や今の王家を犠牲にするのかい? 君は王になる覚悟があるのかい? 今の世界を壊して新たな世界を治めることが出来るのかい?それに……君自身も死ぬかもしれないんだよ……新たな王が現れた瞬間災厄はやってくる、君が存在しているだけで多くの人間が困るんだよ」
「……そっ、それは……私に死ねっていうんですか!」
「そこまでは言ってないだろう、ただ剣を収めて普通の少女に戻ればいいのだ、その剣さえ無ければことは収まる」
唇を噛み締め、老人教師を睨みつけるレイ。
「……剣を返すだけで収まるわけないだろ」
ファインの言う通りだ。
……予言の通りなら新たな王はもう現れた。
レイが剣を返しても、王になる権利を返しただけ。
王の器はまだここに残ってる。
「あの老人共……!」
嫌な考えが頭によぎる。
「ちょ! ひのき!」
「シェリーよ! 似非王子!」
「待て! お前がどうにかできる問題じゃ!」
あの先生達が何しようとしてるのか分からないけど、レイが酷い目に遭いそうなってる事くらい分かる!
……何が予言だ、そんなの関係ない!
選定の剣に選ばれて、ちょっと羨ましいって思って嫉妬したけど、あの子は私の大切な親友だもん!
失いたくない!
「やめろおおおお!!! レイに酷いことするな!」
何も力のない私だけど肉壁にくらいはなれる。
彼女を逃がす為大勢の大人の前に立ち塞がった。
「シェリー……!?」
「逃げて! その先に第二王子がいるから! 多分何とかしてくれる!」
「でも! シェリー! あんた何も!」
「出来ないからって何!? 人の心配するな! 逃げろバカ! 王の器に選ばれたからって調子乗んな! 素直に人の親切受け取ればーか!」
なにか言いたそうな顔だったけど彼女は無言で走り去った。
「……シェリー・モルドレッド君は何をしているんだね」
「イカれたジジイ共邪魔ですが何か!?」
ため息をつく教師陣。
「何も知らない君がしゃしゃしりでてくるな、力も何も無い、ギフトもひのきのぼうのモルドレッドよ」
「……予言なら知ってるわ」
「なら何故逃がした」
「汚い大人が、何も知らない女の子を殺そうとしているからよ!」
空気がピリッとした。
魔道士達はなんでもやるってのは知ってる。
ここの教師達は魔法のエキスパートだ、酸いも甘いも経験して血も見てきる。
……だから、まだ力の扱い方が分からない人間を消す事なんて容易い事だ。
それに、こいつらは国の犬だ。
王国の為ならなんでもやる。
「教育者の癖に若者の未来を奪うだなんて残酷すぎるわ! それにたかが予言じゃない! そんなの信じてるなんてとんだメルヘンチックなおじいちゃまね!」
「……たかが予言? 笑わせるな、その予言によってこの世界は生かされていたんだ! あのお方の予言は 予言は絶対だ! ならその原因を潰すのは当然だ! 彼女は災厄の元だ!」
「それが何よ! そんな予言の為に1人殺すっていうの!? 未来の事なんて分からないじゃない!」
「小娘が! 貴様もあの女と同じ道を歩ませるぞ!」
「……やれるならやってみなさいよ! 私を殺す理由はないじゃない!」
「貴様は……本当に何も知らないようだな」
目の前の老人の目の色が変わった。
「老いぼれ魔道士の心はとうに無いことを」
クソだなこれ。
畜生、ふざけんな。
せめて武器が伝説級のものなら……
「きゃあああああ!!! 助けて!!」
「うわああああ!!!!」
窓から聞こえる大勢の悲鳴。
中でくだらない争いをしていたせいで、外で起こっていた異常事態に我々は気づていなかった。
「りっ、理事長! 見てください! 空が!」
「何!?」
窓に向かった理事長。
外を見てみると、どす黒い雲が空に浮かんでそこから気持ち悪い怪物が放出されている。
「何これ」
「災厄じゃ……災厄が降りてきたんじゃ」
「総員出動! 持ち場につけ!」
私の事等どうでも良さそうに彼らは校庭に駆け出した。
私の事に気を取られていたせいで、外で起こっている異変に気づかなかったんだろう。
もう既に何人かの生徒が怪物と戦っている。
そして何人かは肉片に。
……これが、災厄……
教師たちも戦いに参加したけど、圧倒的に不利な状況には変わらない。
……怖い、嫌だ死にたくない。
力もない私はどうすることも出来ないよ。
早く逃げなきゃ……!
「きゃあああああ!!」
「あれは……!」
空から降ってくる一人の少女。
それを見て、さっきまでの考えは消え、いつの間にか体が勝手に動いていた。
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