第67話 エピローグでございます



「ジャン、どこー?」

「ここだよ、こっちまで歩いて来てみ」

「あーい!」


 よちよちと庭を歩く幼い男の子は、漆黒の髪色に神秘的な紫色の瞳を持っていた。

 最近歩くことを覚えたこの子は今はジャンに歩く稽古をつけられている。


「ジャン、ダニエルを見ててくれてありがとう。支度が出来たからもう大丈夫よ」

「キリアンは?」

「もうすぐ来ると思うけど……」

「あっ、キリアン! 遅いぞ、何してんだよ」


 遅れて庭に出てきたキリアンに、ジャンは声を掛ける。


「悪い。ちょっとな」


 今日はジュリエットとキリアンの息子ダニエルをメノーシェ伯爵邸へと初めて連れて行く日なのだ。


 相変わらずジャンを御者に据えて、ジョブスに借りた馬車で整備された道を走り森を抜けた。


「この辺りも、とても走りやすい道ができたのですね」

「集落の産業も好調だからな。家具は売れるし材木も運搬がしやすくなって、より林業も栄えてる」


 窓の外を眺める二人は、ジュリエットの膝に寝転がって眠るダニエルへと視線を向けた。


「寝たな」

「随分と歩いていたようですから、疲れたのでしょう」


 ジュリエットは愛おしそうにダニエルの黒い髪を撫でる。


「ジュリエット」


 真剣な声音で名を呼ばれて、ジュリエットはハッと向かいに座ったキリアンの方を見る。


「これをお前に」


 渡されたのは小さな赤い布張りの箱で、開けてみれば中には真珠を使ったネックレスが入っていた。

 取り出してみれば、あのジュリエットの好きな白い野花をモチーフにしたもので少々高価そうなものである。


「これ、どうなさったの?」

「婚姻の指輪は間に合わせだったし、それからも何にもお前にやることもできないままだったから。エマ婆さんに頼んで腕のいい職人に作ってもらった。真珠は俺にとっては、まあお前に出逢ったきっかけみたいなもんだし。それに、その花好きだろ?」


 ジュリエットは見ればすぐに分かった。

 この真珠は『人魚の涙』、きっとエマ婆さんに頼んでわざわざ探させたのだろう。

 もしかしたらジュリエットのものかも知れない。

 

「ありがとうございます、キリアン様。とても嬉しいですわ」

「おう。着けてやるよ」


 揺れる馬車の中であったが、器用にもキリアンはジュリエットの細い首にネックレスを着けた。

 そしてダニエルが気持ちよさそうに寝ていることをいいことにジュリエットの頬へ手をやり、柔らかな唇に優しい口づけを落とした。


「真実の愛ってやつはこんなに幸せでいいのか?」


 キリアンは黒曜石のような深い黒の瞳を真っ直ぐにジュリエットへと向けて問いかける。


「勿論ですわ。やはりキリアン様は私の王子様でした。これからも、キリアン様のことをずっと愛していきますから。私にずっと愛される覚悟はよろしいですか?」


 ふわりと微笑んだキリアンは、ジュリエットの柔らかな髪に手を入れて梳くようにしながら答えた。


「ああ。俺もそんなお前がこんなに愛しい」


 家族三人が乗った馬車はもうすぐ久方ぶりののメノーシェ伯爵邸へ到着する。



 


 世間知らずで破天荒で頑張り屋の人たらし令嬢は、自分好みの平民の王子様からの愛を求めて地位も贅沢な生活も捨てました。

 いつか二人の間に真実の愛が育つことを信じていたら、思いの外溺愛されることとなったのです。


 そうしてこの幸せはこれからずっと続いていくのでした。

 






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真実の愛を見つけましたわ!人魚に呪いをかけられた箱入り令嬢は、好みの顔した王子様のようなお方を溺愛しております 蓮恭 @ponpon3588

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