アリシア・ヴァーミリオンの前世は『山本やまもと知子ともこ』という、どこにでもいる庶民だった。


「それこそ、本当にどこにでもいる学生……いえ、死んじゃった時は学生ですらない引きこもりだったわね」


 そう言ってアリシアは自虐的に笑う。


「お嬢様が引きこもり……ですか」

「……意外だったかしら?」

「正直、はい」

「ふふ、素直ね」


 しかし、それは事実らしい。


「ですが、どういった経緯でそうなったのですか?」

「……そうね。やっぱり気になるわよね」


 そう言ってアリシアは、過去の自分と向き合っているのか、真っ直ぐと前を向いている。


「でも、あの時の私も今の私も状況はあまり変わらないのよね」

「変わらない?」

「ええ、あの時の私も……今と同じ。男の子と仲良くしすぎたのよ」

「……」


 アリシア曰く、前世のアリシアにも数人。仲の良い男友達がいたらしい。


「その中の一人がね。ものっすごい人気者でね。でも、私は小さい頃からの付き合いだったから、特に気にしていなかった」


 本人としては昔の友達の延長のつもりだったのだろう。だから、特に気にしていなかった。


 ――ですが、他の人たちはそのお嬢様の態度が気に食わなかったのでしょうね。


「最初は無視程度だったけどね」


 しかし、ある日。突然そんな女子たちから謝罪を受けたらしい。


「私もどうして? っていう疑問が浮かんだけど、ちゃんと謝ってくれたから……」


 そうして次第に仲良くなった……はずだった。


「私の誕生日が近づいた時に、一人の子が私の誕生日会をしようって話になってね。場所は私の家に決まったの」


 アリシアの前世の母親はお菓子作りが好きな人だった。だから、その話を聞いてはりきって準備をしたらしい。


「でも、誕生日会の当日。私の家には誰も来なかった。しかも、その次の日からまた無視が始まってね」

「……」


 そんな時に偶然聞いた彼女たちの会話から最初から謝罪の気持ちなどは全くなく、アリシアを貶めるために仲良くしていたという事を知った。


 ――なるほど。だから誕生日会であんな事を言っていたのですね。


 思い出されるのは、小さい頃に行われた誕生日会での会話だ。確かに、アリシアはちゃんと招待客が来るか心配をしていた。


 ――こういった記憶があれば、心配になるのも仕方がないでしょう。


「それを知った時。私はどうしようもなく落ち込んで……それで、引きこもりになった」

「あの、その男性のご友人の方は……」

「何もないわ。最初こそ心配して連絡とかしてくれたけど、次第にそれもなくなった」

「……」

「でも、引きこもりと言っても特にやる事もなくてね。だからと言って外にも出たくない……あの子たちと顔を合わせたくなかったし」


 そんな時に出会ったのが、この世界を舞台にした『物語』を主としたゲームだった。


「それで遊んでいる内に、話し相手も出来たの」

「そう……なのですか?」

「ええ。まぁ、なんというか。顔とかは知らないけど、話が合う人って感じね」

「……なるほど」


 アリシア曰くパソコンなるモノがあれば、顔を全く知らない相手とも連絡を取ることが出来るらしいのだが、正直その辺りの話はクリスには全く分からない。


 ――とりあえず、話の合う相手が見つかった……という事ですね。


 一応、説明はしてもらったが、全く分からなかったクリスはそう思う事にした。


「それで、その人から私が攻略した『物語』以外の事も教えてもらって……そして、その人と初めて会うその日に……」

「事故に遭って亡くなってしまった……という事ですね」


 クリスが断言する様にそう言うと、アリシアは黙って頷いた。


「だから、結局。今回の事も、前世も……結局のところ、生まれ変わっても私は何一つ変わっていなかった……というワケね」


 アリシアは「ふぅ」とため息をつく。


「……」


 そんなアリシアに対し、クリスは「そう……なのでしょうか?」とふと疑問を浮かべる。


 ――確かに今の話を聞く限り、前世も今も『原因』は一緒な様に感じますが。


 しかし、アリシアが今も昔も変わらなかった事で変わった事もある様に感じる。


 例えば、カイニスもルイスも……キーストンやアインハルトもアリシアの言っていた様な『物語』の登場人物とは少し違う人生みちを歩けているとクリスは思った。


 ――そもそも、お嬢様が全く違う『物語』を歩いていますし……。


 クリスは、自分の前世を話し終わり、どことなく恥ずかしそうなアリシアを見ながら、ふとそんな事を思ったのだった。


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