⑤暴走する令嬢
「アリシア・ヴァーミリオン! あなたがティア・ローレンスに数々の嫌がらせを行い。また、生徒会のメンバーに色目を使い、たぶらかした罪をここで明らかに致しますわ!」
そう高々と宣言するように言ったのはステファニー・ラーナ。
テストも無事に終わり「後はテスト結果を待つ」という少しの緊張感がありつつも、徐々にいつもの日常を取り戻し始めていた……そんな日の出来事だった――。
彼女の周りには以前見た事のある令嬢たち……に加えて五、六人ほど増えている。
「……」
社交界に慣れていない私はただでさえ、人前に出る事に慣れていない。それに加えて、十人近くの人たちから一斉に攻められている。
この状況は……本当に嫌だ。
勉強会をしていた時から話題に上がっていたが、ここ最近の彼女の言動には、生徒会のメンバーたち……特に「王妃にふさわしいのは……」という事で、第一王子のカイニスは一番頭を悩ませていた。
あまりにも勝手な言動のため、不敬罪として法的な措置も辞さない構えだと……カイニス本人からも言われている。
その事を彼女は知らないのだろうか。
ちなみにルイスから聞いた話によると、なんでもステファニー嬢は元々カイニスの婚約者候補の一人だったらしい。
「でも、兄様は『心に決めた人がいる。だから、他の人と婚約は出来ない』ってバカ正直に言って全ての婚約を蹴ってしまいましてね。本当に、嘘がつけない人で……つい」
そう時の事を思い出したのか、ルイスは笑っていた。
昔なら自分の兄に対し「バカ正直」なんて言葉を使うなんてありえなかったから、アリシアも思わずルイスにつられて笑ってしまった。
「ですが、一応気をつけて下さい。兄様がそういう理由で婚約の話を蹴った事で、僕たちと仲のいいあなたが目を付けられる可能性があります」
ルイスはそうアリシアに忠告していた。
そういった経緯もあってか、テスト週間中。
同じように目をつけられているティアもアリシアと同じように一人にならないように気をつけていた。
そう、だからこそ気をつけていたにも関わらずに……だ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
そもそも、本来はこんな人がたくさんいる場所を避けるアリシアがいたのは『手紙』をもらったからである。
机の中に入っていた『手紙』の送り主はティアで、何でもクラスが違うからわざわざ『手紙』を机に入れたのだという。
そして、その『手紙』の指示通りに昼休み、人がたくさんいる食堂へと足を運んだ……というワケだ。
しかし、まさかこんな事になるとはアリシア自身思ってもいない。
しかもテストが終わったという事は、生徒会の活動が再び始まったという事。
それはつまり、今のこの場所に生徒会の彼らは……いない。そしてそれは、この場に彼女の味方は誰もいないという事を意味している。
「……」
そもそも、アリシアは生徒会のメンバーをたぶらかしているつもりなど毛頭なかった。
それに、いくら婚約者候補として名前が挙がっていたとしても、勝手な行動をして王子に迷惑をかけていいというワケではない。
「そうよ! 生徒会の方々一人一人と仲良くされて……それでいてお一人に決める様子もありません!」
「ええ、生徒会の方々が可哀想ですわ!」
そして、令嬢たちとしては「ティア・ローレンスの事」よりも「アリシアが生徒会のメンバーと仲が良い」という事に一言物申したかったようだ。
しかし、その内容はどう聞いても「アリシアが羨ましい」と言っている様にしか聞こえない。
パッと見た感じ口々に文句を言っているのは、どの人たちもアリシアが数回しか行った事のない社交界で見かけた事のある人たちばかりだ。
それはつまり、そこそこの位の人物であるという事。
そして、それは「全員王子の……いや、生徒会のメンバーの婚約者候補になり得る人たち」だという事を意味していた。
「……」
いつもアリシアであれば「そんなに羨ましいのなら……」と思っていたに違いない。
しかし、この時。アリシアは何も言わずに……いや、言えずにその場で立ち尽くして、どんどん息が辛くなっていて、それどころではなかった。
「ふん! 何も言えないようね!」
勝ち誇った様に言って高笑いをするステファニーの姿……そこまではアリシアも覚えている。
「なっ、何よ」
しかし、この後ステファニーはその高笑いを一瞬止め、怪訝そうな顔でアリシアを見たのだが……それを当の本人は覚えていない。
「……」
なぜなら……アリシアはこの後、その場で気を失って倒れてしまったからである――。
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