②
遠目で見た時は全然気がつかなかったが、アリシアたちの前にあるドアは教室にある扉の倍ほどの大きさがある。
「……なんか、とても私はお呼びじゃないって感じのドアね」
そのあまりにも多く重厚なドアに、アリシアは思わず立ちすくむ。
「はは、なんだよ。それ」
「だって、こんな大きいドアなんて……久しぶりに見たから」
「何を言っているのさ。王宮に行っていた時はこんなの比じゃなかったと思うけど?」
「う、それは……そうだけど」
確かに、あの時は「こんな大きなドア。子供に開けられないわよ!」と言いたくなるほど大きく、また豪華な装飾もされていた。
それと比べると……いや、そもそも王宮と学校では比べる事自体おこがましい。
「とりあえず、サッサと入って勉強しないと。時間は有限……でしょ、姉さん?」
「……そうね」
ウインクしながら言うアインハルトに、アリシアはため息混じりに答える。
「よし」
アインハルトは軽くノックをしてすぐドアを開けたが、アリシアはそれよりも先程のアインハルトがいつもそういった事を他の貴族令嬢にもしているのか……と思ったら、今度は別の意味で頭を抱えた――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「おや、お嬢様」
扉を開けてすぐに、なぜかこの場所にはいるはずのない執事のクリスがアリシアに気がつく。
「クッ、クリス! なんでここに!」
「俺が呼んだ」
思わず声を上げてしまったアリシアの元に、一人の男性が現れる。
「カイニス様! なっ、なぜですか?」
「彼は君の執事だからね。勉強の面でも役に立つだろうってお兄様は考えたらしいですよ」
どこから現れたのかルイスがそう言うと、クリスは「精一杯務めさせて頂きます」と頭を下げた。
「まぁ、君の専属の執事だったから、幼少期から一緒に『魔力制御』の勉強を受けていたんじゃないか……って言うのが僕たちの共通見解」
「ひっ!」
「ははは。良いリアクションだけど、そんなに驚かなくてもいいじゃないかな」
いつの間に現れたのか、アリシアの後ろにはキーストンがいた。
全く気がつかなかったところを考えると、本当にこの人は気配を消せるんじゃないか……というくらい自分の気配を消すのが上手い。
「……キーストン様。突然後ろから現れないでくれますか。姉さんが驚くので」
明らかに怒り心頭のアインハルトに対し、キーストンは「はは、ごめんね。ドアの前にいたから……ついね」と、全然アインハルトの怒りは伝わっていない様子だ。
「……」
正直、この二人はいつもの通りなのだが、そんな相対する二人の様子をオロオロと見ている人物が一人……。
「アッ、アリシア様」
「あ、ティア」
この態度を見る限り、あまりティアの前でこういったやり取りをしていないのだろうか。
「あ、あの。お二人は……」
「ああ、いつもの事だから」
そう言ってアリシアはティアが座っている隣のイスに自然と腰掛ける。
「あ、じゃあアリシア様の隣はぼ……」
「いえ、姉さんの隣は俺です」
アインハルトは隣に座ろうとしたキーストンを遮るようにアリシアの隣を陣取った。
「えー、君は家に帰れば一緒に勉強出来るだろ?」
「それとこれとは話が別ですので」
「ふふ、じゃあ今回は俺が彼女の前に座ろうかな」
そう言ってルイスはしれっとアリシアの前に座る。
「ルイス『今回は』とはどういう事だ」
「……そんなに怖い顔をしなくても兄様が思っている様な事ではないので気にせず」
ルイスはギロッと睨むカイニスに対し、サラッと答える。
「……とりあえず、勉強を始めましょう」
そんな各々のやり取りを見ていたアリシアは、小さくため息をつきつつ、そう言った。
「そうだな」
「そうですね」
「はい、姉さん」
「今日は仕方ないね」
リアクションはそれぞれ違ったが、とりあえず勉強会』が始まる空気に、アリシアだけでなく、ティアもどことなくホッと胸をなで下ろしていた――。
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