第8章 ありえない展開


 魔法学校の生徒会室は、教室から離れた『特別棟』という校舎の中にある。


 こうした場所に出来たのには「生徒会に選ばれた生徒を守るため」という理由があり、最初にこの設定を前世のゲームで見た時「なんでそんな事のためにこんな面倒な事を……?」とアリシアは思っていた。


 しかし、実際にこの世界に転生し、彼らと同じ学校に通い始めて分かったのだが……。


「きゃー! カイニス王子―!」

「ルイス様―!」

「キーストン様、またお話ししましょうねー!」

「アインハルトくーん!」


 ――とにもかくにも彼らは目立つ。


 そしてコレは今に始まった話ではなく教師陣曰く、なんでも昔から生徒会に選ばれたメンバーは、こういった状況になりやすいそうなのだ。

 それに加えて彼らは王子に宰相の息子だったり公爵の息子だったりするワケで、例年の比ではない。

 だからこそ、学校側はそんな一般生徒が使える校舎から離れた場所に生徒会室を設置し、一般生徒の出入りを制限した。


 こうすれば、少なくとも生徒会の活動中は用事のある生徒以外の一般生徒が突入してくる事はない。


「……」


 ただ、声をかけている人数が男性よりも女性が多いのは、多分アリシアの勘違いではないだろう。


 ちなみに『物語』の主人公でヒロインでもあるティアは、この生徒会での活動も含めて、攻略対象たちと交友を深めていく……。

 しかし『物語』の中でカイニス王子の婚約者であり、悪役令嬢のアリシアは生徒会のメンバーではないため、ここに来る事すら出来ない。


 だからこそ、アリシアは彼女対し余計に嫉妬をするのだが……。


「……」


 そんな中、なぜかアリシアは本来「一般生徒立ち入り禁止」の生徒会室へと続く道をアインハルトともに歩いていた――。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆


「え……と」

「ん? どうしたの、姉さん」


 確か、私は授業が終わり迎えに来たアインハルトに連れられてここまで来た。


 ――それ自体は何も問題はない「それ自体」は。


「ちょっ、ちょっと確認したいんだけど。アインハルト」

「うん?」

「今はどこに向かっているのかしら? どう考えても図書室じゃないわよね?」

「え、どこって……生徒会室だけど」


 サラリと答えるアインハルトに、アリシアは思わずめまいがした。


「ねっ、姉さん? 大丈夫?」

「……大丈夫よ。でも、私の記憶が正しければ今から生徒会の人たちと勉強会をするのよね?」

「あ、ローレンスさんも一緒にしたいって言われたんだけど」

「それは知っているわ。私が進言したのだから」


 額に手を当てながら、若干顔色を悪くしつつもアリシアは答える。


「ふーん、なるほど。それよりも姉さん、いつの間にローレンスさんと仲良くなったのさ」

「……ついさっきよ」


 今日の昼休みなので間違いではない。


「それがどうかしたのかしら?」

「いや。ローレンスさんって基本的に自分から意見を言わない人だから、一緒にここで勉強したいって言われて驚いただけだよ」

「……そう」


 昼休みに見たティアの様子では、確かにアインハルトの言っている事は分かる。


「最初は図書室で……って話だったけど、図書室も教室も人が多いし目立つから、生徒会室なら集中して勉強出来るだろうって話になったんだよ。勉強するのに周りの目を気にしていたら集中出来ないだろうし」

「そうね」


 言われてみれば確かにそうだ。つまり、彼らは自分たちの特典を上手く利用した形だ。


「職権乱用とも言うけど」

「使えるモノは使うまでだよ。それに、僕たちとしても生徒会に入っている以上は成績で他の生徒に遅れを取っちゃいけないし」

「……そうね」


 アインハルトはそう言いつつ、なぜかアリシアの方を見る。


「何?」

「姉さん、今度のテストで絶対手は抜かないでね」

「あら。あなた、まだ疑っているの? 入試試験の事」

「まさか! さすがに仕方ない……って、割り切ったよ。でも、今度のテストは『魔法制御』も入ってくるからね。さすがに入試試験みたいにはならないだろうって、俺も含めて全員姉さんを警戒している」


 そう、入試試験では『魔法量』に重点を置いていたが、テストになると「学校で学んだ事」に重点を置く。

 つまり、テストの順位の変動が起きやすいのだ。通常なら。


「それは、少し荷が重いかも知れないわね」

「ははは、そんな事思っていないくせに」


 しかし、クラスによって授業の丁寧さが違うため、そうそうあからさまな順位の変動は起きない。


「まぁ、お互い頑張りましょう」


 だが「そんな話はアインハルトには関係ない」とアリシアは小さくため息をつき、そう答えた。


「ねえ……」

「あ、あそこね」

「え」

「生徒会室」

「ああ、うん」


 アリシアのため息を不審に思ったアインハルトだったが、すぐに目的地に辿り着いてしまったので、何も言わずにアリシアの後をついて行ったのだった。

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