「……」


 この魔法学校にもテスト前に『テスト週間』というモノが存在し、その期間中は教室も図書室も人が多く、生徒会の活動も休みになる。


「……」


 アリシアはその話を知った当初は特に気にしていなかった。


 なぜなら、彼らはいつも一緒に行動している上にSクラス。Bクラスの自分は関係ないモノだと思っていたからだ。


『姉さん。テスト週間、俺たちと一緒に勉強しない?』


 アリシアはテスト週間に入る前に、図書室で「資料を探しに来た」というアインハルトからそんな提案をされ、その場で固まった。

 しかも、よくよく聞くと「一人ずつという個別ではなく、全員一緒に勉強会をする」というモノ。


 アリシアはその話を最初に聞いた時は驚いた。

 義弟であるアインハルトだけでなく、まさか全員と……とは思っていなかったのだ。

 しかし、生徒会に所属しているという事は、学年トップクラスという事を意味している。

 そんな彼らと一緒に勉強が出来るのは、アリシアとしては本当にとありがたい。


 ただ――。


「いや、俺たちの方が教えてもらっている様なモノだ」


 しかし、実は最初アリシアは「ただでさえ色々と言われている自分と一緒にいるところを見られたら」と辞退しようとした……が、カイニスにそんな事を言われ、アリシアは思わず首をかしげた。


 ――いや、勉強を教わるのは自分では?


 そう思っていたけど、カイニスの言葉に弟を始めとした残り二人もなぜか同意し、逆に断る事が不敬……みたいな雰囲気になり、引き受けざる終えなくなった……というのが本当のところである。


「時間は放課後という事になっているけど……」


 そして、今は昼休み。


 人が残っている教室にいるのも図書室に向かう気にもならなかったアリシアは昨日いた場所ではなく『中庭』にいた。

 ここであれば「校内」という扱いになり、クリスが突然現れる心配もなく、一人でいられる。


 ただ、難点があるとすれば……。


「少し、人目につきにくい場所が何カ所かあるところかしら」


 パッと見た感じでは一面芝がある様に見えるけど、四隅の方は木々などがたくさん生い茂っていて、そこが死角になっている。


 それを考えると防犯面では少し不安だ。


 本当であれば、いつもアリシアはこの時間。図書室にいるのだが、今はテスト前のテスト週間。

 当然そこにはたくさんの人が出入りしているだろう。

 クリスには「私が影で色々と言われているから」と説明したけど、実際は少し事情が違う。


「……」


 この学校は庶民も貴族も関係なく学んでいる。


 しかし、この両者には埋められない『溝』があり、この『溝』が余計なケンカを引き起こすきっかけになる事が多い。

 そもそも、貴族は「自分たちが偉い」と思っているところがあり、庶民を完全に下に見ている。


 そして、それが顕著に出るのが図書室の机の争奪戦だ。


 たとえその机を使っている相手の物が置いてあったとしても、自分より位が下だと分かれば、その相手に断りもなく勝手に使い出す。


 もっと悪ければ、その机に置いてある物を床に投げるのだ。


 コレに反抗しようモノなら「私は貴族の○○家だぞ!」という流れになり……ケンカに発展する。


 こうして両者の『溝』は深まっていく……というワケだ。


 生徒会のメンバーはそんな『溝』を出来るだけなくし、分け隔て無くよりよい学校生活を送れる様にしたいと思って活動しているのだが……。


「道のりはまだまだ長そうね」


 今の生徒会のメンバーは女子の人気がとにかく高く、カイニスやアインハルトは男子の人気も高いと聞く。


 一見すると、申し分ないメンバーの様に思えるが……。


「そんな中で一人だけ庶民っていうのは……大変そうね」


 その事実にアリシアは思わず苦笑いになる。


 ゲームのシナリオや設定では結構よくあるシチュエーションかも知れないが、想像と実際になってみるのとではワケが違う。

 アリシアが生徒会に選ばれなかった事を彼らは心底納得していない様子だったが、アリシア本人は「選ばれなくてよかった」とすら思っている。


 ――とても彼らの前では言えないけど。


「とりあえず、教室に戻って私もテスト勉強に……ん?」


「……! ――!」


 教室に戻ろうとしたところで「何やら声がする」と思い、アリシアはふとそちらの方へゆっくりと歩いた。


「?」


 そして、ゆっくりと茂みの中から様子を窺っていると……。


「あんた、生徒会に選ばれていい気になっているんじゃないわよ!」

「どうせ選ばれたのも偶然よ!」


 いかにもテンプレートな悪口の数々に、アリシアは思わず嫌気が指した。


 アリシアは「コレは相手の子も嫌だろうな」と思う。その内容はともかく、色々と言われるのはとにかく面倒なのだ。


「……」


 そう思いつつ言い寄られている相手の方へと視線を向けると……。


「!」


 そこにいた「人物」にアリシアは思わず目を見開いた。

 なぜなら、女子生徒たちに言い寄られていたのは……主人公でヒロインの『ティア・ローレンス』彼女だったのである。

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