第7章 主人公との出会い……?


「……」

「お嬢様」

「何?」

「私の顔に何かついていますか?」


 クリスはジーッと見つめるアリシアに思わず尋ねた。


「ついているっていうワケじゃないのよ。ただいつの間にかけるようになったのか気になって」

「かける……ですか?」

「うん、そのメガネ」

「ああ、コレですか」


 たった今思い出したかの様にクリスはメガネを触る。


「この間までかけていなかったわよね?」

「はい、ここ最近です」

「まさか……年で?」

「……さすがにお嬢様でも失礼だと思いますが」


 そう言うと、アリシアは「ごめんなさい」と言って笑う。


「元々かけていたんですよ」

「あら、そうなの」

「絶対にかけないといけないという程でもなかったのですが、ここ最近はないと見にくいので」

「そうなのね。あまり頑張り過ぎないようにね」

「お嬢様がそれを言いますか」


 この世界で「メガネをかけている」という人は「年齢」か「幼少期に目を悪くした」くらいの理由がほとんどなのだが、後もう一つ「魔法量が多い人間」もコレに該当する。


「それで、わざわざ生徒会が忙しいタイミングを狙って私と話をしたいという事は……」

「ええ、ヒロインの話よ」

「ティア・ローレンス様ですね」

「ええ」


 アリシアはまだ会った事も姿も見ていないが、前世の記憶を頼りに推察するに『物語』の中での彼女の姿は、金髪を肩くらいの長さに伸ばし、深緑の瞳をしているのだと言う。


「しかも、彼女は庶民出身でありながら唯一のSクラス」

「おや、確かSクラスは毎年庶民の方は片手で数えられる程度は入るはず。それなのにお一人だけというのは……なかなか珍しいですね」

「それが物語の補正ってモノかもね」

「……なるほど」


 クリスは「それならば仕方ない」と深くは追求しなかった。


「しかし、それでは周囲の貴族の方たちがいい顔をしないでしょうね」

「ええ、しかも彼女は生徒会のメンバーにもなっているから」

「なおさら……ですか」

「我が弟ながらアインハルトを始め、みんなイケメンだからね」


 そう言ってアリシアは「はぁ……」と軽くため息をつく。


「そういえば、皆様貴族の令嬢の方を始め庶民の方たちの中にも皆様のファンがいらっしゃるそうですね」

「結構熱狂的な……ね」

「しかし、アインハルト様を始め皆様あまり気にしていなさそうですね」

「そうなのよ。それに加えて全員一緒に行動するから目立っちゃっているのよね」


 彼らは全員同じクラスで幼少期からの付き合いだ。なんだかんだ話が合うのだろう。


「ただ、私の姿を見ると声をかけてくるのは……」

「おや、迷惑ですか?」

「この際もう良いわよ。何せ、入学式前で十分目立っちゃったから」

「ああ、そうでしたね」


 クリスはその時の事を思い出した。


「そもそも、本来なら入学式の時点で彼女と会う……と言うか、私が成績に納得がいかなくて、唯一のSクラスの彼女に一方的に言いがかりつけるというところから『物語』が始まるのよ」


 アリシアはそう言いつつ「それがなんで……」と下を向く。


「しかし実際はそうならず、むしろ言いがかりではありませんが、成績に納得がいかなかったのはお嬢様ではなく……」

「アインハルトを始めとした王子たちとキーストン様よ」

「あれはあれで目立ちましたが……」


 しかし、本来であればそこでアリシアとティア・ローレンスは出会うはずだったのだ。


「ですが、現状は今も会えていないどころか姿すら見た事がない……と」

「そこの物語補正はないのね」


 ――アリシア様はそう仰っていますが……。


 クリスとしては「もはや『物語』が変わってきているのでは?」と感じていた。


「……しかし、そうなるとくだんのティア様がお嬢様ではない誰かにいじめられている可能性が出て来ますね」

「え! それって! もしかしたら、私じゃない誰かが悪役令嬢の役割をしてくれているって事!?」

「あくまで可能性の話です。確かな話ではないので鵜呑みにはしない方がよろしいかと」


 クリスが思ったままの事を淡々と答えると、アリシアは残念そうに「そうかぁ」と項垂れる。


「そういえば、アインハルト様にティア様のお話はされたのでしょうか?」

「え、ええ。でも、これからテスト週間に入るからその後って事になったわ」

「ああ、そうでしたね……という事は、今日お嬢様がここに来られたのは……?」

「えっ、と」


 アリシアは言いにくそうにクリスから視線をそらす。


「……ああ、なるほど。もうすぐテストでしたか」

「ええ、それで……」

「確かに、昼休みや放課後を返上して勉強する生徒が増え始めますからね。そうなると、今まで通りにはいきませんか」

「ただでさえ色々言われるから……ちょっとね」


 つまり、アリシアはそういった生徒たちから逃げてきたのだ。


「いつもなら全然気にしないんだけど、人が多いとさすがに……」

「まぁ、お嬢様のお気持ちも分かります。ですが、そろそろお昼休みも終わりのようです」

「え?」


 クリスから唐突にそう言われ、アリシアがクリスから懐中時計を見せられると……。


「たっ、大変! 急いで戻らなきゃ! ありがとうね、クリス!」

「いえ、お嬢様もお気を付けて」


 慌てた様子でアリシアはそのままその場を後にした……。

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