④アインハルト
魔法学校に入学して早くも一ヶ月が経過した。
「うーん」
「どうかしたの、姉さん」
今日は休日。さすがに魔法学校であっても休日は存在し、たまに実家に戻っている生徒もいる。
そして、その日はアリシアたちも久しぶりにアインハルトと共に実家に戻っての勉強会をしていた。
「何か分からないところでもあった?」
「ううん。そうじゃないの」
「じゃあどうしたの?」
「大した事じゃないけど、やっぱりSクラスとBクラスじゃ色々と差があるなぁって思って」
アリシアはそう言ってアインハルトのノートをチラッと見る。
「そう……かな」
「そうよ」
実際のところ、質問をしに行けばSクラスの生徒はきちんと説明している様だが、Bクラスは質問すら受け付けてもらえない。
「それに、教師のこれぐらい分かるだろみたいな雰囲気で勝手に勧めちゃって……ちょっとね」
「そんなに……」
「でも、仕方がないのかも知れないわね」
「え」
Sクラスに入ったという事は、それだけで将来が約束された様なモノだ。
「それを考えたら、他のクラスの生徒なんて目にも入っていないのかも知れないわね」
「そっ、そんな事はないかと」
「まぁ、クラスメイトの子たちは別に気にしていないみたいだけどね」
「え」
「クラスメイトの子たちは魔法を将来的にどう生かそうって思っているみたいだから」
しかし、それをアリシアが実際に見たワケでも話をしたワケでもない。
「それはつまり、将来王宮に仕えたいというワケではない……と」
「当然そういう子もいると思うけど、そういった子がクラスメイトに多いなぁって印象を受けたってだけの話。それに、私がやろうとしている事も先生たちは関係ないモノ」
「それはそうかも知れませんが」
アインハルトはそう言いつつも、どこか納得していない様だ。
「そんな顔しないで。あっ、そうだ」
「何?」
「生徒会のメンバーって、カイニス様とルイス様とキーストン様。それに、アインハルト……と後一人いるわよね?」
アリシアは何気ない会話を装いつつ、少し探りを入れてみた。
「うん。ティア・ローレンスさん」
サラッと答えたアインハルトに「生徒会のメンバー」以外の特別な感情は感じられない。
「その人ってどんな方かしら」
「どんな……って言われると、正直答えに困ってしまうけど」
確かに、今の質問の仕方ではかなりぼんやりとしている。
「しいて言うなら、健気な方……かな」
「健気」
「後は少し気が弱い……かな。あんまり自分に自信がないみたい」
「そう」
何とも恋愛モノのゲームの主人公にはおあつらえ向きな性格だ。
「彼女がどうかしたの?」
「いいえ、何でもないわ。ちょっと気になっただけ」
あまり深く追求されないために、アリシアはパッと視線を自分のノートに戻す。
「そっか。ところで姉さん」
そう言いながらアインハルトはグッとアリシアに近づく。
「なっ、何?」
「ここ最近王子やキーストン様に何かされていない?」
「何か……って何?」
「だから、こう……迫られたり、さっ……触られたり……とか?」
「なんでそこで疑問符なのよ」
自分で言っていて恥ずかしくなったのか、アインハルトは顔を真っ赤にさせている。
「でも、ありがとう。大丈夫よ。今のところは……」
「今のところは?」
アリシアはサラッと言ったつもりだったのだが、どうやらアインハルトはその最後の一言が気になった様だ。
「――姉さん。今一度言っておくけど、姉さんは自分が思っている以上に魅力的なんだよ」
「そっ、そんな事は……」
「現にこの間ルイス王子に迫られていたでしょ。あの時は俺が割って入ったから良かったモノの……それに、クリスからも報告が入っているけど?」
「……うっ」
それを言われてしまうと言い返せない。
「とにかく、姉さんはもっと危機感を持って生活してね。これからも校外に出る時は引き続きクリスについてもらうから」
「そっ、そんな。それはクリスに申し訳ないわ! これからはちゃんと気をつけ……キャッ!」
アリシアは席を立ったアインハルトを呼び止めようとした瞬間、床に足を滑らせてしまった。
「!」
アインハルトはすぐにそれに気がつき、アリシアを受け止めようと体勢を整えようとしたが……。
「っ!」
受け止めきれないと分かるや否やアリシアを両手でガッチリと抱き、アインハルトはすぐに受け身の体勢を取った。
「アッ、アインハルト! 大丈夫!?」
「ああ、大丈夫。ちゃんと受け身も取ったし」
そう言ってアインハルトは何事もなかった様に体を起こす。
「怪我は!? していない?」
「大丈夫だよ」
「そっ、それなら……」
「うん、俺は大丈夫なんだけど……」
アインハルトはそう言ってアリシアのもう少し後ろの方に視線を向ける。
「とりあえず、姉さんのメイドにこの状況をキチンと説明はした方が良さそうだね」
「え」
「アインハルト様。これはどういう事でしょうか」
「カッ、カナ!」
そこには悪寒を感じるほどの絶対零度の雰囲気をまとっているアリシア専属メイドのカナが扉を背に立っていた――。
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