アリシアのそんな表情を見ると、アインハルトも言葉に詰まるのか何も言えずにアリシアを見る。


「いや、俺も納得していない」

「カッ、カイニス王子!」

「兄さん……全く。その気持ちは分かるけど、あんまり目立たないように言われていたのに」

「ルイス王子」

「ははは、仕方ないよ。でも、結果を見た瞬間『ありえない!』って言って学校長に直談判に行こうとしたくらいだもんね」

「キーストン様」


 入学式が行われる講堂の前には、国の将来を担うであろう三人が待ち構えていた。


「どうして皆様が……」

「どうしてって心外だなぁ。コレでも僕は君と友人だと思っていたんだけどな」


 キーストンはそう言ってわざとらしく悲しげなリアクションを見せる。


「え、あ。そんなつもりでは……」

「アリシア様。彼にそういった心遣いは無用です」

「そうだな。こいつはこういったヤツだと思っておけ」


 アリシアはオロオロしていたが、カイニスやルイスは慣れた様子でそう答えた。


「えー、二人とも僕に対して失礼じゃない?」


 そう言いつつもキーストンは全然気にしていなさそうだ。


「でもさ。僕も本当に不思議に思っているんだよね」

「なっ、何がでしょう?」

「君がBクラスに振り分けられた事」

「……」


 ――皆様思う事は一緒ですか。


 しかし、それは動かぬ事実であり、アインハルトを含めた四人は生徒会に入る事はもはや決定事項だ。


「……」


 クリスはそう思いつつ全員の様子を観察しているのだが……。


 ――それにしても、お嬢様に対し皆様やたらと距離が近いですね。


「あの!」


 そう思っていたのも束の間。今まで無言で三人の様子を見ていたアインハルトだったが、そろそろ辛抱出来なくなったらしい。


「そろそろ入学式が始まるので! 姉さんを解放して頂けますか!」

「――アインハルト」


 アリシアもどう返せばいいのか迷っていたらしく、アインハルトが割って入った事により「……助かった」という表情を見せる。


「……」

「……」

「……」


 三人はそんな二人を見ると……。


「なんだかんだ慣れてくれたと思っていたんだが」

「やっぱりまだまだ……という事なのでしょうか」

「だったらさ、せっかくだからみんなで一緒に行こうよ。座る場所に決まりはなかったよね?」


 キーストンの一言により、アリシア様とアインハルトは三人と共に講堂へと向かった。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆


『アインハルト・ヴァーミリオン』


 コレが新しい名前だった。


「これからよろしく! アインハルト!」


 突然出来た弟を忌み嫌う事なく、義理の姉に当たるアリシアは笑顔でアインハルトを出迎えた。


「よっ、よろしくお願い致します。アリシア様」


 遠縁とは言え、確実に自分よりも位の上だという事はすでに知っていて。それまで育ててくれた父からも「くれぐれも粗相のないように!」ときつく言いつけられていた。


 そもそも、生まれ育った家でのアインハルトの扱いは……ひどかった。


 アインハルトには上に一人兄がいたが、その兄が父の仕事を継ぐ事はほぼ決まっており、アインハルトはほとんど外に出る事は許されず、それどころか日中に限らず夜も灯りを付ける事を禁じられた。

 娼婦の息子……それを知ったのは偶然聞いた使用人たちの会話だ。

 しかし、それでようやく自分。アインハルトの存在自体を隠している理由を知ったアインハルトだったが、家族からそんな扱いをされているアインハルトには使用人も含め味方はいなかった。


「……? 私とアインハルトはこれから姉弟になるのだから私の事は『姉さん』って呼んで良いのよ?」

「そっ、そんな! 恐れ多い!」

「なんで? だって、家族でしょ?」

「かっ、家族……」

「そうよ!」


 アリシアはそう言ってアインハルトの手を取る。満面の笑みを見せてくれるアリシアに、アインハルトは驚きと確かな喜びを感じた。


「僕を……家族の一員って、弟だって言ってくれるの?」

「もちろん!」


 今まで、アインハルトを「家族」と言ってくれた人はいない。たとえ、実の家族でも……。


「わっ、分かったよ……」


 この言葉を言った時、アインハルトは下を向いていた。でも、それは泣いていた事を隠したかったから。


「これからよろしく。ねっ、姉さん……」


 アインハルトがそう小さく呟くと、アリシアは「ええ!」とまるで自分の事の様に喜び、満面の笑みを見せたのだった。

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