③
「なっ、とくいかない!」
「アインハルト」
アリシアは横で怒りマックスなアインハルトを一言で
「でも姉さん」
「もうすぐ入学式が始まるわ。こんなところで大騒ぎしていたら他の方たちの迷惑よ」
そう言ってアリシアは先を歩く。
しかし、アインハルトンは全然納得していないのか「なんで姉さんがBクラスなんだ?」とか「生徒会に入れなかったとしてもSクラスのほどの実力は確実にあるはず」などなど一人で呟きつつアリシアの後をついて歩く。
ちなみにアインハルトは『風魔法』を得意としており、今回の入学試験でもSクラスに振り分けられ、その上。生徒会所属決定の将来有望株の一人にも選出された。
「……」
そもそもアインハルトがヴァーミリオン家の養子として迎えられたのも、この「魔法量の多さ」を旦那様が見いだした事がきっかけだ。
そんな彼は自身の結果ではなく、義理の姉の結果にかなりの不服を抱いている。
――まぁ、アインハルト様がそう思うのも無理はないでしょうね。
そして、その不服としている試験結果が義理の弟であるアインハルトの「身内評価」などではないという事もクリスは理解している。
――カイニス王子はアインハルト様と同じようにお怒りになるでしょうけど、ルイス王子とキーストン様は別に思惑を探るかも知れませんね。
しかし、そう思うのも無理はない……ともクリスは思った。
何せアリシアの魔法はアリシア自身が命名した『氷』を主体としたモノ。
そして、実はこの魔法。一応、この国の四大魔法の『風』と『水』を応用したモノなのだが……。
――問題は、コレを使いこなせるほど器用な方がお嬢様しかいないという事実ですね。
この国の魔法は基本的に単発的な魔法なモノだ。
つまり、発動するのは一瞬。そんな一瞬にアリシアは風魔法と水魔法を同時に発動させ、水を凍らせて氷を作る……というモノらしい。
――そうお嬢様に説明をされましたが……。
正直、クリスには「全く」と言っていいほど理解が出来ない。
アリシア本人は「水を凍らせて放った方が楽だから」と言って「それだけの事」と謙遜していたが、本当なら多少威張っても良いほどの話……どころか今や国家機密レベルの話である。
――しかも、お嬢様しか使えないとは言え、言ってしまえば新種の魔法ですからね。
この話を知っているのは国王陛下と旦那様と義理の弟であるアインハルトとカイニス、ルイス。そして、キーストンだ。
しかも、この事は門外不出としてヴァーミリオン家では厳重な箝口令が敷かれている。
――まぁ、コレを最初に見た王子たちが口を大きく開けて呆けていたのがもう十年ほど前の話ですか。懐かしいですね。
この事実を知った国王陛下によりすぐにこの魔法を見た人たちに対し箝口令が敷かれたのだが……それも仕方のない事……と思っている。
なぜなら、この事実が外に漏れ出れば国内だけでなく国外にも大きな衝撃を与えるからだ。
「――もう、いつまで言っているの?」
「いや、だって」
「最初から家庭教師に言われていたでしょう? 魔法学校の入学試験は基本的に魔力量が多い人が上のクラスに行くって。それに貴族の位どころか庶民と貴族の差も関係ないのよ?」
「それは、分かっているけどさ」
「私の魔力量はアインハルトも知っているでしょ? むしろCクラスじゃなかっただけマシとすら思っているわ」
アリシアがそう言った言葉に「それはさすがにないのでしょ」といった表情をアインハルトは見せている。
――お嬢様が「Sクラス以外」としか言わなかったのは、お嬢様の言う『物語』の中のお嬢様がSクラス以外のどれかだった……という事なのでしょうね。
しかし、アリシア曰く今のアリシアの魔力量は「そこそこ」という事でBクラスに振り分けられたのだろう。
「でも、やっぱり納得出来ない。魔法が暴走して起きた事故で僕を救ってくれたのは姉さんだと言うのに。それに、使用人たちも……」
「アインハルト」
入学式が終わってからもアインハルトの不満は収まっていなかったが、アリシアはアインハルトが「魔法の暴走事故」の話をし始めたところで、その話を止めさせた。
「それは公共の場で話してはいけないと言われていたはずよ」
「うっ、ごめん。姉さん」
アリシアに指摘され、アインハルトはしゅんと凹んだ。
「アインハルトがそう言ってくれるのはありがたいし、嬉しいわ。みんなとクラスが分かれちゃったのは寂しいけど」
「姉さん」
そう言うアリシア様の表情はどことなく寂しそうだった。
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