国にある大きな川にかかる橋を越え、王宮とは真逆の位置にあるのが『魔法学校』だ。


「姉さん……緊張している?」

「えっ、ええ」

「大丈夫だよ。学校では僕が出来る限りそばにいるから」

「あっ、ありがとうクリス」


 アリシアは嬉しそうにアインハルトの言葉に答えた。


「もしかして、あの後眠れなかった?」

「そっ、そんな事ないわよ!」


「本当に? 目元にクマがある様に見えるけど」

「本当よ。ただ……何度も寝ては起きてを繰り返してはいたけど」

「それは全然眠れてないじゃん」

「う……」


 ――確かに、顔色も良くないですしクマもありますね。


 クリスはそう思いながらアリシアとアインハルトの会話に耳を傾けている。


「はぁ、今日はとりあえずクラス分けと入学式だけの予定のはずだから、式が終わったらすぐに寮で休んでよね」

「うっ、うん」


 この様子を客観的に見たらどちらが年上か分からない。


 ――まぁ、数ヶ月の差ですがね。


「でも……」

「ん?」


「学校で一緒に授業を受けるのは……難しいかも」

「え? なんで?」

「だってクラス分けで分かれてしまうかも知れないでしょ?」

「大丈夫だよ。姉さんの実力なら、Sクラスになるって」


 そう言ってアインハルトは軽く伸びをする。


 ――お嬢様は緊張している様ですが、アインハルト様は随分リラックスしていますね。


 アリシアが緊張している理由は分かるが、なぜアインハルトがそこまでリラックス出来ているのかは分からない。

 もしかしたら、アリシアがアインハルト以上に緊張しているのが分かり、かえって緊張が和らいだのかも知れない。


「……」


 魔法学校のクラスワケは入学試験の結果によって上位から順にS、A、B、Cクラスに振り分けられる。

 そして、その試験の上位五名が生徒会に選ばれる……という形式が取られている様だ。


 ――どうやらアインハルト様はお嬢様がSクラスになる事を疑っていない様ですね。


 しかし、そのアインハルトの予想は大きく裏切られる事になる……という事をクリスは知っている。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆


「多分、物語の通りなら私は入学試験の結果。Sクラス以外のクラスになるわ」


 おもむろにアリシアはそう切り出した。


「……そうなのですか?」

「ええ」

「どうしてそう断言出来るのですか?」

「今まで生活をしてきて……多少の違いはあるけど、要所要所では物語どおりだもの」


 そう言われてクリスは今までの出来事を思い出す。


「……」


 確かに『物語』上のアリシアはカイニスとルイス。キーストンにアインハルトと面識があり、魔法学校に入学する事も決まっている。


 その点だけを見れば『物語』通りだろう。


 しかし、アリシアはその『物語』とは違いカイニスの婚約者ではない。その上『魔法』という点では「全く」と言っていいほど違う。


 ――コレだけ違いがあるにも関わらず『物語』の通りに進んでいくのですね。


 アリシアの言う『物語』は、多少強引に進む。要するに結末さえその通りであればいいという事なのだろう。

 そうクリスはアリシアの話を半信半疑ながらも聞き、そしてそれが間違いないという事を……。


「……」

「……」

「え、なんで」


 クラス分けが張り出された紙を見て、再度思い知らされる事になるのだった――。

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