④
「……」
「……」
「ごっ、ご歓談中。申し訳ありません」
一瞬流れた沈黙にアリシアは怯みそうになったが、気を取り直して三人にあいさつをした。
しかし、明らかに自分を見ているはずの三人が無言のまま固まっている事に、アリシアは「話しかけちゃいけなかったのでしょうか」と顔を真っ青にしている。
「あっ、あの……もしお邪魔でしたら……」
アリシアはそう言って
「まっ、待ってくれ。大丈夫だ」
「ええ、すみません。全然お邪魔じゃないですよ」
二人の王子はすぐにハッと我に返り、アリシアを呼び止めた。
「今日はおめでとう」
「おめでとうございます」
どうやらカイニスとルイスはアリシアのドレス姿に見とれていたようだ。
――まぁ、それは仕方のない話でしょう。
何を隠そうアリシアの専属執事のクリスも思わず固まってしまう程、今日のアリシアのドレス姿は素晴らしいのだから。
――あくまで身内の評価と思っていましたが……。
今の王子たちの反応を見る限り、クリスの反応は間違いではなかったようだが、そんな王子たちを横目に「フフ」と笑いを堪えている少年が一人――。
「はっ、初めましてアリシア・ヴァーミリオンと申します。本日はお越し下さりありがとうございます」
「初めまして、アリシア様。本日はおめでとうございます。僕はキーストン。キーストン・アルト二アと申します」
大方、王子たちの反応が面白かったのだろう。
普通であれば「王子たちを笑う」というのは、大人であっても下手をすれば不敬罪になりかねない行為なのだが。
――どうやらキーストン様はお二人と仲がよろしい様ですね。
クリスは基本的にアリシアの身の回りのお世話をしている執事のため、王子たちの交友関係は知らない。
――必要であれば調べるのですが、お嬢様からそういったお話は頂いていませんので。
勝手に入ってくる使用人たちの会話からの風の噂であればともかく、そうでなければクリスもアリシアもゴシップはあまり興味がない。
「申し訳ありません。現在早急に準備を続けていますので、もうしばらくこちらでお待ち頂けますでしょうか?」
「ああ、俺たちが早く着きすぎただけだから気にしなくていい」
「うん」
二人の王子にそう言われ、アリシアは「ありがとうございます」と頭を下げる。
「ところでさ」
「はい?」
「アリシア様は二人とどういった関係?」
そうキーストンはおもむろに尋ねた。
「どういった関係……と言われますと?」
「いや、結構仲がいいのかなって思っていたけど、どうにもよそよそしい感じがしてさ」
キーストンはそう言ってクリスに紅茶のおかわりを所望した。
「そう……ですね、カイニス様とはたまにお茶をする仲……でしょうか」
「ふーん。あれ、ルイスとは?」
「ルイス様とはつい先日お会い致しましたので、どういった関係か……と聞かれると」
アリシアは出来るだけ失礼がない様に言葉を選んでキーストンの質問に答える。
――確かキーストン様もお嬢様が言っていた『攻略対象』の一人でしたね。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
実は移動中、アリシアは物語内でのアリシアとキーストンとの関係を聞いていた。
だが、実のところ。アリシア様が前世でプレイしていたという第一王子のカイニスのルートでは、そこまで詳しい話はなかったそうだ。
「正直、キーストンが現宰相の息子って事も最初にクリスと話をした時に思い出したほどだったし」
アリシア曰く「カイニスルートでは、その程度の情報で十分だったのでしょうね」と言っていた。
「でも、キーストンはルイス王子のルートではかなり頻繁に出て来たって話は聞いているわ」
「……なるほど。それでしたら、今回もそのイベントというモノなのでしょうか?」
「うーん、誕生日会のイベントなんて聞いた事がないわね。確かに物語中のイベントで主人公の誕生日を祝うってモノは攻略対象別々にあったみたいだけど」
どうやら今回は『物語』の本筋とは関係のない話の様だ。
「この物語自体も魔法学校に入学して一年間だけの話だから、誕生日も一回だけなのよ」
「そうですか」
――それならば、なおさら『物語』とは関係なさそうですね。
そう思いながら、クリスは三人が待つ温室へとアリシアを案内し、今に至っている。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「そっか、なるほど」
「あの、それが何か」
「ううん。ちょっと聞きたかっただけだから」
「そうですか」
アリシアがそう言うと、キーストンは「そうそう」と言って紅茶を一口飲む。
「まぁ、僕が聞きたかったのはそれだけだから、そんなに身構えなくていいよ。今日の主役は君で、何よりおめでたい席なんだし!」
「はぁ」
キーストンの質問の意図が分からないのか、アリシアはよく分からないと言った様子で答えた。
「……」
「……」
その間、カイニスとルイスは苦虫を噛んだ様な表情で二人を見ていた事をアリシアのそばで控えていたクリスはバッチリと見ていた。
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