「うわぁ! すごいキレイね!」

「おや、以前もここを通ったはずですが?」

「それは……そうなんだけど。あの時は、その緊張していて」

「……そうでしたね」


 そういえば、あの時のクリスはアリシアの事情は何も知らず、とりあえず様子のおかしいアリシアを注視していた。


「今回は違う様ですね」

「そうね。クリスとカナがついていてくれるから」


 アリシアはそう言って微笑む。


「ありがたいお言葉です」

「きょっ、恐縮です」


 クリスはその言葉を「事情を知っている人がいて心強い」と受け取り、メイドのカナは「褒められた!」と恐縮しきりだ。


「……と、ついたようですね」


 そうこうしている内に、馬車は王宮に到着したらしい。


「お嬢様。足元お気を付け下さい」


 クリスはそう言って前回同様アリシアの手を取る。


「ようこそいらっしゃいました」


 そうしてアリシアたちを出迎えたのは、カイニスと王宮専属の執事。そして――。


「あ、紹介する。こっちは弟の……」

「初めまして、第二王子のルイスと申します」


 ルイスだった。


「お初にお目にかかります。ヴァーミリオン公爵の娘。アリシアと申します」

「兄からお話はうかがっています」


 今回メイドがいなかったのは、前回の事を踏まえての事だろうか……クリスはふとそう思った。


「……」


 ――お顔は……どうやらお二人ともご自身のお母様に似たのでしょう。しかし、髪の色は国王陛下を引き継いでいる様ですね。


 しかも、二人の目はカイニスが『赤』でルイスが『青』をしている。


 ――魔法量が高い証拠ですね。


 この国の魔法量の見分け方は、簡単なところで「人の目を見れば分かる」というモノがある。

 そして、この国の魔法は大きく分けると四つで、魔法を使うと大体それぞれの色が出る。


 ――火は『赤』で水は『青』でしたか。


 そして、風は『緑』で地は『茶色がかった黄色』だ。


 ちなみにお嬢様の目は『翡翠』ではあるものの、その色は淡く、おそらく旦那様の血を国受け継いだためだろうと推測出来た。

 そうヴァーミリオン公爵は『水』の魔法が使えるが、奥様は『風』の魔法の名手だった。


 ――そういえば、奥様は魔法騎士団の出身の回復魔法専門の魔導士でしたか。


 基本的に攻撃手段として名高い魔法だが『風魔法』に関しては分かっていない事も多く、攻撃が得意な人と回復が得意な人とで大きく二つに分かれている。


 そんな中で奥様は回復魔法全般が得意だった。だからこそ、クリスはアリシアに魔法騎士団の話をした。


 しかし当のアリシア様は「自分には向かない」と断言しており、しかも、アリシア曰く物語のアリシアの魔法と今のアリシアの魔法は大きく変化しているらしい。


『私が知っている物語のアリシアはね。水の魔法に分類されていて、氷じゃなかったのよ。そもそも氷魔法なんてないみたいだっつぃ』


 クリスが「どういう事でしょうか?」と尋ねると、アリシアは「多分、魔法量を増やさずに魔法制御の勉強をしたからだと思う」と言っていた。


 つまり「魔法量は物語のアリシアの方が多少は多いモノの、それはあくまでそこそこ。魔法を扱う能力としては今のお嬢様の方が上」との事だ。


 ――魔法を扱う能力が上がった事によって、お嬢様の得意魔法は『氷』に変化したという事なのでしょう。


 そして、カイニスとルイスはその目に出ている様にそれぞれ『火』と『水』が得意魔法だと容易に推測が出来た。


 ――ですが、王族の人間の魔法に関する詳しい事は特秘事項として伏せられていますが。


「あの、ところで本日はどういったご用件で……」

「ああ、そうだったな。そんじゃ行くか」

「行くか……? お兄様。どっ、どこへ?」


 今到着したばかりのアリシアが不思議そうにしているのは分かる。しかし、なぜかルイスもアリシアと同じように首をひねっている。


「こっちだ」


 カイニスに連れられ、王宮の執事とアリシアとルイス。そしてクリスとカナがついて行く。


「……」

「おっ、お兄様。ここって」


 一際大きな扉を前に、ルイスが先に反応したが、そもそも二人は王宮にいるのだから、この先に何があるのか分かって当然だ。


「ああ。今日はここで舞踏会の練習をしたいと思う」


「……」

「……」


 笑顔で振り返ったカイニスに、ルイスとアリシアはカイニスの言葉がどういった事を意味しているのか……よく分からずその場で固まっていた。

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