第六話 リュクサンブール宮殿御前会議

アウス暦1884.5.16

フォレンツ王国首都フォリにあるリュクサンブール宮殿。ここでは、さきのシャテル平原での決闘の報告を受け、降伏か徹底抗戦かを決める、王族、貴族の話し合いが行われていた。

「降伏だ!あの近衛騎士団副団長にして、王国最強リオン・ド・アヴェ・キュン・ロンス殿が戦死されたのだぞ!?それも1対1による決闘で!その様な者を相手にして、首都フォリを焼け野原にするおつもりか!?聞けば相手は、無益な殺生どころか、略奪すらも行わない、規律ある集団だそうではないか!」

「そうだ!」

「そのとおりだ!」

「だまれ!この売国奴共!」

議会が降伏の声であふれる中、1人の女性の声が響いた。

「我が騎士団のロンス公が命を懸けてまで、守ろうとした首都フォリをみすみす明け渡すなど、恥を知れ!我が騎士団は最後の一兵になるまで戦う!そうでしょう、父上!」

近衛騎士団団長にして、現国王の第一王女。ソフィー・ネイである。

「国王陛下、と呼びなさい、ソフィー団長。今のお主は、近衛騎士団団長である事を忘れるでない」

そう戒めるは、ソフィーの父親にして現フォレンツ王国国王、ネイ18世である。

「しかしち、国王陛下!今まで略奪が無いからと言って、ここフォリで行われぬと何故言えるのですか!?我々を油断させる為に、今までしてこなかっただけでわ!?」

それを聞いていた恭順派が立ち上がり、

「では、どうされるおつもりか!?ロンス公亡き今、対抗する手段すら無いのですぞ!?兵士の銃火器ですら劣るというのに!?」

「ぐっ…それは…」

『そんな事は私にだって解っている、だが…』

「やはり降伏しかない!」

「これ以上の戦闘は無意味だ!」

「何を言う!化け物共に下れと言うのか!?」

「うるさいぞ!」

「何を!?」

「静粛に!静粛に!本会議はこれ迄!国王陛下退場!」

「父上!お逃げになるおつもるか!?父上!ええい埒があかない、副官行くぞ!」

「お待ち下さい!姫様!」

「団長と呼べと言っているだろう!」



議会上前通路

「父上!何故あの場で戦うと言ってくださら無かったのですか!?さすればあの不忠義共を黙らせる事が出来ましたのに!」

「ソフィー、王族として考えなさい」

「分かっています!!このままいけば首都は蹂躪され、民草の命も失われ様としているのですよ!?」

「彼の者達は、そうも恐ろしい存在だと、何故言える?お主は直接見聞きしたのか?お主は相手の何を知っている?」

「ぬぐっ、奴らは…奴らは侵略者です!現にノルウェストゥ城壁やシャティー要塞!ここに来るまでの道中でも、いくつもの戦闘が起こってます!」

「降伏勧告を無視しての、な。彼らは一様に最初は戦闘を避けようとしておる。その気になれば攻め滅ぼす事が出来るにも関わらず」

「しかし、だからと言って…このまま引き下がる訳にはまいりません。勝利を諦めません!失礼します!」

「あ、団長!失礼いたしました!国王陛下!」

そう言うやいなや、隊舎へと戻って行った。

「ふぅ…困ったものだ…」


近衛騎士団隊舎

「何たる事だ、何たる事だ!国王陛下まであの様な弱気とは!」

「あ、団長!お戻りで!」

「団長、我々はどうしたら!?」

「団長!」

「団長!!」

団員達が不安を抱え、ソフィーに詰め寄る。

「うろたえるな!我らの役目は変わらず、王国と国王陛下を守る事だ!今は亡き我らの副団長、リオンの為にもこの戦争、負けるわけにはいかない!我ら近衛騎士団は、最後の一兵になろうとも、戦い抜くのだ!」

「ウオォォォォォォォーーー!!!」

「近衛騎士団万歳!」

「団長万歳!」

「フォレンツ王国に栄光有れー!」

「うむっ!」

「ソフィー」

「メル!何でこんな所に!?身重な身体じゃないか!?」

「大丈夫だよ、まだまだ何ヶ月も先の話だしさ。それよりさっきの演説、ありがとね」

「当然だ、リオンは私達の大切な仲間だ。その仇も討たずに降伏なんて、出来る筈がない」

「うん、ありがと、リオンも喜ぶよ。これかどうするの?」

「敵情偵察に出るつもりだ。父上からも、お主は敵の何を知っているのだと、言われた。ならば、この目で確かめる!」

「なら、あたしも付いていくよ」

「だめだ、メルに何かあったら、それこそリオンに顔向け出来ない、私一人で行く」

「ちょ、ちょっと!いくらなんでも危険すぎだよ!」

「心配するな、奴らなどに捕まりはせん!では、行ってくる!」

「姫様!?無茶が過ぎます!姫様!!」




シャティー要塞前、アウスフィルド軍宿営地

「あれがアウスフィルド軍…本当にアンデッドの兵士だけなのね…」

地面に似た色の布を被り、這いつくばる形で望遠鏡を覗くソフィーの姿がそこにあった。

「姫様!危険です!早く帰りましょう!」

「ええい、うるさい!そもそも何故ついてきた!一人で行くと申したろうに!」

「この様な事を見過ごせる訳が御座いません!早くお戻りに!」

「うるさい!敵の弱点の1つや2つ知らずに戻れるか!」

「でしたら私めがご案内いしましょうか?」

「だからうるさいと言って…うわ!?何だ貴様!?いつからそこに!?」

「姫様!?ここは私が!早くお逃げに!」

「姫?何やら高貴な方のご様子、でしたら是非こちらで、お茶でも飲んでいかれませんか?」

「ふざけるな!侵略者の分際で!」

「姫様!早くお逃げを!」

「ああ、これは随分なご様子で。これでも嗅いで、心を落ち着けてください」

         キュポン

「何だそのビン…は…………………」

        ドサッ バタッ

「ふう。おーい、この二人を運んでくれー、丁重になー」


アウス暦1884.5.17













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