第五話 シャテル平原の決闘

アウス暦1884.5.16

シャティー要塞の西に広がる、シャテル平原。

そこに二人の男が対峙し、それを遠くに囲む様にして、アウスフィルド軍とフォレンツ王国軍が対峙していた。

「我こそは!フォレンツ王国近衛騎士団副団長!リオン・ド・アヴェ・キュン・ロンス!そちらも名乗られよ!」

「ふん!アウスフィルド軍南東方面軍赤獅子隊隊長!野田秀一郎!楽しませろよ、人間!」

『あれが報告にあった魔槍術師か。槍とは聞いていたが、どちらかと言えばハルバードだな。得物は同じという訳か、ならば!』

「悪いが、早々に終わらせてもらう!」

そう言うやいなや、リオンの槍の刀身を炎が包むと、それを秀一郎目がけて、火炎放射器の如く射出した、が、

「熱!何だこの炎、熱ィ!?アチチチ!」

と、体を包み込む程の炎を食らったというのに、湯呑みをこぼした程度の反応しか見せなかったのだ。

「なっ!?熱いだけど!?」

「やってくれるじゃねぇかよ、お返しだ!」

そう言うと秀一郎も、同じ様に槍の刀身に炎をまといそれを射出した、が、

「くっ、熱!」

と、同じような反応が帰ってきたのだった。

「なに!?オメェ、何で生きてやがる!?ホントに人間か!?」

「悪いな。私は生まれながらにして、火傷どころか火を熱いと感じた事も無いのだよ」

『そう、いままでは。だけど何だこの炎?これは今まで触れてきた炎と何かが違う、何だ?』

「そりゃこっちのセリフだぞ。炎なんぞ、今まで熱いと感じた事なんてなかった」

    『『こいつ、何なんだ!?』』

「どーやら、単純に炎で焼き殺すってのは難しそうだな」

「その様だな」

     「だったら」「そうなれば」

      「「槍で決める!!」」

     ガキィィィンンンンッッ!!



そんな二人の殺り合いを、遠くから眺める姿があった。

「驚いた。秀とまともに張り合っている、あんな人間初めて見た。いや、そもそも彼は人間なのか?」

「ふーむ、確かに驚きですな。それにしても野田の大将、ずいぶんと楽しそうにやってますなぁ」



       ゴキィィィン!!

鍔迫り合いをしながら、秀一郎は高笑いを上げていた。

「フハハハハハ!やるじゃねぇか、人間!こんなまともな勝負をした人間、テメェが初めてだ!」

        キィィン!!

鍔迫り合いを解き、次の一手の為に間合いを探る、

「ふ、それは嬉しいね!!」

『本音を言わせて貰えば、かなりきわどい。速さは何とか追いつけるが、腕力が段違いだ。まともに受け続けたら、腕が持たない!』

「貴公、赤獅子隊と言ったか?それとその力、何か関係があるのか?」

「ああ?ああ、そうさ。こんな人間みたいなナリをしちゃあいるが、元は獅子さ。炎を扱う、な。それよりテメェーこそなんだ。その炎に俺の一撃を受け止めれる力、ホントに人間か?」

「バカを言え。私は人間だ、父も祖父も曽祖父も、間違いなく人間だ。愛らしい妹だっている。それよりも、これが全力か?」

「バーカ。こちとら実力の半分も出しちゃいねぇ、人間の格好している間はな!」

『これで実力の半分!?こんなのが他にもいるとしたら、王国は……いや、今は目の前の相手を斬るのみ!』

「ハアァァァァッッ!!」

     ガキィィィィィンッッ!!

「おうおう、その粋よ!!ちょいと本気だすぞ!」

「くっ!」



「いかん!リオン殿が押されている!このままでは!今からでも攻撃をかけましょう!さすれば、大打撃を敵に!」

「よさぬか!そんな事をしても、我々が全滅するだけだ!」

「しかし、このままでは!?」

「方法が無いわけではない。しかし、それを使えば…」


『このままでは確実に負ける…ならば!』

リオンは秀一郎から距離を取り、槍を振りかぶった

「…顔付きが変わったな、なにかする気か?そろそろ日も暮れてきた。ここいらで、決着といこうや」

「ああ、そうだな。だが、私がやろうと思っている事は、どうしても時間が掛かってしまってな」

「そうかい。だったら、待ってやる。オレもそれに見合うだけの物を、見せてやる」

「そうか、後悔するなよ?」

「獅子は兎を狩るにも全力を出す。兎の全力も受けれねぇで、何が獅子だ。来な、てめぇの全力、受けてやる」

そう言い終わると、二人の周囲を火山が如き熱量がおこり始め、巨大な火柱、塔と言っても過言では無い炎を刀身に纏いはじめた。

「ほおぉ、たいしたもんだ。まるで火山…だったらオレも、ホンキデイクゾ…」

秀一郎の身体は隆起し、爪や牙が伸び、半獣半人の獅子の姿へと変え、リオンと同じほどの火柱を創り上げた。

「ジュンビハイイカ、ニンゲン?」

「ああ、いいぞ」

互いが相手の槍の間合いに踏み込み、相手を焼き切らんと、槍を振り下ろす。

「グオォォォァァァァァァ!!」

「ハアァァァァァァッッッ!!」

カッ!!ドオォォォォォォォォォンン!!!

二つの火柱がぶつかり合い、凄まじい閃光と爆発が起こり、地面はえぐれ、周りものを全て吹き飛ばさんかと思う程の爆風が起こると、後には巨大なクレーターが出来上がっていた。

そんな天地を揺るがす衝撃と爆風の後、勝敗を見極める為、両軍が二人のもとに近づく。


そこには地面に膝を着く獣と、槍を振り下ろし、毅然とたたずむ騎士の姿が合った。



「オオ!リオン殿が立っておられるぞ!」

「この勝負我々の「我々の勝ちですね」

言い終わる前に、またしてもあの男が口を挟んだ。

「また貴様か!どう見ても我々の勝ちでは無いか!」

「よーく、ご覧になって下さい。そうすれば、解ります」

「何?…あっ!!そんな、まさか!?」


「グボォ…てめぇ、やるじゃねぇか…死ぬかと思ったぜ…だが、まだまだ終わりじゃねぇ…さぁ、もっとやり合おうぜ!………おい、どうした?おい?」

「………………………………………………………」


「己の全てを賭けた一撃。それは、生命力を懸けた一撃じゃ」

「ペター将軍!?それでは、リオン殿は!?」

「ああ、おそらく」

「すなわち、我が方の勝ちと言うことですな。シャティー要塞の通過、よろしいですかな?」

そう、市橋が詰め寄っていると、後ろから空気が震える程の怒声が響いた。

「ちょっと待てや鎌!!こいつは負けてねぇ!!勝負の途中で死んだだけだ!!殺しちゃいねぇ!!殺す前に死んだんだ!!だからこいつは負けてねぇぞ!!」

「いや、それを負「うるせぇ!!こんな幕切れ認めるか!!」

そう言い張り、譲る気は一片も無い様相でり、これには流石の市橋も困り果て、

「やれやれ、勝負事になるとこれだ。…少し眠ってもら「ペター将軍、1日待ちます。その間に、我々と戦うか、降伏するかを決めていただきたい。これ以上の流血は、無意味です」

と、宮本が市橋の動きを制した。

「お心遣いに、感謝いたします」

「いえ。秀を搬送し、1日待機だ。いいな、鎌之助」

「仰せのままに、司令官殿」

かしずく鎌之助を後にし、秀のもとに駆け寄る。

「大丈夫か?秀」

「ああ…へっちゃらだ…それより、リオンって奴は、ホントに死んだのか?」 

「ああ、確かだ」

「そうかい……司令官殿は引き分けにしたみてーだが…この勝負は、俺の負けだ…」

「…そうか」

「…疲れた、寝る」

「ああ、ゆっくり休め」

そう言うと、秀一郎はすでに眠りについていた。

「…アニル、俺をは天幕に戻る。秀を見ていてやってくれ」

「…分かったわ。あいつなら死なないと思うけど。ハァ、りんごでも剥いたげるわ」


「ふぅ」

天幕に戻ってイスに座り、ひと息を入れていると、不死兵が天幕の中に入って来た。

「……?どうした?何か報告か?」

「予定に無い行動をしているが、これはどう言う訳だ?」

「!?」

それは、聞き覚えのある声だった。いや、それは間違いなく、

「総統閣下なのですか!?」

「ああ、不死兵をドローン代わり……いや、遠距離での操作を可能にしていてな、アニルカードとはこれでやり取りをしていた。それより、1日の猶予とは、どうゆうつもりだ?」

「…総統閣下、これ以上の流血は無意味です。我々の目的はより良い人間社会の実現だと、総統閣下はおっしゃられました。ならば、これ以上の戦闘行動は必要無い筈です」

「……そうか、好きにしろ」

「ハッ!ありがとうございます!」

「では、引き続き頼むぞ」

「総統閣下、少しお待ちを!…遠距離で操作が出来るとおっしゃいましたが、それは景色を見ることも可能なのですか?」

「ん?…出来るぞ」

「それは…いつから?」

「…最初からだ。…もう良いか?働きぶりはこれからも、見させてもらうぞ」

「はっ!」

そう言い終わると、不死兵は天幕から出ていった。

ドサッ!

椅子に座り込むと、額から汗がにじみ出てきた。

「アニルは…ブラフと言う訳か…」


アウス暦1884.5.16





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