第四話 踊るシャティー要塞

アウス暦1884.5.15

フォレンツ王国首都フォリから北西にある要塞、シャティー要塞。この要塞は、発展目覚ましい大砲による砲戦を想定して城壁の前に堀をほり、土塁を堀の外側に盛るという改良を行い、「斜堤」と呼ばれるもので敵の火砲が至近距離で城壁に向かって発砲するのを防ぎ。土塁の外側の傾斜は緩やかになっており、要塞の火砲から死角ができないようになっていた。さらに城壁の頂上まで盛土し砲弾直撃の衝撃を吸収する対策をとった、星形要塞となっていた。そんな要塞の中、会議室では決戦に備え、昼夜を問わない作戦会議が行われていた。

「申し上げます!敵はコンパーニ村を通過し、明日、明後日にもこの要塞に押し寄せると思われます!」

「コンパーニ村だと!?ノルウェストゥ城壁の戦いから、まだ一週間も経っていないのだぞ!?」

「そんなバカな!早すぎる!」

「不可能だ!」

口々に騒ぐ中、髭をたくわえ軍人が喋り始めた。

「敵は全てアンデッドで編成されていると聞く。となれば不眠不休での行軍も可能。加えて、迎撃にでたどの戦闘も数十分で終わってしまったと聞く。この進軍速度もあり得ない話では無いだろう」

シャティー要塞総司令官フィリップ・ペターである。

「ペター将軍!その様な相手に勝てるのですか!?」

「ぬうぅっ」

思案にくれていると、会議室のドアが開き、

「ご心配には及びませんよ、ペター将軍」

甲冑を着た、赤髪の騎士が現れた。

「リオン副団長殿!いつこちらに!?」

「つい先程です。ペター将軍、私が来たからには、アンデッドの軍勢など、焼き払ってご覧に入れますよ」

「おお!フォレンツ王国最強のリオン殿がいれば、アンデッドなどの正に鎧袖一触ですな!」

「来てくたれたか、リオン殿。しかし、首都はよろしいのか?」

「団長殿がおられますし、何より、首都を戦場にする訳にはいきません」

「そうか。しかし、敵の銃や大砲は強力だ。しかも報告によれば、貴公のような炎を扱う魔槍術師がいるとか」

「その様な者までいるのですか…しかし、見事討ち果たしてご覧に入れます」

そう宣言すると、隣から割り込むように

「素晴らしい心意気ですな。でしたらその魔槍術師との一騎討ちで、この地の勝敗を決めると言うのはどうでしょうかな?」

と、何食わぬ顔で会議室に入り込んでいたのである。

「貴様、何者だ!?」

「始めまして、シャティー要塞の方々、私は市橋鎌之助。軍使にございます。本日はあなた方に、一つの提案を持ってまいりました」

「先程言っていた、一騎討ちという話か」

「はい、その通りでございます。そちらのペター将軍が申していた通り、我が方の使う銃火器の方が優れており、頼みの綱はリオン副団長のみだとか、ならばいっそ、双方の腕自慢が闘い、その結果で勝敗を決すれば、無駄な血を流さずにすむと思いませぬか?」

「つまり、私が勝てばそちらは退き、負ければここを通せ、と?」

「その通りにございます」

「それを受けると、本気でお思いか?」

「ええ、聡明なる方々なら、考えるまでもない事だと」

そう言い放つの軍使を睨みつけていると、ペター将軍がリオンの意見を求めてきた。

「…リオン殿、貴公はどう思う?」

「自分は一向に構いません」

「解った…この勝負受けよう」

「ありがとうございます。司令官殿も、大変お喜びになるでしょう。それでは、いつ行われますか?」

「私は今からでも構わない」

「流石。では、明日の昼食から一時間後はどうです?お昼は12時にお食べに?」

「それでいい、好きにしろ」

「では、後程」

「ちょっと待て。相手は誰だ?そちらの司令官か?」

「先程話に上がった、炎を使う魔槍術師でごいますよ」

「そうか、分かった」

「では、これにて…」

そう言うと会議室のドアから出て、後を追いかけた時にはすでに姿を消していた。

「ペター将軍!よろしいのですか!?リオン副団長まで!」

「あやつが申した通り、リオン殿以外の戦力差は歴然。それすらかなわければ、結果は同じよ」

「しかし!?」

「大丈夫です、私は負けませんよ。この命に代えても」




『血を流したくない宮本殿と、闘争を望む野田の大将を納得させる方法として、これ以上の方法は無いだろう。アニルカードのおかげだな』

『そんなに戦いなら、秀一郎だけで戦えば良いのよ。あの戦闘バカ』

そんな事を思い出しながら本営にたどり着き

「市橋鎌之助、ただいま戻りました。司令官殿」

「相手はなんと?」

「この一騎討ち、受け立つ、と」

「そうか…やはり、降伏はしてくれないか」

「これ以上を望むのは、傲慢でありますよ。司令官殿」

「解っている。だが…「おい、鎌之助!あいては何だって!」

「受ける様ですよ。明日の1時頃に」 

「そうか!ならメシだ!ありったけの肉持ってこい!食ったら時間まで寝る!」

「…あの様子では、もう止められませんよ。司令官殿」

「…御茶をくれるか、アニル」

「はい、すぐに」


アウス暦1884.5.15

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