第三話 コンパーニ村の非日常

アウス暦1884.5.14

ノルウェストゥ城壁から首都フォリの間に有る村、コンパーニ村では、ノルウェストゥ城壁の戦いなど露知らず、いつもの日常を過ごしていた。

「ミア!ちょっとこっちに来て、牛たちの乳を搾ってちょうだい!」

「はーい、お母さん!ふう、今日もやる事があって大変」

「ミャ〜アォ」

「あら、ニア。どうしたの?悪いけど、お母さんの手伝いがあるから、後で遊んであげるね」

「ミャア…」

「おーい、大変だ!アンデッドの大軍が攻めてきたぞ!」

「何だ?」

「どうした?」

「寝ぼけてるのか?」

「山菜を取りに山に行く最中、アンデッドの大軍に出くわしたんだ!それも、何万もの数だ!」

「なに言ってんだおめぇ、ノルウェストゥ城壁が落ちたなんて話どころか、戦ってるなんて話も聞いた事がねえ。」

「そうだぁ、あそこにゃ1万もの兵隊さんがいて、あそこを落とそうと思ったら、半年はかかるわい」

「だけど本当何だって!鎧兜を着て、銃や剣を持ったアンデッドの軍勢がたくさん!」

「はいはい、分かった分かった。夜の酒場で聞いてやるよ」

「本当何だって、信じてくれよ!みんな殺されちまう!」

「いえ、それは大丈夫ですよ?我々の司令官は、あなた方の命は保障しますから」

「へっ?」

そんな間抜け声を出したかと思うと、突如として空から何体もの巨大な烏が現れ、またたくまに地上に降り立つと、背中や足につかまったアンデッドが降りてきたのだ。

「な、な、何だあ!?」

そう驚いているうちに、周りをすっかりアンデッドに囲まれてしまい、ぼう然としていると。男は喋り始めた。

「驚かせて申し訳ない、彼らは降下猟兵と言って、見ての通り空からの奇襲を主任務とした部隊でしてね、皆様を傷つける様な事はいたしませんので、どうかご安心を」

「あ、あんたらいったい、何者なんだ!?」

「それはこれから、こちらの司令官が来ますので、その時にご説明いたしますので、少々お待ちを。あ、村長などはいらっしゃいますでしょうか?」

人混みをかき分けて中から、初老の男性が現れ

「私がこの村の村長だ。あなた達はいったい何者で、何しにここに来た?」

「ふむ、本来であれば、司令官殿と会ってから進めたかったのですが、いたしかたありませんね。ここから北西にあるアウスフィルドに軍をかまえる者で、つい先日、ノルウェストゥ城壁に侵攻し、貴国と戦争状態になりました。つきましては、あなたがたを我が軍の庇護下に置きたいと思っております」

「何だって!?」

「嘘だろ!?」

それを聞いた村人が衝撃を受け、口々に騒ぎ始めるも、村長は冷静に質問をした。

「つまり、あなた方は侵略者で、この村を占領すると?」

「端的に言えばそうですな。しかし先程申し上げた通り、あなた方に危害を加えるつもりはありません」

「抵抗しなければ、かね?」

「ご理解が早くて助かります。我々の目的は首都フォリでして、ただ通過させてもらえれば、他になにも要求はいたしません。ああいえ、失礼。一つありました。30体程、不死兵を常駐させていただきたいのです」

「アンデッドの事かね?それに拒否権はあるのかね?」

そう聞くと、男は胡散臭い笑みを浮かべるだけで、何も言わなかった。

それだけで答えは聞くまでも無いと言うことが解った。

「…まあいい、好きにしろ。村を通路にするのも構わん。しかし村民に手を出すな、それだけは許さんぞ」

「善処いたしますとも。ああ、司令官殿、お着きになりましたか。今、この村の村長と話していた所なのですが、兵の常駐と村の通過を、快く引き受けてくださった所でして」

「分かった。この村の村長ですね?彼からお聞きになったかと思いますが、兵の常駐と村の通過の件、ありがとうございます。我々は、首都フォリに行かねばなりませんので」

「好きにせい」



ガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャガシャ………………

通りをアンデッドの兵が大蛇の様に行進し、村人達は家の窓や物陰から様子を覗い、未知に対する恐れと好奇心から目を離せずにいた。

「すごい列…どこまで続くんだろ…」

「ミャア~」

「誰かこっちに来る、隠れなきゃ!」

急いで納屋の干し草の中に隠れると、納屋のドアが勢いよく開いた。

バタン

「おーい、誰かいないのかー?表の牛を貰いたいんだがー…おかしいな、誰もいないのか?ニオイはするんだがな…」

「ミャアー」

「!シッ!」

「ん?そこか?」

「きゃ!」

「おお、こいつは可愛らしいお嬢さんじゃねえか、表の牛はお嬢ちゃんのかい?売っちゃあくれねえか?金ならあるぜ?」

「あ、あの、あれは乳牛で、両親に聞かないと売れない物でして、だから私だけではちょっと…」

「ふーん、そうかい。ところで、なかなか可愛らしい目をしてるじゃねえか、ちょっと身の丈は小さいが、ハードゥリアンのおっさんに言えば、何とかなるかも…」

「大将、ここで何してんの?」

「ああぁ?何だ鎌之助か。表の牛を買えないかと思ってな、ちょっと交渉してたんだよ」

「村長との約束で、ここの物には手を出さないことになっている。干し肉でガマンしなよ。そんなに欲しいなら、後で私が交渉しておく」

「そうかい?じゃあ任すわ。またな、お嬢さん」

「…騒がせたね」

バタン



「…あんな小さな子供が趣味だったとは、驚きだな」

「あ?確かに小さいが、身体はもう十分成長してるだろ?3,4歳って所だな」

「………?どう見ても、13、4だったと思うが…何を言ってるんだ?」

「は?ありゃどう見ても3、4歳って所だろうが、白い毛並みに青い目、いい女だぜ」

「………ああ、元は獅子だったけ、大将は」

「にしても、何でわざわざこんな村のど真ん中をとおるのかねぇ、わざわざ交渉して通るくらいなら、攻め滅ぼすとまでは言わねえが、迂回すりゃいいじゃねぇか。敵がいないのは、上空からの偵察でわかったんだろ?」

「司令官殿からの命令だ。軍勢を見せつけるのと、話ができる相手だという事をしらせる。つまり、野盗や怪物の類いでは無いと、知ってもらうのが目的だ。だからさっきのは、危なかったぞ」

「あぁ?だから金で売ってくれって言ったんじゃねーか、キンセンのやりとりって奴だよ。それに、つまんねーんだよ。反撃してくる人間共はどいつこいつも、銃や大砲ばっかでちっとも面白くねえし、弱え、いい肉でも食わなきゃやってられるか!首都にだってもう着いちまうぞ!」

「いや、その前に首都を守る最後の砦、シャティー要塞がある。そこを突破されたら、首都を遮るものは何も無い。相手も出し惜しむ事無く、全力で迎え撃つだろうし、そうなれば強い相手も出て来るんじゃないかい?」

「へー、そいつは楽しみだ。腕が鳴らあ」

「けどま、うちの司令官殿は、一応降伏勧告をするんだろうけどね」

「……気に入らないたらありゃしねえ」


アウス暦1884.5.14


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