第三章 ENCOUNTER AND DETERMINATION

 世界が滅ぶ前の時、俺はまだ17歳だった。それも、ただの高校生だ。無欠席無遅刻の優等生だったが、一つだけ問題があった。両親無しの孤児だ。5年ほど前に交通事故で両親は死んだ。別に悲しくなかった、だってふたりはクズだったから。普通の家族は1日に3食ほど食べられるが俺は2日に1食ぐらいは食べられたらまだましな方だ。

 日常のほとんどは学校から帰ってくると同時にネカフェで時間をつぶしたり、課題をこなしたりした後で家に帰って来る。その後、家の鍵を開けて夕食の準備をする。そういう生活だ。

 え?気になる人はいるのかって?居たよ……、だから?

「……○○君、聞いているの?」

「うぁ、ごめん。聞いてなかった」

「もう!××がせっかく声を掛けているのに!酷いよ」

「ごめんってば……、××さん」

「名字で呼ばないで、何度も言ったよね?」

「ごめん……」

 当時の俺は陰キャで体も細くて極度の人見知りだった、そんな俺を彼女は唯一気にかけて話しかけてきてくれた。風邪をひいて寝込んだ時も、雨の日も風の日もずっと。しかし、彼女には当時相手が居た。それも、表の顔は学級委員長だが裏の顔はいじめの主犯格だ。

「あっれぇぇぇ?陰キャがなにかようかなぁあ?」

 ムカつく、今すぐ地獄に送りたい。

「な、何でもないよ」

「ケケケッ、陰キャ君は肩身が狭いねぇ」

 何処までも小馬鹿にしてくるそいつの顔を、ネカフェでどれほど恨んだ事か。今でも脳裏にこびりついて離れない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 焚火に顔を向けて鼻歌を口ずさんでいると、背後から足音がした。

「ん?起こしてしまいましたか?」

「ううん、それより寝られないの?」

 声色から察して幸さんだ。彼女は俺の隣に来て、昔話を始めた。

 幼少期から幼馴染の男の子がいた事、高校生の時その子に声を掛けて心配していた事、世界が滅んだ時に真っ先にネカフェに駆け付けてその子を探したけれど見つからなくて泣いた事などだった。

 ……ん?その子は、もしかして俺の事か⁈いや、そんなはずはない。だって彼女を見たのは、病室が最後だったからだ。

「ジャックスさん。一つ、聞いて良い?」

「な、何か?」

「私の姉がね、その人にあったら伝えてほしいって言っていたの。あの時はごめんなさいって」

「何故、それを俺に?」

 何かが頬を伝った、触って分かった。涙だ。

「何故って、姉が言っていた人にそっくりだから」

「なぁ、姉の名前は?」

摩耶まや、旧姓は志宇しうです」

 志宇摩耶……ああ。そうだ、彼女の名前は摩耶だ。思い出したよ、君の名前を。

「ジャックスさん⁉」

「すまん。思い出してしまったよ、彼女の名前を」

 幸さんは摩耶の義妹らしい、彼女が亡くなる直前に志宇家に養子として入って来たらしい。

 ちなみに高校生だった俺は現在、今では21歳になっている。つまり、幸さんは19歳という所だろうか?摩耶が亡くならずに生きていたら、俺と同い年になっていただろう。

「幸さん、摩耶の気持ちはもう分かったよ。有難う、俺は明日の明朝にここを出て行く」

「え、でも!」

「大丈夫ですよ、安心してください。俺は奴らになりませんから」

 そう言って左目で幸さんの右薬指を見ると、指輪が無い事に気が付いた。

 どういう事だ?二人は夫婦のはずだけど、指輪を外しているだけなのか?いや、出会った時も正義さんは指輪をしていたけれど、幸さんにはしていな……あ!

 用意されたテントに戻った時にはもう、答えが出ていた。このままだと、幸さんが危ない!

 つまり、簡単に言えばアイツはサイコパスだ。おそらく、これから向かう先の街にはゾンビしかいないと言っていたことから、全てアイツが逃げるためにそれまでに助けていた生存者たちを囮にして逃げて来たが、あと残っているのは俺と幸さんだけ。最終回答は、明日もし襲撃があれば俺と幸さんは奴らになるという事だ。

 それに最後、焚火を離れる直前に助けを求めているような目を幸さんがしていた。

「クソッ!絶対、フラグをへし折ってやる!」

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