第28話 Fleur pure
私はペチュニア家が嫌いだ。代々、ペチュニア家は暗殺を生業とする一家だった。血が繋がっていない養子の私はいわば出来損ない。
義姉たちが当たり前に出来ていたことが私にはどうしても出来なくて。義姉たちも義母も慰めて励ましてくれていたけれど、逆にそれをみじめに思われていたんだと捉えた私は、家を出た。
それまで染めていた髪を元に戻した。母親が大切にしてくれていた髪色に。
当主、マチルダには恩義を感じてはいたが、実娘たちのように心酔する程ではなかった。暗殺者でありながら甘い考えを持ち、頭がお花畑のイザベラや、メイジーを私は密かに嫌悪していた。
母親に似つかぬほど綺麗事を吐く彼女ら。殺す力は持っていても強い心を持っていない弱い人間。優秀でも、それを上回る心を持っていなければ殺しの仕事はできない。
だが、私だって嫌悪している彼女らと同じく綺麗事を何度も吐き続けている。だけど、世の中は甘くはない。綺麗じゃない。
むしろ、汚れ切っていて、それでも美しいという人間がいるのだ。それが産みの母親だった。男に性的暴行を受けたのにも関わらず、清い心を持っていた。顔は見ているのに訴えることもしなかった。
誰にも頼ることも、頼れなかった。なのに、一度も母親は一度も泣き言を吐かなかった。母親といたのは幼い頃だけ。けれど、記憶は僅かに残っている。私に向けた笑みが誰よりも綺麗だったと。
私はそんな弱い立場であったにもかかわらず、強かった母親を愛している。
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