第24話 Rien n’est plus ennuyeux qu’un adulte ivre.
「ぷっはぁー! 仕事終わりの酒は最高だな!」
「いやいや、徹夜終わりだから美味いんだろうが!」
「お前ら、落ち着け!」
…酒に酔う大人ほど困るものはない。リオネルは、酒にまみれる大人達を遠目で、呆れた目で眺めた。
やはり、会議などままならないまま、エイダンを含む大人はみな、酒を飲み始め、これだ。最悪。地獄絵図といってもいい。店員なんて、近寄ろうとはしない。流石に近寄りたくはないだろう。
「それで、会議とは…」
まだそこまで深酒をしてはいなかったエイダンの
同僚の一人、ヴィクトル。通称がヴィックの、金髪だが、髪の内側を水色に染めている男にたずねる。
ヴィックは、バーボンをコップの中で回す。その度に、丸い氷がカランと、鳴る。
「あー、会議っていう名の羽目外し、かな。俺ら、みんな、愚痴というか、ストレスというか、いろいろ溜まってたから。この間のことで、団結しちゃってね。多分、これから忙しくなって、頻繁に酒飲みに行かなくなりそうだから、今のうちってことで」
かくいうヴィックも、ストレスは非常に溜まって
いた。過去に、民間人を守る為に、片足を失った。今は、義足だ。そのことに後悔はない。寧ろ、誇りに思っている。しかし、上層部の者達は、ヴィックを隙を見計らって辞職させようとしていた。警察に入ってからも刑事らしくはなく、素行が悪かったが、厄介者であった。
彼だけではなく、一課の半分近くが厄介者で、
集められた。優秀な者は違う課にいる。ともかく、上は、やめさせたいらしい。ことあるごとに、進めてきて、ストレスが溜まっていると。
「あー、思い出すとマジで吐き気する」
ヴィックは、その上の者達の顔を思い出したようで吐く真似をした。リオネルは、その者達を庇うつもりはないが、適当に愛想笑いをしておいた。
ヴィックは、外見こそ、派手だが、根は真面目で、人の何倍も優しい。ただ、口が悪いのがたまに傷なだけである。
中身を知ろうともしないで、外見だけを見て判断する。そちらの方がよっぽど厄介者だとリオネルは、心の中で悪態をついた。
「俺は、ヴィックさんに警察はやめて欲しくないですからね」
「おっ、リオネルぅー、可愛いこと言うじゃん!」
ヴィックは、薄く目を細めて、リオネルの頭を撫でた。彼も酔いが回り始めたのだろう。撫でるその手が擽ったくてしょうがなかった。
案の定、みな、潰れた。酔っていない者とリオネルは、協力して、警察署に彼らを運んだ。一課の中で兄貴分のアドルフは、赤い髪を揺らし、ペットボトルの水を飲んだ。酔い覚ましらしい。
「すまない、あいつらのどんちゃん騒ぎに巻き込んで」
「いえ、楽しかったので」
謝罪してきたアドルフにかぶりを振る。楽しかったのは事実だ。
「そうか。エイダンが、お前に話しただろ? その前にあいつは、俺達に相談してきた。話すべきか、話さないべきか。あいつはもちろん、俺達はお前がなぜ殺し屋となったのか、知っている。だが、初めは賛成はしなかった。それを話したところで、お前の悲しみは消えんし、復讐をやめさせるブレーキにもならん。だが、エイダンは言ったよ。それでも真実を話すと。あの頃、何もしてやらなかった。だから、今度こそ、自分達が彼の力になろうと」
アドルフの話を聞き、リオネルは、どこか納得していた。たとえ、聞いても、自分は復讐をやめない。みな、それを理解していた。警察としての矜持もある。復讐の連鎖を止めたい。けれど、後悔があった。
だから、正義に叛いたとしても一人の青年を救いたい。その思いが強いのだ。
「…ありがとう、ございます」
恥ずかしがりながら、リオネルが伝えると、アドルフは、リオネルの頭を撫でた。ヴィックと同じように。子供なのだが、子供扱いされるのは恥ずかしい。思わず、顔を赤らめた。
その様子を見たアドルフはうすら微笑んだ。
「今のうちに思い切り笑っとけ。まぁ、殺し屋をやってる間は、無理そうだが、少しずつでも良い。笑えるようにしとけ」
いろんな殺し屋と出会い、リオネルから見ると、彼等はみな、心から笑っているようには見えなかった。
とはいえ、心から殺し屋という仕事を愉しんで笑っている者もいたにはいたが。人を殺す仕事だ。笑える精神状態では無い。それは、誰もが同じ。
だから、その言葉がほんの少し、荷が重くて、それでも、仇を取った先の未来の自身の在り方を予測しているようだった。そのまま、両親の元へと行くのか、それとも。
自分の未来は、誰にも分かりはしない。もちろん、当人にも。何かをする度に未来は変わっていくのだから。リオネルは、頷いた。たとえ、荷が重くとも努力しよう。誰にとっても明るい未来を目指す為に。
「と、いうか話は脱線してしまいますが、この課、案外まともな人少ないんですね」
「言うな。俺も気にしていたんだから。馬鹿が多いせいで、俺も厄介者扱いされるのか…」
「…いつもご苦労様です」
気付いた事実に落ち込むアドルフに一応、労いの
言葉をかけておいた。
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