第15話 des larmes

 煙草の煙が空に上る。まるで、天国への階段のようだ。まぁ、天国などあるわけないとリオネルは信じてはいなかった。最も、両親と同じく、天国なんて浮かれた場所になんていけるなんて毛頭も思ってはいない。


 繰り返している時点で、これは地獄の主が見せている幻覚。底なしの地獄を味あわせているのだろう。確信はできていた。


 と、煙草の煙を眺めていると、何か誰かの泣き声が聞こえた。徐々に大きくなっていき、騒がしく感じた。視線を移すと、隣で嗚咽を漏らしながら泣いている男の姿が。


「……ジルベール? 」


「……リオネル」


 泣き腫らした目でこちらに顔を向ける。そして、涙を拭き、ニコリと微笑む。頼むから、そんな顔をするなと、言いたかった。助けを求めても、周りには自分達以外いないのだから、無理であった。


「……どうした」


 仕方ない。重い頭を動かし、話を聞いてやることにした。と、言ってもこの男は、自身のことなどこれっぽっちも話やしない。ただ、誰かに例えて話をする。


「……ある少年が、極道の家に引き取られました。今まで散々な人生だと思ったのに、更に酷く、辛い生活を送っていた。養父は、極道の長という身でこちらには一切見向きもせず、父親らしいことなんか何にもしなかった。まぁ、初めから勘づいていた少年は、隙を見て家を出て殺し屋の仕事で、生計を立てています」


 後半は、殆どジルベールは笑っていた。笑わなければ、話せやしないんだろう。どれだけ話していても辛いのだから無理矢理笑顔を作る方が楽だけど。


「俺は、家族に愛されなくても良いと思う。出会った人達に、愛されればそれで。家族に愛されなくても、誰か自分が大事な人達が愛してくれるから」


 マリユス、レイバン、メアリーに。リオネルは気付けば多くの人々に愛されていた。人は自分の気付かないところで勝手に愛されているのだ。


 ただ、それを言われるか、言われない。気付くか、気付かないだけ。早く気付けて良かったと今は思っている。死んでしまった後に気付いたら後悔ばかりだから。後悔はするにはするが、深く、辛いものでは無いのが幸いだ。メアリーの件で実感した。


「そっか」


 ジルベールの顔はなぜか、安心しきっていて、晴れた顔。彼の溢した一言に全て込められていた気がした。リオネルはそこまで深く汲み取ることはしないが。


「なぁ、お前も俺が好きか? 」


「……自分から聞くな。前も言っただろう。好きでも嫌いでもないと」


 半分は嘘だ。少しは好意は増したか。あの事件で

 人を、信じ、好意を持つようになった。


「うっそだぁ! 俺のこと、絶対好きだ! 」


「なぜ、自信を持って言えるんだ、意味が分からない」


 暫くの間、二人は周りの人達に白い目で見られながらそれに気付くまで、言い争いを続けていた。

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