第13話 un enfant du soleil
忌み子。よくそう呼ばれた。全くもって不愉快で、気分が悪かった。そこにいるだけで吐きそうで、自分が自分でいられなくなるような。
自身を嫌ってしまう。だから、名を変えて、偽った。過去の醜い自分を、消す為に。
「よー、リオネル! 」
騒がしいが、以前よりはマシになったか。耳を塞ぐ手を下ろし、やって来た当人を見る。
「お前、それどうにかならないのか」
「それって? 」
まるで知らないふりをする。自分が一番分かって いるくせに。気付きたくないというように。
「まぁ、良い。それで、聞いただろ。マリユスさんから」
「そうね、だからってここに来た」
マリオスの話というのは、ジルベールにある任務へ赴いて欲しいと。場所はドイツ。
内容はドイツへ着き、空港近くのカフェである男を探せば分かるんだとか。わざわざその人物の元へ行くのは面倒だから先に書面で渡して欲しいという
思いは呑み込んでおく。
「面倒だな」
「あはは……まぁ、良いんじゃない? 報酬はたんまり貰えるわけだし」
と、楽観している。過ぎるにも程があるが。それが彼の長所なのだろう。…多分。
「で、男の名前は? 」
「ルイス•ミュラー」
男の名前を聞いた途端、ジルベールの瞳に動揺の色が走ったが、一瞬のことでリオネルは気付かなかった。
「……ふーん。で、いつ行くの? 」
「明日らしいな。早く帰って寝ろ」
「じゃあ、泊まっても良い?! 」
話を聞いていたのかと怒鳴りたくなるが、彼はのらりくらりと躱す。言っても無駄だと分かっている。
「……は? 」
リオネルが睨んだにもかかわらず、ジルベールは荷物を置き、ソファーに腰掛けたりしている。そのはしゃいだ姿に呆れてしまい、何も言わなかった。正確にいえば何も言えなかった、だが。
ただ、ほんの少し情が湧いてしまっただけだ。あのモールとの戦い以降、誰かに頼ったのも、誰かに助けられたのも、誰かに温かい言葉を貰ったのなんて、メアリー以外いなかったから。
……知らぬところで絆されていたのかもな。リオネルは、口元を緩めた自身に驚いた。
笑ったのは……未来で死ぬ直前に出したのが最後だった。笑えないと思っていたのに……。案外簡単なものだ。他人の力で笑えるようになるとは。嘲笑した、自分自身に。
「あ、今笑った! リオネル、笑ったよな! 」
なぜ、そこまでジルベールが、驚き、喜ぶのかは
解せないが、自分が笑えるようになったのは確実に彼や仲間達のお陰だと。
「ふっ……笑ってない」
「今、笑ったじゃん! 俺を見て! 」
「笑ってない……ふっ、……ふふ」
頼むからこれ以上笑わせてくれるなと、目で訴えかけたかったが、笑いが収まらない。口を手で塞ぎ、笑い声が漏れないようにする。
いつかは、その手を外して大声で笑って欲しいとジルベールは密かに願っていた。
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