第14話 脱出!
とにかく走った。お約束的に大きな胸の揺れが気になったけど、それでも走った。前世ではそこそこ足が速かったのだが、体の構造自体がまったく違い、前世の感覚がまるで活かせない。後ろのアルマは結構楽についてきている気配を感じる。
途中で積みあがった土に遭遇した。まだ穴は続いているから、ゴーレムは順当に掘り進んでいるのだろう。もう少しだ。
ゴーレムのところに行き当たった。無表情ではあるが健気に岩を掘ってるゴーレムを見るとなんとなく微笑ましい。おっと、そんな呑気な感想を持ってる場合じゃなかった。
「ゴーレムたち、後ろからくるスケルトン達をやっつけて!」
アルマが追い付いてきたことを確認して叫んだ。ゴーレムたちはスコップを持ったまますぐに穴の奥へと消えていく。彼らが時間稼ぎはしてくれるだろう。さて、こちらはこれからどうすべきか・・・。俺はゴーレムが掘っていた土の壁の近くまで寄った。
「やっぱり二人ともこの奥ではないでしょうか?」
突然近くで女性の声が聞こえて俺は驚いた。これはレイリアの声だ。俺ははっとした。レイリアと言えば、土属性魔法だけは超一流の子爵令嬢だ。このすぐ向こうにいるのか? 隙間を通して声が聞こえるのなら、ゴーレムの仕事はほぼ終わっていたということか。アルマの方を見ると俺と目が合った。アルマにも聞こえたらしい。俺は頷いてみせると、岩の向こうに叫んだ。
「レイリアさん、そこにいるの?」
応えはすぐにあった。
「やっぱりここだったのね。大丈夫? けがはない?」
いつも学校では相変わらずの憎まれ口なのだが、さすがに今回は心配してくれていたようだ。
「こっちは大丈夫。ひとつお願いがあるの」
「いいわよ。なんでも言ってちょうだい」
「私たちの間にある壁を盛大にぶち壊してほしいの」
あらら、つい乙女らしからぬ言葉が出ちゃった。ま、いいか。
「この辺りで魔法を使うのは注意するようにって先生がおっしゃっていたでしょう?」
「繊細なコントロールをするような魔法は難しいでしょうけど、力まかせに吹き飛ばすのなら大丈夫よ。こっちはかなりまずい状況なの。こっちの準備ができたら合図するから、この土の壁を吹き飛ばしてちょうだい。こっちはこっちで防御魔法をかけておくから心配しないで」
返事が来るまでに一呼吸あった。
「わかったわ。やってみる」
返事は力強いものだった。俺はアルマに向き直った。
「防御魔法をかけてなるべく壁に張り付いて!」
アルマは頷き、その通りにした。それを見届けてから俺も同じように魔法をかけ、可能な限り壁に体を寄せた。
「いつでもいいわよ。お願い」
壁の向こうに向けて叫んだ。ワンテンポ置いて凄まじい轟音が傍らを通り過ぎた。若干恐る恐る土の壁があったところを見ると、見事に貫通していた。向こう側にレイリアがふんぞり返っていた。
「いかがかしら? 私の華麗な魔法は?」
もちろん文句をつけようがない。「華麗」という表現には目をつぶってのことだが。でもパワーこそ豪快だが、きちんと穴の部分だけを吹き飛ばしている。実に繊細で見事なものだ。
穴を急いで駆け抜けてレイリアの前に立った。彼女の後ろから他の生徒たちが遠巻きに見つめている。普段魔法をぶっ放しがちな(本人曰く華麗に)彼女の魔法の巻き添えになることを用心してのことだろう。ただこと土属性魔法に関しては彼女のコントロールは完璧で、必要とあれば精密な操作もできる。巻き添えになる可能性はほぼなかっただろう。
俺はプロフェッサーミゲルを探した。レイリアの後方に生徒に紛れて立っている。
「プロフェッサー!」
呼びかけながらすぐに駆け寄った。プロフェッサーが何か言いかけるのを遮って
「大変なんです。ケイシムが復活しました!」
と言った。一瞬プロフェッサーはこちらの言葉を飲み込めなかったようだったが
「ケイシムって、六魔将のか?」
と言って頭を振った。
「いやはや、あなた様はよくよく彼らに縁があるとみえる」
囁くように続けた。俺にも聞こえないようにそうしたのだろうが、しっかり聞こえてしまった。俺としては非常に不本意な感想だ。
「六魔将ってあの?」
「あんなの伝説でしょ?」
「怖い・・・」
周りの生徒から様々な声が上がる。
「今なら、私たちで倒せます!」
俺はきっぱりと言った。
「倒す?」
「無理だよ」
「本当に俺たちでやれるのか?」
俺の言葉に対する反応も様々だった。
「むしろ、今しか倒せないんです。ケイシムは無限にコピーを生み出します。今のうちに倒さないと、人々は無限の軍隊に蹂躙されることになるんです。まだコピーの少ない今しか倒すチャンスはありません!
倒す方法はあります。私がそれをしますので、皆さんは時間稼ぎを手伝ってください。」
俺はプロフェッサーから生徒みんなに向きを変えて叫んだ。
「我々に何をしろというのだね?」
プロフェッサーが言った。
「さっきも言ったとおり時間稼ぎです。本体の相手はアルマにお願いしようと思います。皆さんには他のコピーを破壊してほしいのです。大丈夫です。コピーはそんなに強くありません。アルマはすでに何匹も倒しています。ただ、次々湧いてきますので、私に本体を倒す準備ができるまでの間だけ引き付けておいてもらえればいいんです。」
俺はプロフェッサーに向き直っていった。
「いや、アリシアさんにそんなことできるのかい? 魔法を使うの、そんなにうまくないだろう?」
今度は生徒の誰かが言った。うう、そうだった。俺、ここではできない生徒ってことになってるんだった。
「それならわしが力になれる。これを君に授けよう」
そう言ってプロフェッサーは懐から薬の入った試験管を取り出した。
「これは魔力を大幅に増大させる薬だ。これがあればきっと君の思うとおりに魔法が使えるだろう」
魔法薬学の教授の本領発揮と言うところか。俺はありがたく受け取った。
「ありがとうございます」
プロフェッサーは他の生徒たちに向き直った。
「どうだ。皆、強力してもらえないか。六魔将をこのままにしておくわけにはいかん。アリシア君には勝算があるようだし、彼女に賭けてみようじゃないか。安心したまえ。最悪の事態が生じたときには、わしが責任をもって皆を逃がす。この身に代えてもな」
生徒たちは互いに顔を見合わせた。
「プロフェッサーがそこまで言うのなら、皆さまやってみませんこと?」
レイリアが言った。
「貴族たるもの、果たさねばならぬ義務があります。身を挺して国を救うことこそ、貴族の誉というべきではありませんか?」
自分が貴族であるというプライドも、こういう使い方をしてくれると建設的だよな。
「ありがとうございます。レイリアさん」
俺は心からのお礼を言った。それをきっかけにして他の生徒も次々と賛意を示してくれた。
「ありがとうございます。皆さん」
他のみんなにもお礼を言った瞬間、最後のゴーレムが倒されたのを感じた。
「来ます。皆さん、急いで鉱山から出てください」
生徒たちが一斉に出口へ向かって走り出した。それを見届けてから俺も後を追った。
鉱山の出口で振り返った。ちょうどケイシムが奥の穴から姿を現したところだ。コピーの数がだいぶ増えている。
奴が俺を見つけた。
「なかなか面白い相手をぶつけてくれたな。それなりに楽しかったぞ。だが、俺は生きた人間を切り刻む方が好きなんだ。今度は、それができそうだな」
高笑いをしつつ奴が走ってきた。ずらっとコピーがその後を追ってくるのはなかなか壮観な眺めだった。走ってる間にも、一体、二体と新たなコピーが湧いて出てくる。
俺は鉱山から飛び出した。
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