第4話 恋愛シミュレーション的立ち位置は?

 教室に戻るなり、絡まれた。レイリア・ミルズ子爵令嬢、金髪縦ロール、それがまんま性格を表している、典型的なお嬢様キャラだ。制服こそ規定のものを着ているが、アクセサリーは禁止されていないので、これ見よがしに高価そうなカチューシャやら指輪やらを付けている。ご丁寧に、二人のお供が付き従ってる。乙女ゲームなら主人公のライバルってことになるのだろう。家の爵位が自分より上なので、レディー・リディアの大のお気に入りだ。

「王家の推薦枠とお聞きしていましたから、どんなに素晴らしい魔法をお使いになるのかと思っておりましたら、意外と貧相ですわねー」

 相手を不快にさせて喜ぶサディスティックな気質が見え見えだった。それに乗ってやることもないだろう。

「すいません。いろいろ使えるだけが取り柄で。器用貧乏とはよく言われますわ」

 むしろとびっきりの笑顔で返した。思惑通りにいかなかったと見えて、向こうにはむっとした表情が漏れた。

「私の華麗な技の数々、見ていただけましたか? 下々のかたには、難しいかもしれませんわね。やはりこの我が校の入学資格に家柄も考慮するべきではないのかしら?」

 それだけ言うと、高笑いして教室を出て行った。

ちなみに、彼女は土属性しか使えないのか、さっきの授業では様々なバリエーションで岩塊を的に当てていた。威力も早さも正確性も見事なものだったが、「華麗」ではないだろうって内心突っ込みたい。

 それから、この学校は確かに優秀だが、実のところ本当に家柄のいい貴族の子息はあまり通っていない。そういう家は、ギルドから魔導師を家庭教師として派遣してもらうことがほとんどだからだ。だからこそ、王女の俺がお忍びで通えるわけだ。男爵、子爵クラスでは、王城に招待されることはほとんどない。俺は王女としては彼女に会ったことがない。貴族としては、この学校に来ていないことの方がステータスになるのだ。

 きちんと実力はあるのだから、正確に自分の実力を評価すればいいのに。

「なぁに? あれ」

 声を出したのは王都の豪商の娘、ミランダだ。赤毛の美人で、親の教育がいいせいか人当たりもよく、誰からも好かれている。明らかに腹を立てており、こんな彼女を見るのは初めてだ。

 母親の方は結構高名なデザイナーで、実のところその母親には会ったことがある。貴族のドレスもよく依頼されていて、15歳の誕生日を祝う舞踏会のために新調した俺のドレスは彼女の作品だ。採寸のときにはかなり間近で会っているので、ひょっとしたら会えば俺の正体がばれてしまうかもしれない。

「貴族が家柄に誇りを持つことを悪いとは思わないけど、あれはいくら何でも度が過ぎるわ」

「まあまあ、貴族の人なんて、みんなあんなもんじゃないの?」

 俺はとぼけて言った。

「そんなことはないわよ。うちの親は平民だけど、仕事柄貴族とも付き合いがあるので、私にも貴族の知り合いはいるわ。私の知る限りでは、みんな礼儀正しい人ばかりよ。お母様はアリシア王女にもお目にかかったことがあるけど、とても気さくに話しかけてくれたって言っていたわ」

 あ、なんかマジで覚えていそうだ。万が一にも会わないようにしないと。

「貴族がみんなああだと思わないで欲しいな」

 わって入ってきたのは遠いなんとかという国(前世から地理は苦手なんだ)から留学してきたエーリッヒだ。本国では伯爵家の三男ということで、この国だったら王家に出入りする可能性のある家柄だ。金髪碧眼、文武両道超イケメン、家柄もいい。乙女ゲームだったら本命の攻略対象といったところか。

 まてよ? ギャルゲーなら、実は王女の俺が本命のヒロインてことになるのか? うわ~、この世界がそういう設定でないことを願おう。

「僕も貴族だけど、ああいった態度はどうかと思う。かえってみっともない。貴族としては恥ずべき態度だ」

 まあまあ、と俺はなだめるようなジェスチャーをしつつ言った。

「私に実力がないのは事実なんだから、ここで彼女を批判するより、実力をつけて見返してあげればいいんじゃなくて?」

 エーリッヒは顎を手に乗せて少し考えた様子をみせてから、

「そうだね。君のその考え方は立派だ。君の方が彼女よりよっぽど貴族的な考えをするね」

 と言った。

「それは買いかぶり過ぎよ」

 結構内心はびくっとしたのだが、表向きは照れたように笑ってみせた。つられるようにミランダとエーリッヒも笑顔を見せた。

 現代日本の知識がある俺としては、やっぱり貴族制度というものに違和感がある。なんだかんだと民主主義の方がよかったと思えるのだが、よその世界の価値観をむりやり持ち込んで、うまくいってる世界を混乱させることもないだろう。ただ、やろうと思えば革命くらいおこせそうな今の自分の力がちょっと怖い。やっぱり、ここは真面目に魔法のコントロール能力を磨くべきだろう。

「そろそろ次の授業ね」

 ミランダの声に会話は終わりとなった。

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