第6話
「それは一方的な理屈だ。そこまでしてくれたなら、僕らはパーティだろ。いいか? 僕はここから出て君に銃を渡す。闘うつもりはない」
「――勝手にすればいい」
あるかなきかの逡巡で、僕は彼女が義理堅い人間であることを汲み取った。独り合点だったかもしれない。しかし、こと今回の闘いにおいて仲間の存在は武器の優劣より重要なことだった。また、大会の初手で、彼女のようなプレイヤーと巡り会えたのはある種の天恵にも思えた。
もし、ここで頭を吹き飛ばされても、それが彼女のような者になら、僕は構わなかった。
ゆっくりと、まず両手を作業台から伸ばす。親指にリボルバーを引っかけ、僕はおもむろに立ち上がった――その時だ。
「おっ! 女がいんじゃーん!」
無造作に扉が蹴破られる音と、若い男たちの歓声が重なって聞えた。
「マジじゃん! おー、この大会で初の雌プレイヤーだわー」
「ちょ、感謝しろよ! ようやく動画映えするんだから。お前らだけじゃ、汚いっての!」
「言っとけ!」
はしゃぐ三人は少しも警戒した様子を見せず、驚いたことに接近してきた。
自信満々の足取りは、おそらく、その武装に起因している。
上背のあるがっちりとした体格を包むのは防弾ベストと防護プレート。胸、腰、大腿部のクリップには多様なガジェットがマウントされ、他にサブウェポンまで揺れている。もっとも目を引くのは、各々が手にする凶器だ。カスタムされたアサルトライフルを筆頭に、サブマシンガンとショットガンが威圧的な輝きを放っていた。
「ヘイ、ガイズ! ファッキン・シューターのチャンネルはまだ観てくれてるか? さっきから雑魚狩りばっかでつまんねーと思ってるそこの君! ようやくお楽しみに出会えたぜ! いつも以上にゲスにいくから期待してくれよ! 引き続きメンバーはお前らの兄弟、俺たちだ!」
歩みを止めることなく、先頭の一人がいきなり声を張り上げた。
指で輪っかを作り、カメラの真似でもするようにそれで僕らを覗き込んでくる。
「さすがにもう気づいたリスナーもいるだろうけど、絶賛大会中なんだわ。ばちこり決めていくから最後まで観てくれなー? で、で、で、さっそくとびっきりなエモノ見つけたから、こいつらに一発かましてやってくぜい!」
呆気にとられる僕と少女を話題に上げているが、まるで歯牙にもかけない振る舞いだった。また、非常に人も無げで軽薄な雰囲気なのである。
「よーしじゃあ、とりあえず、お前とお前そこに並べ。早くしろや」
傲然と言い放ったのは、禿頭の男だ。腰だめに構えたショットガンで部屋の中央を指し示している。
「どうする? ガキの方はさくっとバラすとして、メスがいるぜ?」
自分たちが入って来た扉、および後方を警戒しながら、今度はサブマシンガンを提げている痩せ型の男が口を開いた。リーダー格らしい問われた方は、
「そんなん決まってる。誰もいない戦場、独りぼっちの女、俺たち――とくりゃメチャクチャにして、頭パーンよ」
ニヤニヤ笑いながら、人差し指で自分の頭を撃ってみせる。
「はい、でたー。ゲス発言、頂きました!」
「チャンネル消されるから! そこ、オフレコだわ!」
やんやと互いを小突き合う三人。楽しげではあるからこそ、僕は彼らの下劣極まる言葉を聞き流せなかった。
それは少女も同様だ。
「動かないで」
ぴしゃりと言って彼らの足を止める。向けられた銃口を認めても、男たちの顔色は変わらなかった。子犬が甲高く唸るのを微笑ましげに眺める屠殺愛好家のように、
「動いたら、どうなる?」
まず言葉でいたぶってくる。続けて禿頭の男が、
「無駄なことすんなって。素直にヤられとけ」
「そーそー。ゲームなんだし楽しくやろうぜ」
痩身の男が嘲笑をこぼしていた。
「っていうわけだから、早く並びなー? おーい、てめえに言ってんだ、ウスノロ君。さっさと来い、アホじゃねえの?」
ライフルのオープンサイトはぴたりと僕の額へ合わせられている。従うか、拒否するか――僕はすでに決断していた。
「おっとおっと、銃はそこに置いとけよ。メス、お前もいい加減、それ捨てろ。いつまでも持ってんじゃねえ、うっとうしい」
「それ以上近づいたら、撃つ」
少女は凛然と告げた。
ところが、返ってきたのはやはり馬鹿にしたような小笑いだった。
「そんなオモチャでよくもまあ大きく出られたな、誉めてやるよ、えらいえらい」
「……こっちは本気」
「はいはい、やれるもんならやってみ」
「おい、あんま挑発してやんなって。ああいう幼女体型のプレイヤーでしかも生意気系は珍しいから、あっさり死んじまったらつまんねーだろ」
「お前が楽しみたいだけのくせに――」
語尾は乾いた銃声に呑み込まれた。
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