しっかりやれよ
外典
しっかりやれよ
「はあ、この仕事は本当にあたまがおかしくなりそうだな」
早朝から始まる嫌な仕事に気分が重い。
「まだそんなこと言ってんのかよ、その代わりだいぶいい給料と長い有給をもらってるじゃないか、しかもだれでもできる仕事じゃないんだぜ?」
「とかいいつつ人事異動願いを出したみたいじゃないか、結婚して子供もできて幸せ真最中ってか?」
「いやあ、ともに生きてくれる人がいるってのは、いいもんだぜ、これも人間統制法のおかげさ、俺が高給取りになった瞬間女が俺に飛びついてきたんだからな、お前もしっかりやれよ」
同僚は意地悪そうな顔で自慢げにそう話したのだ。 しっかりやれよってのは同僚の口癖だ、何回も聞いててだんだん腹が立ってきた、腹いせに少し腹の肉をつねってやった。
「おいおい運転中だぞ、幸せ真最中に俺のことを殺したらお前の夢にでてきてやる」
「なんだよ、お前はいつ死んでもいつか死ぬんだからかまわないって、人間統制法でいつ死が宣告されてもかまわないってそういっていたじゃないか」
「別に人間統制法でえらばれているなら構わないさ、けど、こんなバカみたいな死に方はいやだって言ってんだ」
同僚はまた笑いながら気さくに話していた。
人間統制法とは、平和な日々を暮らし続け増えすぎた人口に対処するということで、発展したAIにより犯罪確率が高い人間を処分しようというのを建前に作られた法律だ。これで犯罪率は確かに減ったが、ある一定のラインからは全く下がっておらず、もはや犯罪者を処分する装置としてAIは機能していないとよく言われていて今は無罪の人間を大量に殺す装置となっている、それでも選ばれるのは毎年国民の0.0001%で人工統制装置としても機能しているためこの方の反感はあまり集まっていない。俺はこいつが大嫌いだ、まるでAIに支配されているようで気持ちが悪い、それに死に時くらい自分で選びたいものだ。それが0.0001%だとしても。そして俺たちはその執行人だ。ありのままのテンプレ化した言葉をいう、それを聞いた人の顔、あれは二度と忘れることはないと思う。
「うお!あぶねえ!」
いきなり道路に犬をつれた女の人が出てきたのだ。
同僚は慌ててブレーキをかけ横にそれた、その車の風圧を受けた女の人はびっくりして転んでしまった。
「大丈夫ですか?おけがはないですか?」
俺は急いで車をでてそう言った。そしたら同僚が小さな声で女の人に聞こえないように話し始めた。
「おいおいこいつが飛び出してきただけだ、俺らは悪くねえぜ。謝ったらこっちが慰謝料を出す羽目になるぞ。」
「それはいいじゃないか、俺たちは公務員、その中でも嫌われている、スキャンダルなんて懲戒免職パンチ一発KOだ、そもそも人を助けるなんてあたりまえのことだろ」
「まあ、確かにな、そのパンチは俺の人生によく効きそうだな、、、」
ゆっくりと起き上がった女の人は
「はい、大丈夫です。すいません、私目がほとんど見えなくて、この子あんまこういうミスをしないのに、、、」
すごい美人でひとめぼれだった。眉毛は長く、顔は小さい、まさにドタイプってやつだった。そしてその犬はどうやら盲導犬のようだ。「キャンキャン」と泣いてかわいい、毛並みもしっかりしていて愛されているのがよくわかった。
女の人は手をけがしていた、転んだ時にけがしたようだ。
「手をねんざしているようだ、病院に行きましょう、送りますよ。」
「お気持ちありがとうございます。もとはといえば目が悪い私が悪いので一人で行こうと思います。」
「いえいえ!困っている人を助けるのは当たり前ですよ!こいつも付き添いに最後までいかせますんで!」
同僚は早口でそう言った、さっきの俺の発言が聞いているようだ。
「そうですか、ではお言葉に甘えて、」
「おいおい仕事中だぞ、それに一人でいいのかよ?」
「俺の方が仕事はスマートだ、お前がいなくても特に問題はない、俺はこっから歩きで現場に向かうしっかり問題にならないようにするんだぞ」
「人任せな奴だな、まあいいか、しっかりやれよ」
俺たちは車に乗り病院に向かった。その道中に女の人はいろんなことを質問してきた、得られる情報量が少ないから、耳で情報を得るようにしているのだろう
「本当にありがとうございます、ところでお二人は何の仕事はなんなんですか?」
「公務員ですね、まああまり詳しくは言えないんですが警察的なことをしています」
犯罪者を処分しているんだ、間違ったことは言ってない、はずだ。
「なるほどすごいかっこいいですね。私なんて小さいころから 目がほとんど見えなくて、お金もないから手術もできなくてなんの仕事にもつけなかったんです。それでもなんとかお金をかせいで、明日手術を受けられるようになったんです!あ、すいません愚痴ばっかり言ってしまって」
俺は高校生以来の好きな人に褒められた言葉でとても気分が高揚した、
「いえいえ、それはいって当然のことですよ、あなたはそれまで十分我慢したんですからこれくらい全然かまいません」
それから病院について送るまでたくさん話をした。彼女もよく笑っており、とても謙虚で誠実な彼女の言葉や笑顔、眉目秀麗なすがた は僕の心臓をわしづかみにしたのだ、
「お優しい方なんですね、」
「いえいえ」
「ここを曲がってすぐです。」
彼女とのこの空間が終わってしまう最後に連絡先を聞こうとしたその瞬間に電話が鳴る、一旦外に出て電話に出た。とんできたのは同僚からの、いや死神からの言葉だった。
「まだあの女の人いるか? 」
「いるけどなんだ?」
「その女、次のお前の執行対象だ」
「・・・・・・・・」
「しっかりやれよ、アドバイスだ、目が見えないみたいだしこっそりやってやれ、知らずに行った方が幸せだろうよ、少なくとも打つ瞬間はばれるな、死ぬ前の1秒ほどつらいもんはねえ」
俺は絶望の表情を浮かべ車に戻った。
「どうしたんですか?」
彼女の不思議そうな顔がバックミラーに移る。相変わらずきれいな人だ。
「もう、お別れなのが悲しくて」
「確かにもうお別れですね、でも大丈夫ですよ、またどこかで気っと会えますから」
彼女は沈んだ口調の俺を励ます。
「そうですね、またどこかでお会いしましょう...その時は必ずあなたを迎えに行くので...」
それから先はもう記憶にほとんどない覚えているのは鳴り響いた銃声の音だ。ずっと耳にこびりついて離れない。
「体調大丈夫か?お前が憂鬱になるのもわかるよ、俺も入りたての時はよくストレスで頭を抱え込んでたさ。でもな、誰かがやらなきゃいけないんだ、むしろころをやってる俺らはヒーローさ、ほかのやつにこんなことさせずに済んでるし、手際もスマートだ」
「そいつがいまになっちゃ駄々こねて逃げようとするやつらにイライラして殺した後に死体撃ちをしているなんてな、俺にはただの屑野郎にしか見えないね」
「急にどうした?もしかしてあの女に惚れこんでたのか?そりゃご愁傷さまだな、そんなこともあるさ」
同僚はいつも余裕そうだ、人を殺しているのに、なれるというのはとても怖いことだとその時は深く思っていた。
「もういいさ、最後のノルマをやってもう帰ろう、ああ今手がふさがっているから次のやつが知れない見てくれいないか」
「・・・・ああ、そんな」
「おいおい!嘘だろ、、、なあ、見逃してくれないか、、、」
俺だって同じ気持ちだ!なんで一日に二人も大切な人を殺さなきゃいけないんだ!
「なんてな、そんなわけにはいかねえよなあ、でもなあすげえなあこれ、今まで死んでもしょうがねえっておもって執行対象を殺ってきたのに、今自分が執行対象になった瞬間そりゃおかしい!この制度は異常だ!っておもっちまった、、、ああだけどよお、こんな平和な時代に生まれて本当に良かったぜ、なあ兄弟、夢にはでないから一発でしっかりやってくれよ...」
震える手を抑え銃口を同僚の頭に向ける。
「しっかり殺れよ」
しっかりやれよ 外典 @unpichan88
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