第4話 

「や、やめてよ!」

満は待ち伏せていた男に腕を捕まれ、狂乱した。

「放して!!」

「うるさい!何で別れるなんていうんだよ!悪いところがあったら、直すから」

「もう付きまとわないで!」

「お願いだ!やりなおそう」

「ごめんなさい!私はっ」

「あの男が好きなのか!」

「違う」

「やり直そう」

「満さん!」

タイミング悪く、草太郎が飛び出してきた。

「くそ!」

ストーカー男が取り出したのはナイフだ。

「きゃ!」

ああ、俺死んじゃうのかな?と、草太郎が思った瞬間、視界を何かが遮った。

『煩悩退散!』

そこには尺上をもったお坊さんがいた。お坊さんは見事に尺上で、ナイフを弾き落とした。

「ナイフを持ち出すな」

そのお坊さんは、蒼月寺で見たことがある顔だった。名前は確か....。

「あなたは」

腰が抜けて、地面に座っている満は、突然現れた僧を見上げた。

「この男が、梅殿が言っておったストーカー男か?」

「は、はい」

満は慌てて頷く。

「私は都矢ともうす、坊主だ。梅さんに連絡をもらってな。君!」

突然現れた坊さんに、度肝を抜かれたストーカー男は焦った。

「な、なんだよ!」

「彼女のことは諦めろ。女なんぞ秋の空だ。移り変わる。海で魚がつれなかったと思って諦めろ。君にはこれをやろう」

何故か、お坊さんはストーカー男にお札を渡した。見ると、それは煩悩退散と書かれたお札だった。

「馬鹿なことは考えるんじゃないな」

噛んで言い含めるように言う都矢の隣で、あっさり満が言う。

「私が悪かった。はっきり言わなかったら、私あなたのことタイプじゃないみたい」

「ああ、そうかよ!てめぇみたいなぶすに興味ねぇよ!!」

態度が悪い男に、殺されそうになった草太は怒鳴る。

「........人殺し未遂で警察に突き出してもいいんだぞ!」

「わかった!もうしねぇよ!てめぇなんか嫌いだ!」

男は背中を向けていった。

「あやつ、警察に突き出したほうがいいかも知れんな。大丈夫か?」

心配顔の坊さんが草太の腕を掴んで支えた。

「あ、あの、梅さんからって」

「ああ、梅殿から蒼月寺に連絡がおってな。お前を見張っているようにと」

「、ありがとうございました。都矢さん」

草太郎が頭を下げた横で、満が泣き出している。

「大丈夫?」

心配した草太が声をかけると、満は頷いた。

「ごめんね」

「いや」

「ごめんね。巻き込んで」

「無事でよかった。でも大丈夫かな?あいつもどってこなきゃいいけど」

「戦う」

ぽつり、満は幽鬼のように呟いた。

「え」

「ナイフ持って切りつけてやる!」

「それ犯罪だから」

ストーカー防止は難しい。

「君が無事でよかった」

突然の声とともに、草太郎の肩に手を置かれる。振り返ると、そこには春日がいた。


「........遅い」

遅すぎる。春日が今頃来ても、正直いらない。

「遅いんだよ!」と、怒鳴り声とともに、息が荒い小梅のげんこつが春日の頭を襲った。

「梅さん!」

いつの間にか小梅がそこにいて、草太は驚いた。

「では私は行く」

坊主の都矢さんは、数十キロはあろうかという鉄の棒を担ぎ上げた。この人も小梅さんと同じ、もとはやくざなのかも。

「うちの子がお世話になりました」と、何故か春日さんが頭を下げる。

「ふん!お主にこそ煩悩札が必要なのかもな」

都矢さんの捨て台詞。


「僕、春日さんの子供になった覚えはないと」

蒼月寺は離婚した草太の父親は住職をつとめるお寺だ。僕は梅さんのいうように、蒼月寺でバイトすることにきめた。

梅さんの気持ちは届いているから。

「ごめんね」

満はまだひくひくしゃくりあげていた。

「いや」

「ごめんね。巻き込んで」

草太は満に手を握られた。少しどきどきする。いやものすごくどきどきする。

「別に」

「草太郎君、優しいね」

「いや」

「お二人さん、良い所悪いんだけどね、もうそろそろ夕飯だぞ」

小梅さんが面白くなさそうに、二人の間に入ってきた。

「そ、そうだ。....私、写真部なの。草太郎君の写真いっぱいとるからね♡」

にっこり満が微笑んだ。

「........。」

「浮気しないようにずっと、みてるから」

実は似たもの恋人だったりして。浮気するもなにも、その前に草太郎と満とは付き合ってないから。

「さぁ帰ろうか」

梅さんが笑顔で言う。草太は綺麗な夕暮れのなかで微笑んだ。

「うん」

日高神社に来訪者の呼び鈴が鳴った。

「ごめんください」

女の人の声が玄関からした。来客だ。見ると、まったく見知らぬ女性

だ。何のようだろう?

「はい?」

「ここに春日薫さんはいますか?」

「........はい」

応える草太の声が自然とトーンダウンする。嫌な予感がする。

「おや、美弥子さん」

トイレから出てきた春日がその女性を確認する。春日の知り合いらしい。

「あなたの子供ができたの」

「....僕の子?」

咄嗟に春日が発した言葉。高らかに春日の頬が打たれる音が玄関に響き渡った。

修羅場が展開される予感がした

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