第二夜「悪霊退散!」
寒いなと思って草太郎は寝返りをうった。なんとなく目を開けたそこには、ぬくぬく毛布をかぶった草太郎には見知らぬ男がいた。
「ぎゃぁぁああああ」
草太は、驚いて跳ね起きた。
「なんだい?うるさいな」
草太郎の見知らぬ男は寝ぼけ眼で、頭をかいた。
「うるさいじゃない!ここでなにしてるんだ」
「君、私はねているんだが」
「だからなんで俺の布団で寝ているんだよ!!」
草太郎の見知らぬ男。年齢は二十歳前後に見えるぐらいに若かった。
「うむ。私は金がなく行き倒れていたところ、偶然神社をみつけてな。ありがたくお世話になることにしたのだ」
「........あんた、それは不法侵入」
「不法親友と呼んでくれ。頼む。少しの間だけこの神社においてくれ」
この男。草太郎はどこかで見たことがあると思った。
「そもそもあんたは誰なんだ」
「私は春日薫。陰陽師を生業としているものだ」
草太郎は思い出した。この男は春日薫。テレビで遣っていた偽陰陽師だ。陰陽師とか嘘を言って、女性から金品をだまし取っていたという最低男。
「出ていけ!」
「いいじゃないか。君と僕は友人なのだし」
「....馴れなれしい」
「私は追われているんだ。この神社にかくまってくれたまえ」と、男はいった。
「なんでそんなに」
エラそうなんだと、続く草太郎の言葉は障子をあけて入ってきた小梅に遮られた。
「えらそうに言うんじゃねぇ!」
梅さんに倒れていた男は、頭をはたかれた。
「この男はな、顔がいいことに、おんなどもから金を巻き上げたってな、昼テレビワイドショーでやってたんだぞ。こんな奴おいてけるか!」
「お願いだ!ここに一晩でいい、おいてくれ」
男は、草太郎と小梅の前で土下座した。
「....梅さんどうしようか」
「男なら自分で決めろ!」と、梅さんに怒鳴り返された。
「........一晩でいいなら」
渋々草太は春日が神社に滞在することを、承諾した。
「ありがとう。このご恩は死んでも忘れん」
「....いえ忘れてください」
あまり草太郎はこの春日薫という男とは関わり合いにはなりたくなかった。というおまけもついた。
以上が昨夜の回想である。
草太郎は小梅が嫌だというので、春日の面倒をみることになってしまった。草太郎がつくった親子丼や味噌汁や漬物を、全部食い尽くすように平らげた。小梅と草太郎の分はなくなった。ただでさえ、日高神社はお賽銭が少ないというのに。
「草太郎君。ご飯のおかわりいただけるかな?」
まだ春日は飯を食べようとしているらしい。
「今日出て行ってくださいよ」
「冷たいな。君と僕とは前世で誓い合った友なのに」
前世で誓い合った友。
きもくていやだ。
どんだけこの男は草太郎に厄介になるつもりなのだ。
「勘弁してください」
草太郎だって友人を選びたい。
本気で草太郎が出て行けと言っているのに、春日は聞いてくれない。
「無銭飲食してんじゃねえ!」
小梅さんがやってきて、春日の頭を叩いてくれた。
「働いて返えすとも」
自信満々に春日は言うのを、小梅は怪訝そうに見た。
「お前、また女どもをだまくらかすつもりなんじゃないのか?」
「彼女たちは私に貢物をしてくれただけだ」
「........こいつは最低だな。ともかくさっさと出て行けよ」
小梅さんの意見に草太郎も賛同した。
「仕方がない。では草太郎君、今夜の私の部屋に案内してくれるかな?」
春日はお客部屋に案内することにした。
つぎの朝、梅さんは湯気立つご飯をよそって、正座でまっていた。
「梅さん、おはよう」
小梅に挨拶をし、草太郎は席に着く。
「飯だ」
「うん」
「掃除してけよ」
「うん」と、頷きながら草太は正座した。
「ああ!梅さん。あなたは今日もお元気で、早速私もいただきましょう!」
春日は叫んだ。朝から元気な奴だ。
「........女の敵に作る飯はねぇ」
「あなたほど頼れる女性はいません」
まったく意に介さない春日に、梅はため息をついた。
「その分働いてもらうからな」と、梅はそれだけ言っておく。
その時、テレビの音がやけに大きく響いた。
『お悪徳偽陰陽師!神社に訪れる!女ばかりの信者からお金を騙し取っていた春日薫容疑者は、ここ日高神社に潜伏している模様です!』と、そんなことをテレビのアナンサーが高らかに言っている。
「........。」
ガチャンと、梅のお茶碗をおく音がやけに大きく響いた。
「........」
「いやだなぁ。私がもてるからって妬んで」
何故か照れている春日。梅さんは立ち上がると、木刀をとりに行った。
「........僕行ってくるね」恐ろしいことが起きる前に、学校に行こう。
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