case.4-4
「先生! 先生!」
「せんせー。おーい、シスコン教師ー」
「こら。大きな声でシスコン教師って呼ぶな」
私たちは重大な事実に気づいてしまった心地で生徒会室へと走り勢いよく扉を開けたが、先生はなぜか隣の備品室から出てきた。まあ備品室といっても、いろんなものが乱雑に放り込まれているだけなので、ようはただの物置だ。
「先生なんでそっちいんの?」
「先生、あの」
「あ、待ってくれ。なんかすごく話したそうなのはわかるんだが、まずは俺から先に話してもいいか」
「え、なんです? 物置の片付けならしたくないですけど」
「それがな。さっきここにカトリーヌが来た」
「「は?」」
カトリーヌがここに? まさか、アランとアリアのことで本人自ら乗り込んできた? ついに全面戦争突入?
「そわそわした様子で廊下をうろついてたんだが、声をかけたら何事もなかったみたいに平然と受け答えされてな。しかも俺と話したいとか言い出して備品室に連れ込まれちまって。俺ちょっとあいつが怖くなったわ」
「そんな。密室で一体何を」
「言い方。まあだいたいは『私の婚約者であるアラン様は、アリアさんと仲がよろしいのでしょうか』って話だったな。意訳だけど」
「そこ詳しく」
「詳しくってお前。あー、『アラン様はいずれ生徒会長になるお方だとは思っていましたが、まさか一年生で生徒会入りするとは思っていませんでした。私は婚約者としてこれまでアラン様との時間を大切にしてきたつもりですが、最近のアラン様はとてもお忙しそうで。でも、同時に生徒会入りされたアリアさんとはいつも一緒におられるご様子。ええ、もちろん生徒会のお仕事を頑張ってらっしゃるのだということはわかっています。だけどそれでも婚約者としては不安というか、なんだか仲がよすぎるというか。そもそもあの2人を生徒会に推薦したのはユリウス先生だそうですね。さすがに1年生の1学期でというのは早すぎたのでは』」
「ごめん、もういいや」
先生が死んだ魚のような目をして淡々と語りだしたので、さすがに申し訳ないと思ったのか高橋は途中で話を止めた。どうやらカトリーヌは、ゲームと違った展開、というよりむしろ早い展開で進んでいってる今の状況に疑問を抱き、これまで溜め込んできた不満を散々先生にぶつけまくったらしい。お嬢様らしい、丁寧な言葉遣いで。助けのこない密室で、一方的に。確かにそれは想像しただけでも怖いわ。一種のホラーだ。
「まあでも、お前たちとかち合わなくてよかったな。最終的にはカトリーヌとの対決があるにしても、今この段階で修羅場っても何もうまくいく気はしない」
「そうだな。俺もあいつと修羅場とかごめんだ。中庭でリリーと話しててよかった」
「リリーに会ったのか!?」
「お、おう。食いつきすぎだぞシスコン教師」
「だって俺。というかユリウス。誠実で清廉な教師すぎて、思ったほどリリーと話す隙がないんだもん」
「先生がだもんとか言っても可愛くないぞ。それに傍から見てれば、先生はゲームのユリウスよりよっぽどリリーに話しかけてるように見えるけど」
「やっぱ俺ユリウス向いてないわ」
「あ、そうでした先生。そのことで話したくて私たち、走って生徒会室まで戻ってきたんですよ」
「ん? あの子の可愛さについて語り合う会を開くならお茶を入れるぞ」
「違います」
カトリーヌの衝撃が強すぎて忘れかけていたが、そもそも私たちは、さっき中庭で気づいてしまった事実について話すために先生のところに来たんだった。完全に話が逸れかけていたが、今はそんな話をしている場合ではない。生徒会顧問である先生は私たちよりもラルフとの付き合いは長いし、何か思うところもあるはず。
「さっき中庭でリリーがトランペットを吹いていたんですけど、その側で副会長、ラルフがリリーの演奏を聴いていたんですよ」
「ラルフが? そういえば、時々練習を見てやってるみたいだな」
「やっぱりそうなんですね。それで、ラルフとリリーが演奏について、もっとこうした方がいいとかすごく熱心に語り合ってて」
「2人が音楽のことについて話してるあの感じに、俺らすっげー見覚えがあって」
そこで私たちはいったん言葉を区切り深呼吸をする。なんだか緊張してきた。まるで一世一代の大告白でもするような気分だ。
「もしかして、もしかしてなんですけど」
「あのラルフって」
「もしかしたら」
「もしかしたら」
「高校であの子が所属していた吹奏楽部の部長さんなのではないでしょうか!」
言ってやった。言ってやったぞ。無駄に意味深にためたせいで緊張感が増してしまったけど、新たに転生者を見つけてしまったと思えばそうなるのも仕方ない。だってもしラルフが部長さんなら、カトリーヌ排除計画の仲間に引き入れることだってできるんだから。部長さんはあの子のことを可愛がっていたから、カトリーヌを排除すればそれは結果的にあの子のためになるとでも言えば喜んで手伝ってくれるに違いない。
なによりラルフが仲間になってくれれば、生徒会に対してこそこそ動かなくてよくなるからめっちゃやりやすい!
「ラルフが吹奏楽部の部長、か。実は俺もちょっと似てるなとは思ってた」
「やっぱり!」
「ただなー。あー」
「?」
先生も同じことを思ってたと言うのでいよいよ確定かと思ったけど、なんだかどうにも煮え切らない態度だ。何か気になることでもあるんだろうか。
「ラルフさ。現生徒会長のことを口ではいろいろ言いながらも内心すごく尊敬してるんだけどさ。ほら、3年生にして魔法省への就職決めた超人だし、この学院で生徒だったときの俺以上に優秀だとか言われてるし」
「ああ、なんか凄い人らしいですね。見たことないですけど」
「ゲームでも前の生徒会長とか出てこなかったもんな」
「それで、尊敬の人ってさ。憧れの存在じゃん。自分もその人のようになりたいって思ったりするじゃん。そうするとなんとなく、雰囲気とか言動とか似てきたりするじゃん」
「確かにそういうのってありますね」
「それで、俺。最初さ。もしかしたら生徒会長が吹奏楽部部長なんじゃないかと思ったんだよ」
「「!?」」
ここにきてまさかの伏兵が出てきた。部長さん候補が他にもいただなんて。生徒会長のことはいまだに見たことがないからなんとも言えないけど、ラルフも、生徒会長も、部長さんも、私たちより先生のほうが付き合いが長いから、先生がそう思った以上可能性は否定できない。それに、ラルフが生徒会長を尊敬してるが故に雰囲気が似てきたというのなら、そのオリジナルである生徒会長こそが部長さんであるという考えはとても納得がいく。
しかし、そう考えた本人はなぜか微妙な顔をしていて、また煮え切らない態度で唸りだした。
「ただなー。あー」
「なんですか。まだ何かあるんですか」
「いや、何ていうか。それこそもしかしたらって話なんだが。ざわっとすること言っていいか」
「なんだよ。すげー気になる言い方だな」
「ああー。あの、地震があった日。ほとんどの人間は素直に避難したのにアホな俺らは死んでしまったあの日のことなんだけど」
「何で言い直した」
「あの日の4限目、3年生は学年集会で体育館に集まってたんだよな。校舎から離れてるから多分、火災の影響とか受けないであろう体育館に」
「……ん?」
「いや、そもそも地震が起こったのって昼飯食った後だったし、4限にどこにいたとか全く関係ないかもしれないが。ただ……」
「……」
「あの日の3年生の学年集会。確かちょっと長引いて、昼休みの時間まで食い込んでたような……」
「「……え」」
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