case.4-3
そんなこんなで月日は巡り、ついに学期末試験の日がやってきた。一日目の筆記試験を余裕でこなし、今は二日目の実技試験。内容は、学院近くの森のあらゆる場所に設置された的を魔法で破壊するというものだ。制限時間は5分。大きさや強度がそれぞれ違い、大きくて強いものほど点数が高いらしい。そして、的を破壊すればするほど大量得点をゲットできるというわけだ。さらに、多彩な魔法を使うことでボーナスポイントも付くんだとか。
なんとも私たちに都合のいい試験である。ポイントの上限がないということはつまり、他者に圧倒的な差をつけることが可能ということ。膨大な魔力を持つ私たちは、大きな的でも強度が高い的でもなんでも壊せるので、ポイントを稼ぎ放題だ。
的の点数は10~1000点と幅があったが、目に入る的全てをひたすら壊しまくった。炎、水、風、土。技術は拙いかもしれないが、とにかくいろんな魔法を使いまくった。その結果、私もアランも5万点超えという超高得点を叩き出すことに成功し、周囲に強烈なインパクトを残して1学期の試験を終えたのだった。
「アラン・ルイスハーデンです」
「アリア・フローレスです」
「「よろしくお願いします」」
アランとアリアを生徒会に入れてはどうかというユリウスの提案は現役役員たちにすんなりと受け入れられ、私たちは無事に生徒会入りを果たした。まずは生徒会長に挨拶を、と思ったのだけど今は不在らしく、代わりに副会長が対応してくれる。そう。攻略対象でありあの子の推しである、ラルフ・ブラウンだ。
「あの、ちなみに、生徒会長はいつ頃戻っていらっしゃるのでしょうか」
「ああ……本当に、いつ戻ってくるんだろう」
「えっと?」
「あの人、ユリウス先生を超える天才と呼ばれていてね。3年生なのにもう魔法省への就職が決まって、優秀さを見込まれて引っ張っていかれてしまったんだよ」
「……それはなんというか。すごいですね」
「おかげで副会長の俺に全部仕事が回ってくる。だから正直、君たちが入ってきてくれてありがたい。大変かもしれないが、よろしく頼むよ」
「は、はい!」
「頑張ります!」
ラルフとリリーの関係がどのようになってるのかは気になったけど、疲れた様子で遠い目をしているラルフがなんだか可哀想だったので、この人のために仕事頑張ろうと純粋に思った。
学院行事の企画、運営。備品管理。予算管理。生徒からの要望吸い上げ。奉仕活動。
生徒会の仕事は多岐に渡り、想像以上に大変だった。生徒の自主性に任せると言えば聞こえはいいけど、ちょっと任せすぎだと思う。この仕事量を副会長、会計、書記の3人で回してたなんて、その3人が優秀すぎてむしろ怖い。去年まではさすがにもう少し人数がいたらしいのだが、ほとんどが上級生だったせいで結果的にこの人数になってしまったようだ。
誰だか知らないけど生徒会長さん、魔法省なんかに行ってる場合ではないですよ。生徒会の方がよっぽどあなたを必要としてますよ。もし私たちが予定通り来年生徒会入りしてたら、副会長たち絶対過労で倒れてましたよ。あなたまだ卒業してないんですから、早く帰ってきてあげてくださいよ。
おっと。つい生徒会びいきな気持ちになってしまったが、目的を見失ってはいけない。生徒会入りはあくまで通過点。本番はこれからだ。私たちはいよいよ、カトリーヌ排除に向けて本格的に動き出さなければならないのだから。生徒会の新入りとしてアランと一緒に仕事をすることが増えてきた今こそ、カトリーヌを煽る絶好のチャンス。ヴァイオリンの練習を一緒にしていたときよりもさらに周囲の目に触れやすく、親密さもより増して見えることだろう。
仕事はなるべくアランと共にこなし、時間を見つけては先生と情報を共有した。先生は先生でカトリーヌ排除のための計画を考えてくれていて、私たちは少しずつ、その計画を実行に移していく。正直私と高橋だけでは大したことは考えつかなかっただろうから、先生がそこら辺を全部担ってくれてすごくありがたい。いつもあの子のことしか考えていないくせに、こういうときは頼りになってやっぱり大人だなと思う。まあ、計画の内容は大人とは思えないようなとんでもないものだけど。
そうやって日々を過ごしていたある日のこと。どこからともなくトランペットの音が聞こえてくるのに気づき、いつぞやと同じ状況に私と高橋は顔を見合わせた。どちらからともなく中庭へと歩いていくと、たどり着いた先では思った通りリリーが演奏している。そしてその側ではやはりあのときと同じように、我らが副会長、ラルフが演奏を聴いていた。
あのときはなんとなくタイミングを逃してしまったが、やっぱりあの2人の関係は気になる。生徒会に入ってラルフとそれなりに仲良くなった今なら声も掛けやすいし、もしかしたらこれは絶好の機会なのかもしれない。高橋も同意見のようだったので、私たちはリリーが演奏を終える頃合いを見計らい、あくまで自然な様子で2人の方へと近づいていった。
「先ほどの強弱の部分。フォルテを強めるというよりは、ピアノをもっと抑えた方がいいのではないだろうか」
「でも、音量を上げた方が音に奥行きが出るかと……あれ、アリアとアラン様?」
「こんにちは、リリー。トランペットの音が聞こえてきたからもしかしてと思って来てみたのだけど、副会長と一緒だったのね」
「ええ、実は演奏を見てもらってて。前にここで練習していたときに偶然通りかかったラルフ先輩がアドバイスをくれて、それからこうやって時々見てくれるの」
頬を染めてはにかむリリーは完全に乙女だ。やっぱりそうなのか。ラルフが好きなのか。
「そうだ先輩。あのフレーズはどうでした?」
「かなりよくなったと思う。だが、もっとレガートに、滑らかな音の広がりを意識した方がいいかもしれない」
「なるほど。もう少しはきはきというか、重々しくいった方がいいかなとも思ったのですが」
「では、レガートを意識しつつも、タンギングをはっきりめにするというのは?」
「いいかもですね!」
輝く瞳で嬉しそうにラルフと話すリリーはやっぱり乙女……ん? 乙女、だろうか。推しへの崇拝は感じないこともないけど、なんか思ってたのと違うような。会話を聞いていると完全に音楽談議だ。音楽の勉強をしてきたおかげで2人が何を言っているかわからないということはないものの、このテンポにはついていけない。
これはなんというか。2人とも、ただの音楽バカだ。そして、その音楽バカたちの様子にふと既視感を覚える。私は前にも、こんな会話を聞いたことがあるような。
「あ、ごめんなさいアリア。つい先輩と話し込んじゃって」
「気にしないで。リリーが楽しそうだと私も嬉しいから」
「もう、アリアったら」
「あの、リリー嬢」
「はい、なんでしょうアラン様」
「よろしければ今度、俺たちとも一緒に楽器の練習をしませんか?」
「え、でもアリアとの時間を邪魔するわけには」
「アリアはあなたと一緒に演奏したい一心で、俺にヴァイオリンの教えを請うたのです。練習の甲斐あって、彼女の腕も随分上達しました。だからリリー。ぜひ、一緒に」
「まあ、そうだったのですね。それならそうとアリアも言ってくれたらよかったのに」
私が既視感の正体について考えていると、高橋がうまいこといってリリーの気を引きだした。私もリリーと一緒に演奏したいというのは同意なので構わないが、出しにされているようでちょっとイラッとする。しかもさりげなくリリーのこと呼び捨てにしてるし。まあいいけど。
そうしてそのまましばらく談笑を続けたが、リリーはもう少し練習したそうであり、副会長もそれに付き合うようなので、私は名残惜しそうにする高橋を促してその場を離れた。そして、生徒会室へと足を向けながら高橋に問いかける。
「ねえ、あの子が副会長と話してる様子。なんか見覚えがある気がしたんだけど」
「篠原もか。実は俺もそんな気がした」
「やっぱり?」
「ああ。そして思ったんだが。ラルフって誰かに似てないか?」
「え?」
ラルフに似ている人。あんな、一人で大量の仕事をさばきまくるような超人、そうそういないと思うけど。
「ほら、俺たちがよく知ってる人間にいただろ。クールな眼鏡キャラで、人の上に立つのが似合ってて、だけど音楽のことになるとどこか無邪気になったりして、あの子をかなり可愛がってた」
「……あっ! もしかして、吹奏楽部の部長さん?」
「それな」
あの子が所属していた吹奏楽部の部長さん。私たちのひとつ上の先輩。あの人はあの子の楽器の腕に惚れ込んでいて、よく面倒を見ていた。部長さんとあの子は違う楽器だったけど、中低音パートという括りで一緒に練習することが多かったらしい。演奏について意見を交わしているところも何度か見たことがある。そしてその時の白熱した様子は、さっきのリリーとラルフの様子と全く同じテンションだった。
今思えば、優秀なところや真面目な雰囲気、あの子を気にかける様子など、重なる部分も多い気がする。つまり、これって、まさか。まさか、ラルフって……。
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