第2話

「全く、よくこんな暗い部屋で作業できるな。アイ、明かりをつけろ」


マックがどさりとソファに腰を下ろした

命令をした音声に反応しAIにより暗い部屋が明るくなる

部屋が見渡せる

サックスとピンク色のテディベア柄を組み合わせたイラスト柄が壁一面に貼られ

ポップな子供部屋にも見える

照明はシャンデリア、アンティークな戸棚更には大きなハート型のソファ

ガラステーブルはステンドグラスがあしらわれた猫足

真っ赤な絨毯は毛が長く足音を吸い込む


キーボードを叩いているビッチはゲーミングチェアに座って作業しながら

急な光にまぶし気に目を細めた


「人の家を批判するならこの家で座らないでほしいし、AIに命令しないでくれる」

「は。家賃を払ってから言うなら聞いてやる」


ちっ、と舌打ちしたビッチ

そこからしばらく沈黙が続いた

マックは胸ポケットからタバコとジッポライターを取り出し吸い始めた

部屋が煙たくなる前に「アイ、空気清浄して」との呟きに反応して空調がうるさく動き出した


「なぁ、ビッチお前今無一文だとかぬかしてたが」

「だからなに」

「アイ、テレビをつけろ。このニュースじゃぁ儲からない方がおかしいだろ?」


壁一面にあるモニターからニュース画面が映し出された

速報 BITCH ANGEL社またの新作が売上世界一

ニュースキャスターが原稿を読み上げる

「世界シェアNO,1を誇るエンジェル社は最新のAIとグラフィックまた昨今主流となりつつあるVRの技術を駆使し発売から2ヶ月余りでゲーム売上金が歴代トップとなり記録を更新しました、経済的影響は更に伸びると考えられ・・・」


テレビに視線を向けることもないビッチに向き直りマックが非難した

「お前家賃払う気ねぇだけだろ」

「あらマック貴方馬鹿なのかしら。お金は使えばなくなるのよ」

「あ?笑わせるなよ、世界規模だぞ何億あると思ってるんだ」

「何億如きすぐなくなるわ。この家の電気代、内装改造、武器生産、あと会社運営費用に維持費でしょ?まぁこの服もその一つね」


ビッチがうっとりしたように服を見る。

レースで膨らんだスカートに可愛いウサギやテディベアのイラストがプリントされ肩口、袖、腰、裾に沢山のサテンリボンが縫い付けられたロリータ服を着ていた


胸元には大粒のダイヤモンド

幾重にも重なるレースと細い鎖がダイヤモンドを飾り、赤いルビーが薔薇の形にカットされ首の後ろを彩る


「今すぐ全部質に入れてこいよ」

「表現が古いわね、もう少しほかにないわけ?死んでも売らないわ」

「ならどうする気なんだ?」

「金金金・・・人生の大半をそんな低俗な考えで終わらせるなんて神への冒涜(ぼうとく)よ。貴方こそご自分の無駄な臓器を恵まれない誰かにあげたらどう?」

「毎日死体が出て臓器販売してるんだこれ以上忙しくなるなんてごめんだぜ。それでも借金が払いきらねぇから踏み倒しだ」

「安い命だこと、ああ世の中間違えてるわ」

「間違えてんのはお前だ、借りたもんは返せ」

「大体、家賃1ヶ月6000万は高いと思わない?」

「今更か?何年ここに住んでんだ」

「はぁ、本当にうるさいわね・・・当てはあるのよ。今販売してる新作ゲームを大幅アップデートする予定でそれで更に収入は入るわ」


アイ、とビッチが言うと画面が切り替えられニュースから数百もの部屋が映し出された

個々人がPCや3Dプリンターの前で何かしら作業を行い仕事をしている


「アップデートと仕事量が合わないのよ従業員も沢山雇うことにしたけどそれでも予定日に間に合いそうにないわ」

「そんなもんAIにやらせろよ」

「マック、そのAIを作成しているの。今回のオンラインゲームは選択肢が多すぎて制御できない。ついでにカスタマイズ機能もつけたせいで私も徹夜続きなのよ?」


ウンザリした顔をしたビッチの顔には明るくなることでよりハッキリし可愛い顔ながら目にクマが深く刻まれ肌も化粧で分かりにくいが荒れていた


「それはどうでもいいがいつそのアップデートとやらが終わるんだ」

「見通しは立たないわね。予告では4日後だけど現状ペースじゃ無理があるわ」

「おい、返済日は昨日だぞ寝ぼけてんのか」

「いま、それを言わないでくれる?何なら一円たりとも渡さないわよ」

「ならお前の身体切り刻むしかねーな」


マックが座ったままビッチに拳銃を向ける

「それをしても同じでしょ」と先ほど乱発した銃痕へ目線をむけ何かボタンを押すと天井から伸びたアームが穴が開いた箇所を修繕していく

「俺も他に案があるなら知りてーよ」頭を抱えるマック

「そうね」無関心にまた作業へ戻るビッチ

「あー、くそまた俺がボスにお小言を食らうんだ。どうしてくれる」


愚痴をいうマックに全くの反応もなくモニターが自動的にテレビ画面に戻る

ニュースが始まりキャスターが読み上げる


「現在の天気予報を告知致します___6時間後は降水量120㎜1時間と43分降水したのち晴れとなり晴れが続きます。報数秒の誤差が生じるでしょう


変わって自治ニュースです

新しいテーマパークがコンサムシティに登場し話題

BITCH ANGEL社製ゲーム、世界初無重力ジェットコースター、多岐にわたるアトラクションにはかの有名なゲイル氏も関わりなんとパーク内が現実にある水で満たされ水族館中を遊園しているような趣向が凝らされています

入場には厳しく規制が敷かれ最新AIによる認証が必要で

住民票IDを主としていますが外見以外の承認制を取り思考パターンを読み取ることでテロへの対策として…」


ビッチが急に立ち上がった

「……なんですって」

「あ?」


編み上げブーツに厚底の靴を踏み鳴らしソファの上を歩く

「おい、俺を踏むな」と言うがマックが腹を踏まれぐぇとうめいた

天井からケーブルを引き部品をつなぎ直す


「個々人の思考パターンが読み取れるなら今の作業が要らないわ

直接脳から指示すればいいのよ。ユーザーが思考するだけで選択肢が広がるわ」


ニュース画面がケーブルのせいか砂嵐を移す

画面の前に仁王立ちしたビッチが挑むように前を睨んで宣言した

「いい考えが浮かんだわ、マック。今から強盗に行くわよ」




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