bitch angel(ビッチエンジェル)

白井 くらげ

1章

第1話

雷鳴が轟く嵐の中、一人の少女が泣いていた

服や体には傷があり血や泥にまみれてボロボロそれでもなお

彼女は聞こえない声で叫び続けていた






磨かれた革靴で黒スーツにサングラスといういで立ちの男が片手に拳銃を持ち

怯えた誰かの頭に突き付けていた

「何か言いたいことはあるか?」

その問いには答えようとした頭は声を発することなく拳銃に撃たれて倒れた

しばらく眺めたのち


死体を足で踏み反応がない事を確認する


「どいつもこいつもなんで返せねぇのに金を借りるんだか」


独り言を呟き興味をなくしたがごとく歩き出し、重い溜息をついた


瓦礫と廃屋の街から寂れたビルの跡地

時たま片腕がない人間や

武器を持ちガラの悪い連中がうろついている

異常な風景にも慣れた風貌でサングラス男が街を闊歩していく


赤い鉄骨が組み合わされた建築物に入り、革靴でタップを踏んだ

すると何故か埃と土に隠された地面からピンク色に輝き

四角に切り抜かれた

闇の先へは階段が続き地下があることが知れる


何のためらいもなくその階段を下り姿が消えた

消えたと共に穴は自動的に板ガラスがスライドされ元の何の変哲もない地面に戻った


地下へ降り薄暗い通路では足元に明かりが照らされ廊下のみが光り他は何も見えない

足音を響かせていると赤い扉が見える


近づくと赤い扉にはポップなウサギや猫のイラストが描かれている

ふと足を止めると赤いレーザーが黒服の男を包んだ

頭上から機械音声が響く

「網膜、骨格、指紋認証可。声帯照合のためサンプルを発声ください」


「マックだ、マック・LP・スタッド」

吐き捨てるようにいう声に自動音声が答える


「マック様、ようこそBITCH ENGEL社へ」


しばらくし扉が音もなく開く

中は暗く、大きなホールになっていた


中央から吹き抜けの建物は見上げると天井が高く上の階とガラス張りの手摺が見える

ビルの中に似た風貌で目の前にはエレベーターがある


高層ビルほどの広さになるにもかかわらず人の気配はない

エレベーターに乗り数回あるボタンを押すと動き出した

浮遊感と振動が箱の中に伝わりチン、と目的地についた


扉が開くと廊下でなく部屋に直通していた

赤い高級感のある絨毯が敷き詰められ

テーブル、イス、ソファがあり更に奥には壁一面がモニターになっていた

数十メートルとあるモニターには白い文字でNO GEMEと表示されている


手前にはテレビ局にあるようなボタンとマイク、スピーカーやダイアルが所狭しと並んでいた


真ん中に一人の女の子が座ってキーボードを叩いていた

カタカタという音が薄暗い部屋に響き、部屋に入るマックに何の反応も示さない

その背中にマックが近づいて先ほどと同じように拳銃を頭に突き付けた

「死にたくなけりゃ、今すぐ金を出せ」

脅し文句にも背後に急に立った男にも驚くことなく作業を続ける

「このクソビッチが」


憎々し気につぶやいた後で拳銃が炸裂した

GAANNNNN!!!!!!!


派手に轟音が響きもうもうと拳銃から煙が立つ

が、女の子が頭から血を出して倒れることはなく気だるい態度で振り向いた


「うるさい、今すぐここから出てって。作業中なのよ」


くりんとした漆黒の瞳に

白い肌、可愛いらしい顔立ちに赤い唇

髪はピンク色に染められているが手入れを怠っているのかプリン頭だ


撃たれた弾は頭上から伸びてきていた機械仕掛けのアームによりはじかれ

壁に弾痕を残していた

2人ともそれを気にした風でもなく会話を続ける


「俺もいちいちお前みたいな悪趣味な家に来たくて来てねぇんだよ

帰ってほしけりゃ家賃払え」


「はぁ?見てわからないの?

その為に仕事してるのよ。あとこの死ぬほど可愛い家のどこが悪趣味ですって」


マックが何か言いたげに天井を見上げた剝き出しのコンクリートに大量の機材が固定されて更にはネジボルト、ナットで構成されるアームが動く

配線工事もままならないのか至るところで赤、青、白の配線が上から伸びている


「何か文句があるのなら二度とうちの敷居跨がないで」


「俺も家賃滞納者がいなくなれば二度と来ることもないんだが」

残念、とでも言いたげにマック

「誰の事かしら。でも私は今無一文なのよ」

「自慢する事じゃねぇよ撃ち殺すぞ」

「やれるものならやってみれば?」


両手を広げて挑発する女の子にマックが拳銃を数発撃つが機械のアームに阻まれ一つも当たらない


ニコリと微笑むとキーボードに向き直り作業を始めた

「いつか殺してやる」


「あらマックそれは楽しみだわ」


「このクソ野郎」


「私はクソ野郎じゃない、ビッチエンジェル。この会社の社長よ」

































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