第29話 真実への路



「それじゃあ、今日のプランについて改めて確認するわね。」


「ああ、」


 短く呟く。切り替えはできた。




 時刻は21時。この病院の消灯時間だ。


 ユキの言葉を思い出す。


「まずはアンタが21時になったら、ナースコールを押しなさい。それで、来た看護師をできる限り長く部屋に居させること。それだけよ。」


 簡単でしょ。とでも言うように作戦を告げる。


「その間に私がナースルームに侵入して情報を調べるから。」


「でも、待機しているのはナース一人じゃないだろ。それはどうするんだ?」


「それについては心配しないで。ミルとモノを使うから。」


「あいつらを?」


「ええ、あの二匹にはあることをやってもらうから。とりあえず、貴方は自分の役目を全うしなさい。」


 なんてこと言っていたが・・・・・いや、今はユキを信じよう。


 そう思ってオレはボタンに手を伸ばした。




 ユキ視点


 腕時計は21時を指している。予定通り病院全体が消灯される。


 ナースルームからは死角になっていて見えない受付のソファの裏に隠れている。


 ここなら気づかれない。後は、起こることを待つだけ。そう考えていた時・・・


 ビービーとナースルームから聴こえてくる。計画通りだ。


 一斉にナースが出てくる。その数は4人。全員出ていったことを確認する。


「よし、順調順調」


 足音をたてずにナースルームに近づく。そしてパソコンの中を確認する。


 しばらくの間この部屋に沈黙が流れ込む。10分ほどたっただろうか?廊下から看護師の足音が聞こえてくる。どうやら、タイムリミットらしい。USBにいれられるだけ、ファイルをいれて逃走準備をする。


「ミル・・・いる?」


 虚空に向かって呟く。


「うん。ここにいるよ。」


 そういって、パソコンの横に姿を見せる。


「モノが多くの部屋のコールボタンを押していってるから安心してくれていいよ」


「そう・・・でもここで退散ね、万が一見つかった時に面倒だから。」


 USBにデータを詰めるだけ詰める。パソコンにはLoadingの文字。それが消えるのを確認するとUSBを抜き取りナースルームを出る。そして、そのまま闇に姿を消した。




 天斗視点




 廊下から慌ただしい看護師の足音が聞こえてくる。


 ・・・なるほど、おそらくだが他の部屋でもナースコールをしているらしい。


 コンコンとノックの音。


「天斗さん?入りますよ。」


 さて、ここからはできる限りこの看護師さんを足止めすることに専念するとしよう─────


 入ってきたのは、このまえに病室で辻と話していた時に部屋を覗き込んだ看護師だ。


「ああ、すみません。」


「どうしました?」


 明らかに苛立ちと焦りを含んだ口調。無理もないだろう。一体どれほどの数の病室を回らないといけないのか。


「ええっと、トイレに行こうとしたんですけど急に身体から力が抜けてしまって、そのうえ、吐き気が少々しまして。」


 でっちあげの嘘にしてはまあまあではないだろうか。


「えええ!?どうしましょう!?」


 なんだか・・・・凄い驚いている。


「ええっと、こういう時どうすればいいんですっけ?」


 ─────── いや、こっちに振られても困りますよ。・・・・なんだろう。大丈夫だろうか、この看護師さん。


「ああ!ごめんなさい。天斗さんに訊いたってしかたないですよね。


 私最近看護師になったばっかりでして。えへへ。とりあえず、先輩呼んでくるんで、ちょっと、待ってて。」


 と部屋から出ようとする彼女。口調とか色々と突っ込みたい気持ちを抑える。


 ナースルームに戻らせるわけにはいかない。


「すみませんけど、とりあえずトイレに行きたいので、肩貸して付き添ってもらっていいですか?」


 我ながらすごい恥ずかしいことを言っている自覚はあるが、背に腹はなんとやらだ。


 杖を持って、部屋を出る。彼女は僕の左側に立ち、支えてもらっている格好だ。歩きにくいがこの場合は都合がいい。


「大丈夫ですか?」


 横から声を掛けてくれる。ふと、胸元を見ると名札に「神戸奈緒」と書かれている。


「ええ大丈夫です。」


 適当に返事を返す。すこし、柑橘系の匂いがした。

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Saving World @zerozero114

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