第28話 真実への路

「それじゃあ、何かあったらナースコールをしてくださいね。」


そういって看護師さんが部屋から出ていく。その笑顔があまりにも素敵だったものだから。僕も手を振って見送りをする。


僕は今椿原市民病院で入院をしています。別に体調が悪いわけじゃない。その理由は


「おーい天斗、見舞いにきたぞ。」


こちらの返事を待つことなく入ってくる無礼者がいた。


「せめてこっちの返事を待ってから入れよ。もし、着替えでもしてたらどうするんだ。新司。」


「そりゃ、女性の着替えなら見るに決まってんだろ。」


犯罪宣言をしながら入ってくる新司と


「相変わらず仲いいわね。二人共。」


瑞希がいた。二人共大学の帰りのようだ。


「新司はいいとしても、瑞希まで来てくれたのかありがとう。そして、久しぶり。」


瑞希に会うのはあの日以来だから一ヶ月ぶりになる。


「ええ、久しぶり。でも、まさか病院で会うなんて思わなかったわ。」


「そうだよな~まさか、天斗が倒れて病院に運ばれたなんて信じられないよな。いや、でも前なんかおかしかったからな?」


ケラケラ笑いながら茶化すように言う。新司なりに気を使っているということだろうな。チャラそうに見えて意外と気配りができるからな。


「それで、天斗具合はどうなの?」


こちらは完全に心配しているようだ。


「ああ、検査で問題はなかった。けど、経過観察ってことでもう暫く病院生活かな。」


「そう、まあ、元気そうに見えたから。これでも、結構心配してたんだよ。教授から聞いた限りでは結構重症みたいに聞こえたから。」


「まあ、それもいつもの取り越し苦労だったわけだけどな。やっぱ、適当言ってやがったか。」


「はは、教授らしいな。」


実は教授には本当に重い病気であるかのように伝えてたなんて言えないよな。


「まあ、元気そうでなによりだな。その様子だったら土産はいらなかったかもな。」


どうやら見舞い品を買ってきてくれたらしい。提案したのは瑞希だろうがな。袋がいかにもって感じのものだし。新司が買ってくるとしたら・・・・なんだろうか。エロ本とか買ってきそうだが・・・さすがにな。


「せっかく、良さげなエロ本を買ってきてやったのによ。ナースのやつなんだが。」


・・・・・・・・マジで買ってやがった。信じられねえ。


「・・・・ク・・・・クク」


隣の瑞希は笑いを堪えるのに必死のようだし。


「瑞希、どうして止めなかった?」


「ハア~ハハハッいや、さ・・・なんか面白そうだし・・・ププ。まあ、良いかなって」


ダメだこいつら早くなんとかしないと・・・・


「まあ、メインの紹介はこれで終わりにしてほら、果物の盛り合わせを買ってきたぜ。」


同じ袋から丁寧に包まれた果物が姿を見せる。メインとサブが逆だろうというツッコミは置いておく。


「ありがとう。せっかくだからみんなで食べよう。少し話もしたいしさ。」


「いいね~そうこなくっちゃ。」


「じゃあ、ちょっとそこの大きめのテーブル借りるわね。それにしても、個室なんていいご身分ね。」


といいながら、瑞希は手際よく果物を裁いていく。5分も立たないあいだに全ての果物が皿に盛り付けられている。果物ナイフや皿を持ってきたことからここで食べることは二人の中では確定事項だったらしい。計算高いというかなんというか・・・・


そんなことがありながらも僕たちは会話を楽しんだ。


久しぶりだったこともあったせいか会話は途切れることなく進んでいく。


「それで、教授のヤロウ、俺の卒論を感想文だなんてぬかしやがったしよ・・・・・」


「そしたら、私ナンパされてたみたいだから・・・・思いっきりぶん殴ってやったわ。」


「さらによ、最近大学でうわさになってるのがあって・・・・」


「でも、それがデマってことが解って・・・・」


「ええ?いやほんとだってきいたぜ?」


「・・・・・・」


どうやら、自分が知らないうちに普通の日常は流れてしまっているようだ。


それを今、強く実感した。もう、こいつらと今まで過ごした4年間のようには付き合えない。


──────後悔はない。自分で選んだ道だ。


だけど、この時間、この刻だけは・・・・




時間は楽しいときほど早くすぎるという。あっという間に夕方だ。


「じゃあ、俺たちはそろそろお暇するよ。」


「そうね。・・・・それじゃ、天斗お大事に。」


「ああ、ありがとう。気をつけて帰ってくれ。」


感謝を述べる。


「それと、本は貸してやるから。感想をまた聞かせてくれ。」


新司が近づいて本を渡してくる。


「特にこのページが最高だから、紙挟んでおくな。」


なんてお節介。それを瑞希の前で堂々と行う肝の座り具合。やっぱ凄いなコイツ。


そして、例の本を押し付けてくる。


「じゃあ、キチンと読むんだぞ。また、感想を教えてくれ。」


そういって、二人は部屋から出ていった。


先程の賑わいが嘘のように静寂だけが部屋を支配する。


─────────────


─────────────


─────────────


さて、それじゃあ、読書でもしますか。


僕は寝転んで、新司から渡された本を開く。


「どれどれ、アイツが言ってたページはっと。


・・・・・なんだ単なる広告ページじゃないか。ページ間違えたんじゃないか。」


付箋代わりに挿れられていた紙をどける。


・・・・そこには文字が書かれていた。


「最近、瑞希の様子がなんかおかしい。厳密に言えば瑞希の周りがおかしなことが起きている。」


「詳しいことはまた連絡するからその時に」


そう書かれていた。


瑞希がおかしい?そうつぶやいた瞬間あの夜の出来事が思い出される。


あの夜。僕がSWを手に入れた日。そしてきっかけは瑞希に似た人を追っていたから・・・


あの時はそれどころではなかったから、忘れていた。もし仮に、仮に瑞希があの夜大学にいたんだとしたら。もしかして、SWを持っているんじゃ。そしておかしいことっていうのが粛清の結果なのだとしたら・・・


「「コンコン」」


「入るわよ~」


・・・・ユキが入ってきた。が、なぜか入り口で止まっている。化石のように微動だにしない。彼女の視線は僕・・・・の持っている本に向いている。


「・・・・あ!」


今更ながらこの状況のまずさに気がついた。お見舞いに来て、その相手がのんびりと寝転んでナースがどうのと書かれたエロ本を寝込んで読んでいたら誰だって彼女みたいな反応になるだろう。


「えっとこれは・・・その僕が買ったものではなく、お見舞いに来てくれたともだちが買ってきたもので・・・だから、そんな卑しい意味なんてまっったくなくてえっと、だからその・・・」


必死に弁明する。全部本当のことなのになぜか嘘っぽく聞こえる。一種のお約束というやつだろうか。そんな弁明をしている間にユキはこちらに近づき、椅子に腰掛ける。そして、


「別に気にしてないから。天斗が自分の病室で欲情していようが、ナニしていようと自由ですものね!!」


明らかに気にしている発言に聞こえるがこれもお約束だろうか。


「とりあえず、これは私が責任を持って処分しておくから安心して!」


・・・・・・・取られてしまった。せっかくのお見舞い品が。


「貴方、入院した目的忘れてないかしら?」


ユキの言葉でスイッチが入る。・・・そうだ、これは遊びではなかった。


「大丈夫。ちゃんとわかってるからさ。」


「だと良いんだけど。」


そうオレが病気だなんてのは真っ赤なウソだ。オレが入院した理由は・・・・


辻について調べること。そして、真実を知ることだ。


そのために潜入捜査まがいのことをする。


「それじゃあ、今日のプランについて改めて確認するわね。」


頭のスイッチが完全に入る。そこには・・・もう、先程の紙の件など頭のエンジンの前に白紙かされていた。

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