第22話 いま、救いの刻
ベッドから身体を起こす。時刻は7時前。大学も休みだからもう一眠りしても許される時間だ。
───── とはいえ、今日はもえるごみの日だ。部屋中溜まりに溜まったゴミを処分しなければ、ゴミ屋敷ならぬ、ゴミマンションになりかねない。
と思いながら、ゴミを片付けていく。部屋を出て、一階に降りれば、回収スペースがあるのでそこまで持っていくというのがこの辺りのルールだ。
「っと」かなりのゴミの量だったから疲れてしまった。やはり溜めるのは良くない。
「おや、三上さんおはよう」
「!!」
後ろから声を掛けられびっくりした。まさか、こんな朝早くからゴミ出しをする人がいるとは思わなかった。回収時間はたしか9時頃だったはずだ。
「おはようございます。高田さん」
声をかけてきた人は同じマンションに住む私と同じ階に住んでいる高田清さん
同じ階ということもあり、なんどか顔をあわせたりする。
「朝早いんだね。大学かい?」
「いえいえ、たまたま目が覚めてしまって。高田さんこそお仕事ですか?」
「そうなんだよ。最近働き詰めでね。今日もこれから出社だよ。」
「・・・大変なんですね。」
「まあね、でも仕方ないかな。そういうもんなんだよ。」
どこか諦めた声を吐き出す。その姿が─────とだぶってしまう。
「あの~差し出がましいかもしれませんが、その、きちんと休んだほうが良いと思いますよ」
「はは、そんなに疲れているようにみえるか~。そうだね、きちんと休むことも仕事の内だね。」
──── 違うそんなことが言いたいわけじゃない。もっと、休め。仕事なんかサボってしまえ。そう言いたかった。
「でも、大丈夫。僕こうみえても体力には自身があるんだ。」
そうじゃない、心が心が悲鳴を上げてるのに気づかないんですか?
「それに、子どもも今年高校受験と中学受験の両方が控えている、マンションのローンもあるからね、仕事を休むわけにはいかないよ。」
それは優しそうな声だ。そして、他人の否、家族の為にという強い意思を込めた言葉だった。
止める理由も見当たらないため私は彼の背中を見送ることしかできなかった。
────家に戻ってシャワーを浴びる。40℃といつもより熱めのものを浴びる。熱が昨夜のこと全てを思い出させる。
「私の力・・・か」
この力をどう使っていけば良いのかまだ決断ができない─────。たとえ、人を殺さないにしてもそうだ。ほぼ永眠状態にできるこんな危ないものはない。今更ながら、昨夜あんな男でも粛清してしまったことが引っかかる。
「いくら虫でも、虫には虫なりの命があるわよね。」
思い出したくない。頭を切り替えようと、シャワー温度を上げ、シャンプーを普段よりも多く使って、頭を掻く。
風呂場から出て、ドライヤーで髪を乾かす。長い黒髪がその熱を失っていく。
「────ねえ?あなたいつまでここにいるつもり?」
パソコンの上で四つん這いの姿勢でうずくまっている。
それは、一度首をキョロキョロさせたあと、もしかしてボクのことかい?と手?みたいなものを自身に差していた?
「そうよ、アンタのことよ、ミル。」
「そうだったのかい、う~んまだ、きみたちの言語には馴染めていないみたいだね。」とまるで、ロボットで情報がインストールされていないかのごとく言った。
「いつまでって、そりゃ、ずっとだけど。なにか問題があるかい?」
「大アリよ。アンタみたいな意味不明なものがいたら気になるでしょ?」
「・・・・ああ、大丈夫、大丈夫。ボクの姿はSWを持っている人にしか見えないから。」
「・・・・・・」どうも、話が噛み合わない。
「あのね、他人がどうこうではなく、私の話をしているの!」
「きみがボクと一緒にいると不都合があるのかい?伝え忘れたけど、ボクはこの世界の動物とは違って食事は必要ないから養育費はかからないよ。」
なんでそういう話になるのか、どうやらこの生き物にはきちんと伝えなければならないらしい。人間らしい忖度も必要ないということだろう─────
「アンタ、邪魔だからどこか行きなさい。」
「なんだ、そういう意味だったのかい。だったら、すぐにそう言ってくれよ。」
と言ってすたすたと壁に向かって消えていった。
ようやく、一人になれた、なってしまった。
ソファーに横になって、これからのことを考える。これからとは、勿論、SWのことだ。
「もし、───ど──れを───たら」
「──しは───なる───ろう──せかいを───ため──え─許される─────か」
「─イヤ、───わた────ら──れを───ゆる─だろう」
聞いたことがない言葉で語られる。それはまるで呪文詠唱のようになんども、なんども、なんども、なんども、なんども、なんども、なんども、
プツンとなにかが切れる音がした。その音は最近良く聴くようになったあの音。思い出せるのは昨日の・・・・・・・・・・
─────思考がショートした。
目を覚ますと夕方だった。
「やらかした・・・」
低い声で呟く、陽は落ちかけている。一日をすっかり無駄にした。だというのにまるで、徹夜で勉強をしたかのような徒労感を身体全体で感じている。
「仕方ないか・・・」
財布とスマホをカバンに入れて。部屋をでる。
車に乗ってマンションを出る。行き先はいつものスーパーだ。ここの中に入っている喫茶店の名物ジュースが疲れた身体によく効くのだ。
車で15分道が混んでいたせいで少々掛かったが目的地には着くことができた。
16時46分に到着。喫茶店は18時30分まで開いているが、材料がなくなってしまうと、そこで店仕舞いだから、早く着くに越したことはない。
そこで、目当てのジュースと併設されたスーパーで食品、日用品を買って帰る。
「ピーポーピーポー」
それだけなのに、私の心に暗雲が掛かっていた。
帰り道。救急車の音が耳にこびり付いていた。
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