第8話 嘘つき

「それじゃあ、早速説明したいんだけど・・・」


「ああ、ここでは場所が悪いね。それに、時間も・・・」


 既に時計の針は12を回って6を指していた。


「そう?私はこれくらい平気だけど・・・あ、天斗はそういえば、夜弱かったけ?夜ふかししないのは相変わらずね。」


「悪かったな。夜弱くって。」


 意地になってるのが、自分でも分かる。


「別に責めてるわけじゃないから、安心して。それに、変わってないところもあって安心した。」


 彼女はそう言いながら、スマホを取り出す。そして────


「はい。これ。今の私のLIMEのアドレス。これから、必要でしょ。早く読み取りなさいよ。」


「ああ、そうだね。」


 スマホを取り出して、画面を開く。


 瞬間画面に映る。


 SWのアプリ。


「あわわわわわわ。」


 これまでにない慌てぶりを披露してしながらスマホを引っ込める。


「ちょっと~どうしたのよ?・・・ああ、そゆことね?」


 いたずらを思いついた少女のような顔になる。


「ち、ちがうぞ。三上さんが思っているようなことじゃないから。」


 実際、違うのだがこの慌てぶりは逆に証明しているようなものだ。


「うんうん。気にしなさんなって。天斗も男だもんね。仕方ない仕方ない。」


 弱みを握ってとっても嬉しそうな彼女。


(まあ、このまま誤解させておくほうがいいか。真実を教えるわけにはいかないからな。それに・・・)


「ゲフン。」


 咳払いをして、話題を戻す。


「じゃあ、撮るぞ。」


「はいはい。どうぞどうぞ。」


 ホントに嬉しそうな顔と声だ。


「ピコーン」


 無機質な音がする。


「じゃあこれで、連絡手段はついたわね。よし、また明日、いや日付が変わったから今日か。うん、今日資料送るから。」


「あのさ、ネットでやり取りすると、色々面倒だろ?オレとしては直接みたいんだけど・・・」


「それもそうね、ハッキングとかされてるかもしれないし・・・・分かった。だったら、今日の15時に駅前のカラオケボックス、ハイドに集合ね。」


「ああ、それが良いと思う。てか、ハッキングとかできるの?」


「そりゃあ、できるでしょ。変な広告やメール出して、そこをクリックさせれば簡単よ。」


 ・・・・心当たりがある気がするが。


「それじゃ、解散。時間に遅れないようにね。」


 レシートを持って彼女が出ていく。


「あ、送っていこうか?」


 いかがわしい気持ちゼロで訊く。しかし、


「大丈夫よ。さっき、タクシー呼んどいたから。」


 いつの間にと思うが、要領の良い彼女のことだ、僕が気づかなかっただけだろう。


 店を出ると、タクシーは既に来ていたようで、彼女はそれに乗り込んでいく。


「駅前のカラオケボックス、ハイドに15時ね。忘れないように、遅れないように、ね。」


 念押しするように言う。


「大丈夫。それに今までだって忘れたり、遅れたりしたことなんてなかっただろ。」


「そうだったかしら?まあ、でも、嘘はつかなかったから、大丈夫かしらね。」


「・・・・」


 どこか、含みのある言い方に聴こえるのは僕に問題があるのだろうか?


「それじゃ、おやすみなさい。」


 タクシーの窓越しに別れを告げる。


「おやすみ。」


 ───言い慣れない言葉で違和感がある。最後に言ったのは果たしていつ以来だろうか?

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